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あの“元カレ”が大活躍『小魚吃大魚』

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

ポスター
『少年派的奇幻漂流』VS『王的盛宴』『一九四二』

11月29日、『王的盛宴』(ルー・チュアン監督)と『一九四二』(フォン・シャオガン監督)が封切られました。『南京!南京!』以来のルー・チュアン監督の新作は公開までに時間がかかりましたが、鴻門の会を新たな視点で読み解く物語で、リウ・イエ、ダニエル・ウー、チャン・チェンという“3大イケメン”が競演しています。一方の『一九四二』は、フォン・シャオガン監督にとって『非誠勿撹Ⅱ』以来2年ぶりとなる新作で、河南省の飢饉に直面した農民たちが残酷な運命の中で苦闘する物語で、チャン・グォリー(張国立)とチャン・モー(張黙)の親子競演も話題です。

ところが、この2作品より1週間早くアン・リー監督の『少年派的奇幻漂流(ライフ・オブ・パイ)』が公開されて大ヒットしており、劇場の上映回をこの3作で奪い合う展開です。この週末までに『少年派~』は4億元を超えるメガヒットとなっており、ネットの映画評でもユニークな言葉が並んでいます。「二刷」は『少年派~』があまりに良いために2度見に行く人が多数出現したことで使われました。監督の李安をたたえる「李安是神」(李安は神だ)「給跪了」(ひざまずきます)「臣服」(臣下として服従する、つまり「ついていきます」くらいでしょうか)などの言葉がミニブログで飛び交っています。一方で、客足が伸びない『王的盛宴』に関しては「打水漂」(遊びの水きりのこと、投資が無駄になるの意味)などの皮肉も……。

私も『少年派~』が飛びぬけた傑作である点には同意ですが、『王的盛宴』もじっくり読み解くとかなりユニークだと思いました。『一九四二』は可もなく不可もなくというところでしょうか。

『失恋33天』の元カレが頼れる好青年に!

映画館で、上記3作品以外にごくわずかな回数上映されている国産映画から、今週は『小魚吃大魚』を見に行きました。『浮城謎事』の回でも触れたチー・シーが第49回台湾金馬賞の最優秀新人賞を受賞したことはアジア映画に詳しい方ならご存知でしょう。その注目女優主演のラブコメということで、前作とは違う面が見られそうだと、公開2日目の昼間に駆けつけたわけです。

舞台は天津。ファッション企業に採用された白小羽(チー・シー)は経済学修士で会計の専門家ですが、手違いで同時に採用されたデザイナーの夏密(グォ・ジンフェイ)と逆に職場配置されてしまいます。仕事を失いたくない2人は陰で仕事を交換し、上司に高く評価されていきます。やがて、小羽は社運をかけたプロジェクトを任されますが、そこには企業を越えた陰謀が隠されていました……。

故宮の筒子河も完全に凍結した 

街行く人の多くがフードをかぶるほど、12月上旬としてはかなりの寒さが続いた週末だった

チー・シーが演じるのは典型的なラブコメ・キャラで、最初は田舎出のさえない女の子ですが、デザイナーの夏密の力でその美しさが引き出される設定です。美しさは引き出されますが、彼女の演技力が十分に引き出されているかというと……。それでも、「てへっ」という笑い方など、独特の表情で魅力を感じさせてくれます。また、グォ・ジンフェイは中国の映画ファンには『失恋33天』の“ふた股元カレ”役で有名ですが、その彼が『失恋~』とは真逆に、小羽の元カレを“口撃”でやっつけるという仕掛けがあり、これには笑いました。ストーリー展開でも、最後のどんでん返しは、宿敵を倒すのではなくこちら側に引っ張り込んでしまうという予想外の展開が新鮮でした。

この作品では、夜景など天津の美しい景色も印象的でした。最近、天津が舞台の作品をよく目にするようになった印象があります。地元が積極的に誘致しているのでしょうか。

さて、今週12月12日(水)からは前評判の高いコメディー『人再囧途之泰囧』、20日(木)からはジャッキー・チェン“最後のアクション作品”『十二生肖』とホアン・シャオミンとイーサン・ルアンが競演するアクション『血滴子』、22日(土)からはチョウ・ユンファ主演の『大上海』が公開になります。チケット売り場の行列はまだしばらく続きそうです。

【データ】

小魚吃大魚(Kill The Boss)

監督:チャー・チュアンイー(査伝誼)

キャスト:チー・シー(斉溪)、グォ・ジンフェイ(郭京飛)、コン・ウェイ(孔維)

時間・ジャンル:107分/愛情・コメディー

公開日:2012年12月7日

UME華星国際影城ではこの日も『少年派的奇幻漂流』を24回も上映していたが、上映ホールをのぞいたらほぼ満席だった

ヒット作が集中したせいで、チケット売り場には常に行列ができていた

UME華星国際影城

所在地:北京市海淀区双楡樹科学院南路44号

電話:010-82112851

アクセス:地下鉄4号線人民大学駅から東へ徒歩2分

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年12月10日

 

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