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爆笑とペット萌え『快楽到家』

文・写真=井上俊彦

ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

ポスター
まさかの1億元作品出現?!

新年になって『一代宗師』(1月8日公開)がヒットしており、1月20日までに約2億6000万元の興行成績を上げています。ウォン・カーワイ監督作品としては大陸部最大のヒットになっていますが、これはある程度予想通りですし、遠からず日本でも公開されると思いますので、この時期に意外なヒットとなっているもうひとつの作品の方をご紹介しましょう。それが『快楽大本営之快楽到家』です。

湖南衛星テレビは、地方局としていち早く娯楽番組を充実させ、ヒットを飛ばしてきた放送局です。ケーブルテレビが発達した中国では、どこにいても中央テレビ局以外に全国各地の局を受信することができ、そこから全国的人気娯楽番組、全国的人気スターが誕生しています。湖南衛星テレビの『快楽大本営』もそうした人気番組のひとつで、メイン司会のホー・ジョン、シエ・ナーなどは、全国的人気を誇ります。その彼らを起用した映画はこれまでにも作られてきましたが、今回の作品は思わぬヒットとなっているのです。公開5日間で9000万元近くを稼ぎ出し、国産映画として今年2作目の1億元作品となるのは確実の情勢です。ところが、映画サイトのユーザー評価ポイントは10点満点でわずか2点ほどと、ちょっと例を見ない低さです。興行成績と評価のギャップに興味を引かれ、怖いもの見たさ(?)で週末に見に行ってみることにしました。

朝陽大悦城は地下鉄駅直結で極めて便利になった

向かった先は、朝陽大悦城です。2010年にオープンした23万平方メートルの売り場面積に400店以上が入る巨大ショッピング・センターです。これまでは交通の便がいい場所とは言えなかったのですが、2012年末に地下鉄6号線が開通し、地下鉄駅直結になりました。金逸北京朝陽大悦店はこの8階にあり、7ホール1372席、席の幅もゆったりとしたクオリティーの高いシネコンです。当日も、かなりのにぎわいを見せており、地下鉄効果が感じられました。

またタイが舞台のコメディーがヒット

物語はタイに住む富豪のペットをめぐって、ドッグトレーナー兄弟とまぬけな泥棒姉弟らが追いかけっこをするコメディーで、偶然でしょうが『人再囧途之泰囧』で火がついたコメディー熱とタイ人気にちゃっかり乗っかった形です。さらに、今中国でブームのペットをストーリーの中心に持ってきたことで、家族で見られる映画と認識されました。『泰囧』を映画館で見て楽しい思いをした観客を、同じタイを舞台に可愛いペットが活躍するお気楽コメディーが引き付けたということのようです。

地下鉄直結を記念する「春に向かって走る地下鉄」キャンペーンは、人気の漫画家幾米(ジミー)の作品をモチーフに展開中。店内には映画化もされた『ターンレフト・ターンライト』の人形も置かれていた

中高生のグループと子供連れの家族ばかりのホールで観賞しましたが、みなさんかなり楽しんでいる様子でした。シエ・ナーが四川方言(たぶん)でテキトーな歌を歌うだけで、前方の席の若い女の子は椅子から転げ落ちんばかりの大爆笑でした。見慣れたメンバーによるおなじみのギャグに、安心して笑えると感じた観客が多かったようです。また、ペットの犬が可愛いのも大きなポイントです。よく訓練されたタレント犬が可愛いしぐさをさまざま見せますが、これが日本から伝わりその意味を微妙に変化させた「萌」です。無邪気で可愛いものが大好きなのは中国の女子高生も同じなのです。

 北京は大寒に雪の降ったものの、気温は少しずつ暖かくなってきた印象で、春節が近いことを感じさせる

一方、外国人の私がわざわざ見に行って何か得られるものがあったかというと……。でも、『泰囧』といいこの作品といい、「安くない料金を払い時間を使うのだから、いいものを見たい」ではなく、「1時間半、笑わせて楽しませてくれればいいや」と映画館に足を運ぶ人たちが意外に多いことを教えてくれます。

春節が近づき、中国料理のどんぶりものファーストフード店では“年年有余(魚)”をイメージさせる「魚香肉糸どんぶり」がイチオシになっていた

ところで、そんな客席で作品にも負けない爆笑コントを見てしまいました。上映開始直前に入ってきたおかあさんが、小学校低学年くらいの娘に「あなたポップコーンをそんなふうに置いて、倒すわよ」と注意しているそばから、自分のポップコーンを派手にぶちまけてしまったのです。その抜群のタイミングには、私も笑いをこらえるのに必死でした(ごめんなさい)。ただ、その後のおかあさんはこぼれたポップコーンをきちんと片付けており、どうやらマナー・キャンペーンは次第に浸透してきているようです。

【データ】

快楽大本営之快楽到家(Bring Happiness Home)

監督:フー・ホアヤン(傅華陽)

キャスト:ホー・ジョン(何炅)、シエ・ナー(謝娜)、ウー・シン(呉昕)、チャップマン・トー(杜汶沢)、ニー・ダーホン(倪大紅)

時間・ジャンル:97分/コメディー、動物

公開日:2013年1月15日

にぎわう映画館のロビーはニューヨークのタイムズスクエアをイメージしている

金逸北京朝陽大悦店

所在地:北京市朝陽区朝陽北路101号朝陽大悦城(ジョイ・シティー)8階

電話:010-85527199

アクセス:地下鉄6号線青年路駅D口直結

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年1月22日

 

 

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