オタクの妄想完全映画化(笑)『追愛大布局』
文・写真=井上俊彦
中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。
キャンパスの伝説が二人を結びつける?
以前にもご紹介したことがありますが、こちらでは毎週火曜日に「半額デー」を行っている映画館が多数あります。今ではケータイやネットでいろいろな割引が利用できますが、「そういえば火曜日で半額だから映画でも見に行くか」と思わせる効果はやはりあると思います。そんな火曜日の15日に公開されたのが、チェン・ボーリンの新たな一面が見られる作品です。
台湾地区発の青春ものは、テンポがよくユーモアがあり、家族愛や友情で味付けされたさわやかなものが多いと思います。ジェイ・チョウ(周杰倫)の『陽光宅男/明るいオタク』のポップなサウンドに乗って始まるこの作品もそうした流れを汲むもので、「校花」(ミス・キャンパス)と「十全宅男」(オタク要素をすべて兼ね備えたオタク)というカップルが出来るまでを楽しく描いています。
ある夜、学園内にある大きな池を通りかかったミス・キャンパスの梁小琪(アイビー・チェン)は、大きな渦ができ水がすっかり抜けていくのを目撃します。池に近づいた彼女は足を滑らせて転落しますが、そこにオタクの呉全順(チェン・ボーリン)が落ちてきます。その様子をケータイで撮影した学生がネットにアップすると、大学中がこの話題で持ちきりになります。学園にはこの池が干上がった時に出会ったカップルは必ず結ばれるという伝説があったからです。オタクが大嫌いな小琪は、その日から全順を避けるようになりますが、逆にやたらに彼と出会うようになります。次第に不安になった彼女は伝説で結ばれたカップルを調べていくうちに、それを無効にする方法を知り、そのカギを求めて武漢に飛びます……。
観光シーズンを迎え、故宮博物館には地方からの団体客が大勢詰め掛けるようになってきた |
史上最“ブサイク”なチェン・ボーリン
だいたいイケメンがダサい、イケてない男を演じる場合、観客は“途中でイケメンに大変身するはず”と暗黙の了解をしてしまうわけですが、なんとこの作品ではそれはありません(!)。じゃあ、最初からイケメンじゃない俳優を使えばいいようなものですが、この作品での彼のオタクぶりは真に迫っており、“突き抜けちゃったなあ~”という印象です。猫背にぼさぼさ頭、半開きの目とニキビ・メーク、無表情で抑揚のない話し方と徹底しています。彼は、以前ワン・ルオダン(王珞丹)と共演した『恋愛前規則』(2009年)でもオタク系の人物を演じましたが、その時はイケメンのまま(笑)演じていました。
一方、アイビー・チェンが演じる梁小琪は、スキのない美人というよりはかわいい系で、さらさらのロングヘアーに甘えるような笑顔、清潔感はあるけれど露出も多いファッションなど、男子学生に広く好かれる外見です。しかし、実はプライドもけっこう高く、苦い過去も持っている女の子という設定で、彼女が演じると、理想を形にしただけでなくより人間味が感じられます。
ミス・キャンパスが、理系の天才とはいえまるっきりのオタクと結ばれるという、モテない学生の夢(妄想?)をかなえるストーリーですが、こうしたラブ・コメにつきものの「実は……」という部分が、けっこう凝っています。けっこう凝っているので、一瞬「ええ? それじゃハッピーエンドにならないじゃないか…」と思えるほどです。これ以上はネタバレになりますので書きませんが、この種の映画としてはひとひねりきいた作品になっています。
どこの大学にもある「キャンパスの伝説」を取り込んでいるのもうまいところですが、伝説の背景には台湾地区と中国大陸部の大学をめぐる歴史がさりげなく使われています。二人が通う東寧大学はもともと武漢に設立され、現在は台湾地区と武漢に同じ名前の大学があるという設定です。実は、実際に清華大学など両岸に同名の大学があるケースは複数あります。
最後に、ご存知の方も多いかと思いますが日本発の「オタク」はすでに中国語になっており「宅男」「宅女」と呼ばれます。本来の意味に加え、「出かけるより、家で過ごすことが多い人」という意味で使われることもあり、「宅了一天」(1日家に閉じこもっていた)と、動詞としても使われます。
街路樹のアワギリが花を咲かせ、甘く濃い香りが初夏を感じさせる |
【データ】 追愛大布局(Campus Confidential) 監督:ライ・ジュンユー(頼俊羽) 出演:チェン・ボーリン(陳柏霖)、アイビー・チェン(陳意涵)、グォ・シューヤオ(郭書瑶)、ポール・ジアン(姜康哲) 時間・ジャンル:90分/愛情・コメディー・学園 公開日:2014年4月15日
東環影城 所在地:北京市東城区東中街9号東環広場B座地下1階 電話:010- 64185949 アクセス:地下鉄2号線東四十条駅下車、B口を出て東へ、東中街を北に進み徒歩5分、または東直門駅下車、C口(銀座モール)から地上に出て南へ進み徒歩7分
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2014年4月17日