「日劇」をリメーク『101次求婚』
文・写真=井上俊彦
ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。
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ポスター |
バレンタインデーに「一票難求」
過年好! 今年の春節は穏やかな晴天が続き、北京の廟会(縁日の市)はどこもにぎわいました。ちょうど1週間の連休中にバレンタインデーが入っており、この日は繁華街も恋人たちや家族連れでたいへんな人出でした
ここ数年、バレンタインデーには恋人たち向けの作品がヒットしていることから、春節時期には恋愛映画も多く公開されました。そうした中で話題を集めたのが、ドラマ『101回目のプロポーズ』(1991)をリメークした『101次求婚』です。かつて中国でもこの「日劇」(日本のドラマ)が話題になったこともあってか、公開前から評判を呼び、バレンタインデー1日で4500万元の興行収入を記録しました。各映画館がチャウ・シンチー(周星馳)監督の新作『西遊降魔篇』に多くのホールを割り当てている中でのこの数字ですから、当日はどの上映回もほとんど満席状態で、「一票難求」(チケット入手困難)と言われました。
舞台は上海。小薫(リン・チーリン)は著名なチェリストですが、気まずいお見合いの席から逃げ出すため、たまたま直前に言葉を交わしただけの内装業者・黄達(ホアン・ボー)に彼氏のふりをさせます。次に出会った時に彼女は、恩返しとばかり、人のいい黄達につけ込んで未払いを続けている施主に工事代金を支払わせます。小薫に出会ってお見合いや結婚に対する考え方を改めた黄達は、彼女にアタックを開始します。小薫も彼に好意を持つようになりますが、そんな時、小薫の前に死んだはずの婚約者(ゴッドフリー・ガオ)が現れます……。
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隣接する“鳥の巣”前にも春節を祝う飾りつけが見られた |
原作を知っている日本人にも楽しめる
長編のドラマを2時間弱の映画にしているため、ストーリーが少々性急な感じがしますが、これはドラマを知っているためかもしれません。しかし、原作より台詞などで笑わせる部分が多く、独特の楽しさが客席のカップルたちをほのぼのとさせていました。例えば、海辺でプロポーズしようとする黄達に、小薫が機先を制して「指輪を出さないでよ!」「ひざまずかないでよ!」と矢継ぎ早に命令する場面などでは、館内が笑いの渦に包まれました。
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CGV星星影城は新奥ショッピングセンターの奥にあり、初めて行く場合にはかなり分かりづらい。地下鉄東南口を出て向かい側の入り口からショッピングセンターに入り奥に向かってどんどん進み、グルメ街を抜けて右に曲がるとシネコンがある |
小薫を演じたリン・チーリンですが、この作品では美しさとともに特に“可愛らしさ”が引き出されていたのではないでしょうか。財力も名声もあるイケメンと貧乏な現場系の男をともに魅了する女性を嫌味なく演じていて好感が持てます。監督は『幸福額度』(2011)でも彼女と組んだ台湾のレスト・チェンで、日本では『盛夏光年』(2006)が公開されたことがあります。
また、原作ドラマに対するリスペクトも随所に感じられました。小薫の名前は浅野温子が演じたヒロイン・矢吹薫から来ていますし、主題歌としてCHAGE&ASKAの『SAY YES』中国語バージョンをオーディション番組『中国好声音』からデビューした李代沫が歌っています。そして何より、訪中する小薫のチェロの先生・星野さんは、なんと武田鉄矢本人です。これを含め、原作を知っている日本人にも十分楽しめる内容だったと思います。
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シネコンが入るショッピングセンターは地下にある形。その上はアイススケート場になっており、家族連れでにぎわっていた |
新奥ショッピングセンターでは、春節期間に台湾物産展も行われていた |
実は、この連休中に公開中の作品をかなり見ましたが、いろいろなところに“日本”が登場しているのが印象に残りました。大学受験をテーマにした『全城高考』では、生徒と先生の“作者当て対決”で先生が『ワンピース』の作者・尾田栄一郎を見事に正解するシーンがありました。『西遊降魔篇』は、エンディングが『Gメン'75』のあの曲でした。さらに『@在一起』では、若いカップルが東京の街頭をイメージしたセットで銃撃ゲーム対決をしていました。こんなところからも、こちらの人々にとって日本のドラマやアニメ文化が、長い間身近なものであり続けていることが分かります。
【データ】 101次求婚(101st Marriage Proposal) 監督:レスト・チェン(陳正道) キャスト:ホアン・ボー(黄渤)、リン・チーリン(林志玲)、ゴッドフリー・ガオ(高以翔)、チン・ハイルー(秦海璐)、武田鉄矢 時間・ジャンル: 104分/愛情・コメディー 公開日:2013年2月12日
CGV星星影城(奥体店) 所在地:北京市朝陽区湖景東路11号新奥ショッピングセンターB1 電話:010-84372280 アクセス:地下鉄8号線奥林匹克公園下車、D口(東南口)を出て正面の新奥ショッピングセンターに入り直進(東進)しグルメ街を抜け右へ、徒歩5分 |
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2013年2月15日