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評価と観客動員『天機-富春山居図』

文・写真=井上俊彦

ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

ポスター

『スター・トレック』を押しのけてトップに

6月に入りどんよりとした天気が続いた北京ですが、端午節の3連休はどうにか持ち直し、観光地もにぎわったようです。映画の方も6月10日から12日までの3日間で2億4400万元を売り上げるなど好調でした。特に、9日に公開され『スター・トレック イントゥ・ダークネス』からトップを奪い取った『天機-富春山居図』が大きな話題になっています。公開から4日間で1億8500万元の興行成績を記録する大ヒットなのですが、実はこの作品、専門家からネットの映画ファンまで、評判は芳しいものではなく、映画紹介サイトではどこも低ランクの評価です。どうなっているのか気になって、連休最後の12日に見に行きました。

作品は国宝をめぐって善と悪が戦うという、先ごろ日本公開されたジャッキー・チェンの『ライジング・ドラゴン』とも似た設定のアクション・アドベンチャーです。台北の故宮博物院と浙江省博物館にそれぞれ一部分ずつ保存されている「富春山居図」は、中国十大名画に数えられます。ある夜台北のものが盗まれ、その犯人と思われる英国の犯罪集団や日本のヤクザ・山本(トン・ダーウェイ)らが杭州のものもねらっていることを突き止めた香港の特務機関は、エージェントの肖錦漢(アンディ・ラウ)を送り込みますが、彼の前には謎の美女リサ(リン・チーリン)が現れます。一方、肖の妻で保険会社の要職にある林雨嫣(チャン・ジンチュー)は、残りの部分を守る任務に着きます。絵画をめぐって敵味方が入り乱れる中、肖は重傷を負い、リサは命を落としてしまいます……。

低評価の中で伸びる観客動員

杭州やドバイ、東京などを舞台に、国宝をめぐる戦いが派手に繰り広げられます。主演のアンディ・ラウはなかなかの熱演ですし、リン・チーリンがさまざまな衣装で着せ替えを楽しませてくれます。西湖など杭州の景色、ドバイの豪華ホテル、3D化された東京の夜景も見事で、見どころも随所にあるのですが、てんこ盛り過ぎて、どれも中途半端になっている印象です。もう少し整理した方がよかったかもしれません。最先端の科学を駆使した窃盗、息詰まるカーチェイス、美女たちのカンフーアクションなど、めまぐるしく画面が転換していきます。めまぐるし過ぎて、敵味方がよく分からなかったり、死んだと思われた人間がまた登場したり、「なぜそんなことを?」という意味不明の戦いが行われることで、ファンにとって、いわゆる“つっこみどころ満載”の作品に仕上がっています。

左端の映画館の建物が小さく見えるほど、付近では大型の不動産開発が進んでいる。近い将来には地下鉄駅も開業して大きな発展が期待されている

宝星広場は、シネコンのほか大型スーパーやフードコート、ブランドショップなどが入るショッピングセンター。今後付近が開発され人口が増えるの見越しての進出のようだ

人気スターを取りそろえ、海外ロケも行った3Dアクションということで、期待が高かったぶん(料金もですが)、私も含めてファンの批評は辛口になりがちですが、評判に反比例するように観客動員は伸びています。今や中国では、祝日に家族や恋人と3D映画というのは定番になっています。そこに、スター勢ぞろいのアクション巨編が公開され、みなさんこぞってこの作品を見に行ったということではないかと思います。ワー、キャーと楽しく2時間過ごせ、後でミニブログで友人たちと話題を共有できる。たとえその話題がもっぱら「吐槽」(つっこみ)だとしても、それで十分ということかもしれません。

監督のスン・ジエンジュンは映画やテレビ番組を制作する企業のトップ(総裁)で50代半ば。今回が初めての本編監督という人物です。あふれる批判に対しては、「私たちは批判の中で成長していくのです」と意に介す様子もありません。ま、これだけ数字が先行すればそれも当然かもしれませんが(笑)。今週6月20日からは話題の『スーパーマン マン・オブ・スティール』が公開されますので、その後は厳しくなるだろうと言われていますが、さてどこまで数字を伸ばすか興味は尽きません。

DMC望京国際影城は、北京では劇場などで知られる保利(POLY)グループのシネコンで、6つのホール、1130の座席を持つ。座席の間隔もゆったりしており居心地がいい

新しいシネコンのため、まだあまり知られていないようだが、施設は申し分ない。このあたりに多く住む韓国人を意識してか、漢字、ハングル文字のダブル字幕による上映が可能だという

一方で、1日早い6月8日から公開され「零差評」(悪い評判なし)と言われる台湾映画『光にふれる』(逆光飛翔)は、興行成績ベスト10にも姿がありません。日本で上映済みですので内容には触れませんが、もっと多くの人に見ていただきたい作品でした。業界全体が好調のこの時期こそ、長く映画を愛してくれるファンを育てる努力をすべきだと思うのですが、どうやら誰もこんな意見を聞きたがってはいないようですね。

 

【データ】

天機-富春山居図(Switch)

監督:スン・ジエンジュン(孫健君)

キャスト:アンディ・ラウ(劉徳華)、リン・チーリン(林志玲)、チャン・ジンチュー(張静初)、トン・ダーウェイ(佟大為)

時間・ジャンル: 120分/アクション・アドベンチャー

公開日:2013年6月9日

 

DMC望京国際影城

所在地:北京市朝陽区望京新城A3区宝星広場5階

電話:010-64139608

アクセス:地下鉄15号線望京駅下車徒歩17分、C出口から宏昌路を左に向かい望京街を右折して直進、阜通西大街を左折して道なりに進む

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年6月17日

 

 

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