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はしご見『十二生肖』『大上海』

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

『泰囧』を上回るジャッキーの最新作

2012年の大晦日、映画仲間といっしょにジャッキー・チェンの最新作『十二生肖』とチョウ・ユンファの最新作『大上海』をはしご見しました。

年末の30日に地下鉄6号線が開通したほか3線が延伸し、北京の交通はまた一段と便利になった

映画館を訪れると午前中にもかかわらずチケット売り場には長い行列。その大きな原因は、国産映画興行記録をすでに塗り替えている『人再囧途之泰囧』です。年末までに約10億元の興行成績を記録し正月休みにもまだこれを見ようという家族連れが詰めかけています。これまでの記録は『アバター』の13億9000万元ですが、これにどこまで迫るのかが話題になるほどの大ヒットです。

今年は寒い日が多い北京、地下鉄6号線北海北下車すぐの前海はすっかり凍結していた。右手に見えるのは鼓楼

そして、年末になって『泰囧』を単日では上回る興行成績となっているのがジャッキー・チェンの最新作『十二生肖』です。以前、北京の円明園から持ち去られた十二支の像の首がオークションにかけられたことがありましたが、ジャッキー率いる怪盗チームがこの十二支の像を盗むという痛快アクション・コメディーです。いかにもジャッキーというおなじみのアクションが3Dの大迫力で展開されていますし、グオン・サンウ、リャオ・ファン、チャン・ランシンなどの個性的な仲間たちにもそれぞれに見せ場があり楽しめます。ヒロインのヤオ・シントンは文化財保護団体のメンバーという設定です。ゲストも多彩で、最後のシーンでは思わぬ人物が登場するなど観客に対するサービス精神が徹底しており、この点でも話題を集めています。また、かつて中国から持ち出された文化財を取り戻すなど、ハリウッドではなく中国人の視点で物語りが進められているのも支持された理由のひとつかもしれません。

てんこ盛りエンターテインメント作

この日、はしご見したもう1作の『大上海』は、バリー・ウォン監督らしく見どころてんこ盛り作品です。20世紀前半の上海で成り上がるボス成大器(若き日をホアン・シャオミン、中年時代をチョウ・ユンファが演じ分けています)とそれを取り巻く人々の愛憎の物語ですが、魔都・上海を舞台にアクション、陰謀、義侠心、恋愛など多彩な要素がこれでもかと盛り込まれた娯楽作品は正月にぴったりで、見終わった後は「おなかいっぱい」という感じでした。

特に、印象的なのは魅力的な人物が次々と出てくることです。まず、若き日に大器に助けられ、彼のためなら命も顧みない林壊を演じるガオ・フー(高虎)のかっこいいこと、無口で強く義理堅い、昔の日本のやくざ映画にでも出てきそうな人物をクールに演じていました。次に、大器の妻となる若き日の亜宝を演じたトン・フェイ(童菲)は同監督の秘蔵っ子というだけあって、可憐なだけでなくなかなか目に力がありました。一方、成人してからの亜宝を演じるモニカ・モク(莫小棋)は、このところコメディー映画のお色気部門担当というような出演もあったのですが、今回は観客を泣かせる素晴らしい演技でした。

これらの人々が命を投げ出しても義に報い、愛を尽くそうとする、魅力ある男を演じるチョウ・ユンファですが、スクリーンからオーラが出ているように思えるほどの存在感、ほかの人には演じられないキャラだと感じてしまいました。ちなみに、普通話版では大器の若いころを演じるホアン・シャオミンが、後半の声も担当しています。チョウ・ユンファの顔にホアン・シャオミンの声というと、奇異な感じを持たれるかもしれませんが、これがよくなじんで違和感がありませんでした。公開当初は大ヒットの『泰囧』と『十二生肖』の陰に隠れる形になってしまった同作ですが、その後じわじわと成績を伸ばしているようです。

星美国際影城・北京望京店は会員専用コーナーもあるなど、顧客サービスには特に力を入れている

チケット売り場のようす。ヒット作が集中したこの年末は、各映画館で行列が見られた

それにしても、大勢の人と一緒に見ると、コメディーはより笑えるような気がしますし、アクションはよりワクワクします。ホールを出ると、チケット売り場の行列は入場時よりはるかに長くなっていました。全国興行収入総額は12月1カ月間で20億元を上回り、年間では168億元となったようです。というわけで、次回は観客の立場で2012年を総括してみたいと思います。

【データ】

十二生肖(CZ12)

監督・主演:ジャッキー・チェン(成龍)

キャスト:クォン・ サンウ(権相佑)、ヤオ・シントン(姚星彤)、リャオ・ファン(廖凡)、チャン・ランシン(張藍心)

時間・ジャンル: 122分/アクション・アドベンチャー

公開日:2012年12月20日

 

大上海(The Last Tycoon)

監督:バリー・ウォン(王晶)

キャスト:チョウ・ユンファ(周潤発)、ホアン・シャオミン(黄暁明)、サモ・ハン(洪金宝)、フランシス・ン(呉鐘宇)、ユアン・チュン(袁泉)、ユアン・リー(袁莉)

時間・ジャンル: 107分/ドラマ・アクション

公開日:2012年12月21日

 

星美国際影城・北京望京店は、北京市の北東部にある望京国際商業センターA座内にある

同シネコンは2006年の開業で、7000平方メートルを上回る面積、7つのホール合計で1130席の収容能力を持つ

星美国際影城・北京望京店

所在地:北京市朝陽区望京街9号望京国際商業センターA座4階

電話:010―59203788

アクセス:地下鉄10号線三元橋下車、918路などのバスで大山橋東下車、望京街を西へ徒歩4分

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年1月4日

 

 

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