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新感覚ホラー『女蛹之人皮嫁衣』

文・写真=井上俊彦

ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

日本人には怖いと思えない中国ホラーだが

中国でも最近はホラーがけっこう制作されていますが、本当に怖~い日本のホラーを見てきた者には、どれもいまひとつです。途中がそれほど怖くない上に、最後に「なーんだ、そんなことだったのか」と思わされることが多いのです。たぶん、レーティング(年齢制限)のない中国では倫理コードがきついのでしょう。

それでも多数制作されるのは、たまにヒット作が出るからです。2年前に『孤島驚魂』が、人気アイドルのヤン・ミー(楊幂)を起用したことが成功し、1億元近い興行成績を上げました。2匹目のどじょうをねらった続編が先ごろ公開されましたが、主演が変わったことや、同じパターンでは刺激が少ないためか、残念な結果になりました。それに続く公開となったのが、中国ホラーとしては新感覚の『女蛹之人皮嫁衣』です。

駱嘉(レン・チュアン)をめぐる三角関係から、バレンタインデーに関文馨(チャン・ロンロン)は、友だちの安妮(イエン・チエンチエン)に薬を飲まされ誘拐されます。そして気がつくと5月になっており、3カ月間の記憶がありませんでした。安妮は失踪しており、文馨の身の回りでは次々と不思議なことが起こります。彼女は自分が安妮を殺害し、その自責のために人格分裂を起こしているのではと自らを疑うようになりますが……。

   節分に雪が降った北京だが、星美国際影城・北京金源店は年末に地下鉄10号線の長春橋駅が開業し、天気を気にせず行けるようになった

金馬賞ノミネート女優がホラーに挑戦

監督は上海義劇学院で映画監督を専攻後、広告などで活躍してきたようで、劇場映画はこれが初作品ということです。ホラーというより、悲劇的サスペンスという趣で、かなり練られたストーリーだと感じました。もちろんこういう作品ですから非現実的な部分も多いのですが、びっくりシーンだけで、ロジックも何も無視という作品ではありません。ただし、デートで訪れた女性が隣の彼に「きゃっ」とすがりつくような場面は少なく、逆に映画館を出る時に男性が「女性って怖いよね」と心の中でつぶやきそうな結末です(苦笑)。

   金源時代ショッピングセンターでは「MALL廟会(縁日)」の屋台が。これは単なるショッピングセンターの催事ではなく、正式の廟会として行われているもの    北京でも唯一の室内式廟会は元宵節まで行われている

そして、主演したチャン・ロンロンの演技が光りました。彼女は、昨年の東京国際映画祭でも上映された『光にふれる』(逆光飛翔)で台湾金馬賞主演女優賞にノミネートされるなど、今注目の若手女優です。フランス人を父に持つハーフの美女ですが、この手の作品によくあるお色気シーンで引き付けるのではなく、ふたりの女性をうまく演じ分け、演技で魅力を放っています。なお、結婚式が重要なシーンとして入っていますが、私生活でも歌手のブルー・ジェイ(紀佳松)との婚約を発表しました。

ストーリー上ロケ地は重要なポイントではありませんが、上海ならではの風景が数々登場し、独特の魅力となっています。といっても外灘や南京路などの有名観光スポットではありません。事件の舞台となる部屋は淮海路にある1920年代に建てられた武康大楼というアパートです。これに下町の路地、豪華なブティックホテル、別荘など新旧の景色を配することで、無国籍で時代感覚がはっきりしない独特の世界観を演出しています。水郷のシーンが挿入されていますが、上海で有名な朱家角などではなく、金山区の楓涇古鎮を使った点にも監督のこだわりを感じます。

   冬休みに入って子ども向け作品が多数公開されており、映画館のロビーには親子連れが目立った    ロビーにはバレンタインデーに向けて公開される『101次求婚』(101回目のプロポーズ)のディスプレーも

ところで、子どもたちが冬休みに入り、春節も近づく映画館には、家族連れが目立ちました。木曜日から、インスタントメッセンジャーQQのテンセント社が映画界に参入したことで話題のアニメ『洛克王国2聖龍的心願』と、人気の変身ヒロイン特撮ドラマ『巴啦啦小魔仙』の劇場版が公開され、星美国際影城でも満席の回が出るほどの人気でした。すでに公開中の『喜羊羊與灰太狼之喜気羊羊過蛇年』を加えるとこの週に3作で9000万元以上を稼ぎ出した計算で、映画における子ども向け市場がまったく無視できない存在になっていることを証明しました。

【データ】

女蛹之人皮嫁衣(The Chrysalis)

監督:チウ・チュージー(邱処機)

キャスト:チャン・ロンロン(張榕容/サンドリーナ・ピンナ)、レン・チュアン(任泉)、リー・ウェイ(李威)、イエン・チエンチエン(厳千千)

時間・ジャンル:98分/ホラー・サスペンス・恋愛

公開日:2013年2月1日

久しぶりに訪れた星美国際影城はすっかり改装されていた。ロビーはすっきりと広々としている

星美国際影城・北京金源店

所在地:北京市海淀区遠大路1号金源時代ショッピングセンター5階東道

電話:010-88878696

アクセス:地下鉄10号線長春橋下車、A口から西へ徒歩1分

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年2月5日

 

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