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「中国の夢」都市化と国際化

 

昨年12月26日、営業距離で世界最長(2298キロ)となる北京—広州間の高速鉄道が開通しました。北京—広州間を以前に比べ、12時間30分縮め、最速で7時間59分(設計最高時速350キロ、初期営業時速300キロ)で走るこの高速鉄道は、中国の長年の「夢」をついに実現させたとされます。

「夢」と言えば、昨年の「年度字」に選出されています。因みに、日本では「金」の一字が選ばれています。『北京青年報』(2012年12月21日)は、「年度字となった『夢』は、他の候補字を大きく引き離してトップ当選した。オリンピックの『夢』、宇宙飛行の『夢』、航空母艦の『夢』、ノーベル賞の『夢』が、昨年一年間にすべて実現し、国家と個人の『中国の夢』が融合し、中国人民の最も関心のある漢字となった」と、報道しています。世界経済の先行きが見通せない今日、国民が「夢」を抱ける国家はどれほどあるでしょうか。

盧溝橋の獅子を見下ろして疾走する北京—広州間の高速列車

高速鉄道でスピードアップ 

毎年年末に開催される「経済工作会議」では、翌年の経済運営方針が決定されます。昨年のこの会議では、引き続き「穏中求進(安定成長)」(注1)を経済発展の基調とし、「深化改革開放(改革開放をさらに深化させる)」が確認されましたが、特に、「民生保障」と「内需拡大」が強調され、本誌12月号のこの欄でも紹介した「都市化」を積極推進する姿勢が表明されていました。冒頭の北京—広州間を代表とする高速鉄道が、今年運ぶのは、「ヒト」や「モノ」だけでなく、「都市化」のスピードアップでもあると言ってよいでしょう。

今年は「ヘビ年」です。前回の「ヘビ年」は2001年でしたが、この年の12月、中国は長年希求してきた世界貿易機関(WTO)に加盟しました。以後、中国経済の国際化が進展し、世界第2位の経済大国になったのは周知の事実です。2001年の「ヘビ年」は、中国経済の国際化が幕を開け、以後、世界における中国経済のプレゼンスを大いに高める元年となったわけですが、今年の「ヘビ年」は、どうやら、「都市化」元年となると言っても過言ではないでしょう。中国は、「都市化」でどんな「夢」を実現しようとしているのでしょうか。チャイナ・パワーの源泉としても、今年は中国の「都市化」の行方に世界の目が集まることでしょう。

民営企業の海外投資拡大へ

習近平総書記は、「『中国の夢』は、中国人、そして、世界も必要としている」と言及しました(注2)。

筆者は、今年のヘビ年に「都市化」に加え、中国経済の新たな「国際化」が始まると見ています。昨年、浙江省温州市で個人による対外投資を試行する方針が出されるなど民営企業による海外投資の機会が拡大していること、文化・環境産業など新たな産業分野における海外展開が目立ちつつあることなどが、その根拠として指摘できます。

さて、2001年のWTO加盟時、中国でしきりとささやかれたのが、「狼来了(狼がやってきた)」でした。「オオカミ」とは「外資企業」を意味し、「狼来了」とは、WTO加盟で開放された中国市場が対中進出してくる外資企業に席巻されてしまう、という意味です。

中国の対外展開に過剰反応

「オオカミ」の次に中国経済に顔を出し世界の注目を浴びるようになったのが「ヘビ」で、「蛇呑大象(ヘビがゾウを呑む)」の「四字」が話題となりました。この「ヘビ」とは中国企業を意味し「ゾウ」とは海外の大手企業のことで、中国企業が世界の大手企業を買収(M&A)する、というのがこの「四字」の意味です。

昨年末時点で、海外進出している中国企業は、177カ国・地域に2万余社、2011年末時点の投資残額は世界13位(4248億ドル)であり、また中国は発展途上国中で最大の外資企業受け入れ国でもある。2011年単年では746億5000万ドル(世界第6位、世界全体の2%、2002年比28倍、うち、M&A方式が37%)で、対中投資額(1060億1000万ドル)と比較すると60%強と、ヘビがオオカミを追い抜くのは間近な状況です。昨年、この「蛇呑大象」の四語がメディアをにぎわせたケースとしては、中国の建設機械大手の三一重工がドイツの世界的機械大手プマイスターを買収したケースなどが挙げられます。この時は、「中国『龍』呑ドイツ『象』」と報道するメディアもありました(中国新聞ネット2012年2月1日)。中国では龍はヘビの化身とも言われていますが、いまでは「蛇呑大象」は以前ほど世界経済における「新事象」ではなくなりつつあります。

ただ、世界が「ヘビ」に過剰反応を示すケースが増えており、筆者は、こうした状況は今日の停滞する世界経済を活性化する上であまり得策ではないと判断しています。例えば、米国の外国投資委員会(CFIUS)が、三一重工が投資する風力発電プロジェクトが米国の国家安全を脅かす可能性があるとして中止を命令。これを受けて、オバマ大統領が自身の署名入りで禁止令を出したことから、三一重工が、CFIUSとオバマ大統領を裁判所に提訴したケースなどが挙げられます。

中国の「蛇呑大象」の「ヘビ」を敢えて「毒ヘビ」扱いし過剰反応しているのではないか、と指摘する中国の識者は少なくありません。商務部の陳徳銘部長(大臣)は、昨年7月21日に開催された復旦大学管理学国際フォーラムで、「一部の国が中国のエネルギープロジェクトや資源プロジェクトへの投資、重要プロジェクト建設への参加、国有企業の投資などに対して疑念を抱き、中国の対外投資がしばしば『ガラスのドア』や『スプリングドア』にぶつかっている現象にも注意が必要だ」(人民ネット2012年7月23日)と発言しています。

中国企業と互恵互利の関係

改革開放以後、中国に「夢」を手繰り寄せた驚異的な経済成長は、国内市場を段階的に開放し、外資導入を積極化したことがその背景にあると言えます。こうした外資企業の対中進出に比べ、中国企業の対外進出はまだ少ないわけですが、それだけに拡大の余地は大きいといえます。2011年、海外の中国企業が投資所在国・地域に収めた各種税金総額は220億ドル超、海外の中国企業の就業者数は122万人に達しているとされています(『人民日報』2012年9月1日)。2002~2011年の10年間に中国の対外投資は年平均44.6%増と飛躍的な伸びを示しています。今後、中国の対外投資が増えれば、投資所在国・地域の税収、就業に果たす貢献はますます増えると期待できるでしょう。

中国経済の国際化を担う新たな潮流として、今後次の3点が注目点となるでしょう。

① 中国に進出した外資企業と連携して第三国・地域に対外進出するケースが出てくる。

② 現時点では制約があるが、中外合弁企業の第三国・地域への展開が視野に入ってくる。

③ 中国を第三国・地域への進出拠点として対中進出する外資企業が増えてくる。

習近平総書記の言う「 『中国の夢』は、中国人、そして、世界も必要としている」とは、中国企業の対外進出を柱とする経済の国際化の進展によるところが少なくないと言えるでしょう。世界は、中国企業の進出を互恵互利の関係構築への絶好のチャンスととらえ、よくよく研究してほしいものです。

 注1

昨年、GDP成長率7.5%、物価上昇率3%以下、9年連続食糧生産増、農民増収を達成し、新規都市就業者数が9年来最多となったことなどが、「穏中求進」の具体的成果とされている。 

 注2

昨年11月29日、国家博物館「復興の路」を視察した際の発言。なお、『人民日報・海外版』(2012年12月3日)によれば、中国の夢には、大規模、広領域、世界との享受といった3つの鮮明な特徴があるという。13億人の国家が台頭したことは人類の歴史にはなく、中国が世界の夢を実現する広い空間を提供すること、改革開放以来各界に多くの傑出した人材を輩出し、中国で多くの外国人が自らの夢を実現する機会を見つけたこと、今後もそうあり続けること。 

 

(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。

 

人民中国インターネット版 2013年3月20日

 

 

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