今度はタイで囧!『人再囧途之泰囧』
文・写真=井上俊彦
2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。
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ポスター |
12月12日(水)からコメディー『人再囧途之泰囧』が上映され、まさに爆発的ヒットとなっています。『人在囧途』(2010東京・中国映画週間で『帰省男、辛いよ』のタイトルで上映)のコンビがパワー・アップして帰ってきました。しかも、今回は主演のシュー・ジェン自らメガホンを取り、全力投球しています。いったん公開されるや、『少年派的奇幻漂流』などの強敵を押しのけてトップ人気となり、今年最大の「黒馬」(ダークホース)と呼ばれています。
私が見た公開3日目までで興行収入は1億3000万元を記録、週末を終えた時点で3億元を突破しました。しかも、3DでもIMAXでもない、普通料金の作品ですから、たいへんな人気です。上映回数は全映画の半分を上回るほどで、日曜日に私は別の映画を見に行ったのですが、チケット売り場では作品名を言わず「2時30分の回」と上映回だけを言う人さえいました。係員もフツーに「はい、席を選んでください」です。逆に私がこの日1回しか上映されない別の作品名を告げると「何ですって?」と聞きなおされる始末でした。
ストーリーを説明しましょう。徐朗(シュー・ジェン)は研究に5年を費やし画期的なガソリン添加剤「油覇」を完成させます。彼は長期的に商品として育てようと考えますが、プロジェクトの共同マネジャー高博(ホアン・ボー)は権利を売却して収益を得るべきだと主張して徐朗と対立します。そこで彼は、会社の最大投資家である周氏の委任状を取り付けるためひとりタイに向かいます。バンコクに到着した徐朗は高博が後を追っていることに気付き、機内で知り合った風変わりな若者・王宝(ワン・バオチャン)を利用して追跡を逃れ、周氏のいるチェンマイに向かいます。実は、彼は研究のために家庭を顧みず、妻の安安(タオ・ホン)に離婚を切り出され、裁判所で待つという最後通牒を突きつけられているのでした。果たして徐朗は委任状を手にし、裁判所出廷の日までに戻れるのでしょうか……。
経済成長下の中国人を爆笑で「解圧」!
「囧」はちょうど「orz」に相当する、失意や落胆、非常にきまりが悪いことを意味するネット用語です。今回も主人公が旅先で囧な体験をするのを笑うコメディーです。正直なところ、私にとっては前作の方が春節の帰省という中国独特の風物を背景にしていて興味深かったのですが、海外旅行がますます身近になった中国の庶民には、今回のタイ旅行という設定がウケたようです。また、人気コメディアンの黄渤を配したことで笑いの幅が広がり、会場は彼がひどい目に遭うたびに笑いに包まれました。美しいタイの景色を背景にした爆笑喜劇は、最近の中国の都会人にとって大いに「解圧」つまり、ストレス解消になったようです。
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7階にある映画館入り口には雪だるまも飾られていた | 大作、期待作が続く年末の映画館には多くの立て看板が並ぶ |
ほかにも大ヒットの要因がいくつかありそうです。このところ劇場にかかる作品が「重口味」、つまりグロかったりテーマや演出が重厚な作品が続き、さっぱり癒し系のコメディーは口直しに最適だったかもしれません。また、監督・主演のシュー・ジェンは今年『大男当婚』というドラマがヒットし、庶民に好感を持たれていました。さらに、前作の評判が良く、早くからこの作品に対する期待が高まっていたこともあります。
前作は1000万元に満たない予算で3600万元の興行成績を上げましたが、今回は2400万元の予算でこの大ヒット。作品は、ストレスの多いホワイトカラーが旅先でひどい目に遭いながら人間らしさを取り戻すというシンプルなものですから、日本の寅さんシリーズのように定番の「賀歳檔」(正月映画)になる可能性も十分です。
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映画館からも近い王府井百貨前には大きなクリスマスツリーも登場した |
12月13日から14日にかけて雪が降った北京だが、今年の冬は雪も降り寒さも厳しい印象 |
ところで、「神客串」(神クラスの特別出演)として、ファン・ビンビン(范冰冰)が本人役で出演しているのも話題です。コメディーによくあるほんのちょっとしたカメオ出演かなと思っていたら、最後にどーんと登場して観客を気持ちよく帰してくれる仕掛けになっていました。なんでも、彼女は13年前にシュー・ジェンとドラマで共演した時に「将来監督をすることがあったら出演します」と約束していたとか。今回、彼が手紙を書いて依頼すると、ノーギャラでの出演を快諾したそうです。意気に感じるタイプで、“范爺”とも呼ばれる彼女らしいエピソードです。
【データ】 人再囧途之泰囧(Lost In Thailand) 監督・主演:シュー・ジェン(徐崢)キャスト:ワン・バオチャン(王宝強)、ホアン・ボー(黄渤)、タオ・ホン(陶虹) 時間・ジャンル:105分/コメディー 公開日:2012年12月12日
北京金宝匯百麗宮影院 所在地:北京市区東城区金宝街88号金宝匯7階 電話:010-85221977 アクセス:地下鉄5号線灯市口駅下車徒歩7分、C出口を出て東四南大街を南へ進み金宝街を東に向かうと右手に金宝匯ショッピングセンターが見える |
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2012年12月18日