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中国映画の2012年を振り返る

文・写真=井上俊彦

1年間このコラムをご覧くださいましてありがとうございました。2012年は80本を上回る作品を映画館などで地元・北京の観客とともに鑑賞し、そのうち33の作品についてご紹介してきました。そうした経験から、2012年が中国映画界にとってどんな年だったかを振り返り、1年間映画館に通い続けて感じたことを総まとめしてみます。

興行収入は今年も約3割増と絶好調

2012年も好調が続いた中国映画界です。2008年に42億元だった興行収入総額は、62億元、102億元、131億元と来て、2012年は171億元となりました。4年で4倍以上になっているのです。

前半は外国映画が優勢でしたが、夏場以降は国産映画にも記録を塗り替える作品が複数登場し盛り返しました。広播電影電視総局(ラジオ・映画・テレビ媒体の監督管理機関)によると国産映画の占有率は48%になったということです。記録を塗り替える大ヒットの1つが『画皮2』で、この夏に公開され国産映画最高となる7億元の興行収入を上げました。ところが、その驚きも冷めやらぬ12月に公開された『人再囧途之泰囧』は、それをはるかに上回る12億元(2013年1月8日現在)を稼ぎ出しました。この作品を見た人は述べ3600万人に達しましたが、これは『アバター』をも上回る数字で、歴代トップです。これらを含む合計21作の国産映画が興行収入1億元を突破しました。もはや1億元ではさほど話題にならないほどです。

北京市内のショッピングセンターにはヘビ年にちなんだ飾りつけも登場。中国は間もなく春節を迎える

12億元の興行収入を記録した『人再囧途之泰囧』の配給会社は、これ1作で前年総利益の倍以上の利益を上げたとされます。実に景気のいい話ですが、それだけに競争も激しくなっています。映画チャンネルで放送用作品も含めると1年間でストーリー映画は745作品作られました。これだけの作品があると、上映のブッキングもなかなかたいへんなようで、公開日が何度も変更になる作品もありましたし、夏には海外の大作が上映されない時期があり「国産映画保護月間」などというウワサも流れました。私も年間80作以上を見たのですが、あれこれ見逃してしまったという印象を強く持っています。

予想外の大ヒット作が次々出現

前述の『人再囧途之泰囧』は、低予算で制作され爆発的な人気となりました。『画皮2』も多くの関係者が7億元の興行成績を予想することはできませんでした。このようにダークホース的作品が多数出現したのも昨年の傾向でした。外国映画でも、アン・リー監督の『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』が5億7000万元と予想外のヒットになりました。こうした“奇跡”の一方で、著名監督の大作が思わぬつまずきを見せた年でもありました。フォン・シャオガン、ルー・チュアンなど著名監督の大作が思ったほどのヒットとならず、映画は難しいものだと感じた関係者も多かったのではないでしょうか。また、評判はいいのにお客さんが入らない作品もありました。『セデック・バレ』『神探亨特張』『浮城謎事』などは、専門家からもファンからも高い評価を得たにもかかわらず、興行成績は振るいませんでした。ちなみに、海外作品のトップ3は『タイタニック3D』(9億5000万元)、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(6億7000万元)、『ライフ・オブ・パイ』(5億7000万)でした。

快適に上映を待てるよう広々としたロビーを用意するシネコンも増えている

12月に公開された『大上海』だが、上海の映画館ではプレミア上映の看板も見かけた

3D人気を当て込んで、本来3D映画でないものを3D化してヒットさせる流れもありました。海外作品では『2012』や『タイタニック』が3Dとして再公開されました。『タイタニック3D』は十数年前の作品を3D化したものですが、なんと中国では9億5000万元という爆発的ヒットでした。オリジナルは長く中国映画興行成績トップの地位にありましたし、この作品に対する中国人の思い入れの深さを改めて感じさせてくれました。『画皮2』は撮影後に3D化して迫力をアップさせたこともあって、国産映画の記録を塗り替えるヒットとなりました。その一方で、こうした作品に対してミニブログでは「ニセ3Dで入場料をつり上げている」との批判も起こりました。

今年の大きな特徴として、文芸作品からもヒットが生まれたことにも触れておく必要があるでしょう。香港のアン・ホイ監督作品『桃(タオ)さんのしあわせ』は、老人問題を扱った地味な作品にもかかわらず大きな話題となりました。リー・ユー監督とファン・ビンビンのコンビによる『二次曝光』は1億元を突破しました。また、文芸作品的趣を持つ台湾映画が大陸部でもヒットすることが証明された年でもありました。『愛』や『あの頃、君を追いかけた』などがヒットし、「那些年~」(あの頃)という言い方はミニブログなどで盛んに使われ、流行語になりました。

 

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