ロウ・イエの新作『浮城謎事』
文・写真＝井上俊彦
2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、３Ｄ化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。
好調な興行成績、文芸作品からもヒット作
ポスター
このほど９月末までの興行収入が発表されましたが、122億元弱と昨年全年の131億元に迫りました。今年も大幅更新は確実のようです。国産映画は、これまでの国産映画の興行収入記録を塗り替えた『画皮２』以下、『聴風者』『四大名捕』『大魔術師』『捜索』と続き、ベスト10はすべて１億元を超えています。
こうした状況を受けて、昨年あたりまでさかんに使われた「監督が１億元クラブ入会」という言い回しもとんと目にしなくなりました。１億元ではもう大きなニュースにならないということかもしれません。ちなみに、最も新しい１億元作品は『２次爆光』で、リー・ユー（李玉）、ファン・ビンビン（笵冰冰）という昨年の東京国際映画祭で話題を呼んだ『ブッダ・マウンテン』の監督、主演コンビの新作です。こうした文芸作品が大ヒットする状況は、観客の求めが多様化していることを示しているといえそうです。
それに続いてロウ・イエ監督の新作『浮城謎事』が公開されたので、さっそく見に行ってきました。同監督は、中国では国際映画祭で活躍するイメージが強く、『ふたりの人魚』（2000）以外の作品は一般の観客にはあまりなじみがないようです。ただ、今回の作品はミステリー的要素もあり、より多くの人が楽しめる作品になっていたと思います。
ある雨の夜、若者たちの乗った車が、突然現れた若い女の子・蚊子をはねて死なせます。事件を担当した警官の童明松（ズー・フォン）は、蚊子の携帯電話に友人の修理工・秦楓の電話番号を発見します。一方、主婦の陸潔（ハオ・レイ）は幼稚園のママ友・桑琪（チー・シー）から夫の浮気について相談を受けますが、その時に店の窓から自分の夫の喬永照（チン・ハオ）が若い女性とホテルに入るところを目撃してしまいます。衝撃を受けた彼女は夫の行動を調べ始めますが、そこで彼女は驚くべき事実を発見します……。
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話題の大作『寒戦』の公開が迫っている。市内のシネコン・花市百老匯の入り口には早くから大きなポスターが飾られ、西単のショッピングセンターでは携帯電話メーカーとのタイアップ広告も見られた。 | |
本当のミステリーは男と女のやりきれない愛か？
同監督作品の多くと同じく、やりきれない男と女の愛を通して社会の底にあるものを描こうとする独特の視線と、手持ちカメラを多用する手法での映像美が見られます。人間関係が入り組む、いささか複雑な作品ですが、観客は提示された新たな事実が次の謎を呼ぶスピーディーな展開にほんろうされながらも、複雑な男女の心理こそが解けないミステリーなのかもしれないと感じさせられる結末に向かって引き込まれていきます。
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10月20日オープンしたアップル・ショップ。真上の６階には行列ができることで有名な杭州料理店の外婆家が入っており、新東安市場の北端は新たな若者の人気エリアとなりそう |
俳優では、同監督作品ではおなじみのハオ・レイはもちろん良かったのですが、さらに強烈な印象を残したのが「女２号」（ヒロインに次ぐ重要な役柄の女性）のチー・シーでした。愛する男のために、自らの持つしたたかさともろさの両面を極端な形で表に出していく女性を演じて、圧倒的存在感です。資料を調べて以前紹介した『神探亨特張』に出演していたことを知り、すぐに思い出しました。こちらは短時間の出演で大きな役ではなかったのですが、なるほど存在感がありました。映画では新人ですが、孟京輝の舞台劇『恋愛的犀牛』の主役を演じるなどのキャリアを持っているそうです。
ところで、この作品を見た北京百老匯新世紀影院にほど近い新東安市場にアジア最大規模といわれるアップル・ショップがオープンしました。私ものぞいてみたのですが、多くの人が訪れており、王府井にまた新たな人気スポットが誕生した印象です。
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【データ】 浮城謎事（Mystery） 監督：ロウ・イエ(婁燁) キャスト：ハオ・レイ（蕾）、チン・ハオ（秦昊）、チー・シー（斉渓）、ズー・フォン（祖峰） 時間・ジャンル： 97分／ドラマ・サスペンス 公開日：2012年10月19日
北京百老匯新世紀影院 所在地：北京市区東城区長安街１号東方新天地地下１階 電話：010－85186778 アクセス： 地下鉄１号線東単駅下車徒歩2分、Ｂ出口から歩道橋を渡って東方新天地に入り、すぐのエスカレーターで地下へ |
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プロフィール |
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1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2012年10月26日