People's China
現在位置: 連載最新映画を北京で見る

金・銀熊賞作品が凱旋公開『白日焔火』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

連日“北方ノワール ”を鑑賞

この週末は『警察日記』(2013年東京国際映画祭上映時のタイトルは『オルドス警察日記』)と先ごろベルリン国際映画祭で作品賞(金熊賞)と主演男優賞(銀熊賞)を受賞した『白日焔火』を連日で鑑賞しました。

かたや実在した刑事の人生を振り返る作品で、もう一作は犯罪サスペンスの中の男と女を描いていますが、いずれも厳冬の東北地方の景色が印象に残りました。『警察~』は日本公開時のタイトルにもあるように内蒙古自治区のオルドスを舞台にしています。一方、『白日~』の方は黒竜江省のハルビンです。いずれも、厳冬期の深く長い夜、炭鉱や工事現場の埃っぽさ、そして冬の張り込みに代表される過酷な警察の業務などが画面いっぱいに展開され、見ていてなんとも言えない息苦しさを感じる“ノワール ”な作品です。一昨年の『人山人海』や『神探亨特張』など中国北方を舞台にした犯罪ものと比較してみるのもおもしろいかもしれません。

今回は日本ですでに上映された『警察日記』には触れません。『白日焔火』のストーリーを紹介しましょう。刑事の張自力(リアオ・ファン)は追いつめた凶悪犯の反撃で同僚2人を失います。自分も撃たれたケガがもとで警備に配置転換され、自暴自棄となって酒におぼれ妻にも離縁されます。事件から5年が過ぎたある日、彼は刑事たちが自分のケガにもつながったバラバラ死体事件の被害者の妻でクリーニング店店員の呉志貞(グイ・ルンメイ)を尾行しているのを発見します。刑事によれば、夫を含めて彼女に近づく男が3人も変死しているのだというのです。それを知った張は勝手に彼女の捜査を開始します。責任感なのか、彼女の魅力にとりつかれたのか、張は次第に事件に深くのめり込んでいきます……。

 3月下旬になって北京の街角ではハナモモ、ハクモクレン、レンギョウ(連翹)など、さまざまな花がいっせいに咲き始めた

映画祭受賞作にヒットなしのジンクス

さすが金熊賞作品だけあって、実に見ごたえがありました。緊張感ある展開の中で小さな驚きのシーンが続き、次第に事件の全体像が分かっていくパターンです。物語の背景に使われる炭鉱や駅、スケート場、通勤列車など庶民の暮らしに密着した画面も印象的で、真冬のハルビンの寒さがよく伝わってくるようでした。ただし、ベルリン上映バージョンを見たわけではないので断定的なことは言えませんが、国内公開版はどうも少し分かりづらい部分がある気がします。冒頭の退職に追い込まれるケガの原因になった事件の部分、観覧車でのハードなラブシーン、エンディングの花火の部分などにカットが入ったようです。ただ、監督は審査のためにカットしたのではないと話しています。

主演男優賞を受賞したリアオ・ファンの演技もさすがで、主人公の事件に対する執着、志貞との距離感を見事に演じています。演出もきめ細かく、最初は刑事としてクルマに乗って登場する主人公が、退職後はバイクから原付へと乗り物の格が下がっていく様子を見せ、主人公の落魄ぶりを感じさせる効果を出しています。そして、気持ちを言葉にするのが下手な男がぽつんともらすセリフも魅力的です。事件に執着する理由を聞かれ、「(人生の)負けを少し遅らせたいだけさ」と語るシーンなどはぐっと来ました。リアオ・ファンの演技には何より自然な軽さがあるので、スーパーマン探偵ではなくリアルな人間と共に捜査しているどきどき感がありました。

一方、相手役のグイ・ルンメイはいかにも南方の美女という顔つきで、東北女性のイメージとはいささか異なる感じがします。ただ、逆にこの役は誰にふさわしいだろうと考えると……。ひとくせもふたくせもある男たちがみな魅了される妖艶さがありながらもきりっとした清潔感を保ち、善良さの裏に秘密を隠している女性を演じられて、しかも体当たりのハードなラブシーンもいとわない女優となると、すぐには思い浮かびません。やはり彼女は魅力的な女優なのだと思います。

ところで、ベルリンでの受賞ニュースもあって、配給会社の鼻息は荒く、3億元はいけるとの触れ込みでしたが、ふたを開けてみるとそこまでのヒットにはなっていません。公開4日間で5000万元は、ちょうど昨年のこの時期にヒットした『北京ロマン in シアトル』に近い推移です。それでも、国外の大きな映画祭受賞作品としてはこれまで最高の出足だそうで、新たな例となるか注目されます。

北京の街路樹に多いペキンヤナギも緑の葉をつけ始めた。エンジュが緑になるのはもう少し後になる 最近、中国ではスマホの普及が急速で、雑誌スタンドでも3G用プリペイドカードがよく売られているが、キャリアーはもうさかんに4Gの宣伝をしている

 

【データ】

白日焔火(Black Coal,Thin Ice)

監督:ディアオ・イーナン(刁亦男)

出演:リアオ・ファン(廖凡)、グイ・ルンメイ(桂綸鎂)、ワン・シュエビン(王学兵)、ワン・ジンチュン(王景春)

時間・ジャンル:106分(これはベルリンの時のもので、実際にはもう少し短かったような印象)/犯罪・サスペンス・ドラマ

公開日:2014年3月21日

 

ベルリンでの受賞もあり配給元は宣伝に力を入れたようで、同作品のバス停広告もよく見かけた

新影連・UМE国際影城(華星店)

所在地:北京市海淀区科学院南路44号

電話:010-82115566

アクセス:地下鉄4号線人民大学駅下車、B口を出て北3環西路を東へ4分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年3月31日

 

 

同コラムの最新記事
整形問題を女性監督が描く『整容日記』
金・銀熊賞作品が凱旋公開『白日焔火』
婦人デーにぴったり!?『脱軌時代』
奮闘する「富二代」『80後的独立宣言』
今年の「情人節」はこれ!『北京愛情故事』