今年の「情人節」はこれ!『北京愛情故事』
文・写真=井上俊彦
中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。
花火・爆竹の最終日前後に公開となった『北愛』は花火売店ともタイアップを展開していた |
『北愛』と略称で呼ばれるほど定着
今年の春節興行はバラエティーに富んだラインナップで多くの観客を呼び込み好成績となりました。そして、もう次の「情人節」(バレンタインデー)興行が始まっています。ここ数年のパターンで大量のラブロマンスが上映されていますが、中でも大ヒットしているのが『北京愛情故事』です。ドラマのヒットですでに人々に親しまれており、チケット売場のスタッフも略称の『北愛』で呼んでいました。一昨年の『泰囧』や昨年の『致青春』もそうでしたが、短縮形で呼ばれるのは、ある意味作品の人気を象徴しているようです。
『北愛』は、人気俳優でもあるチェン・スーチェンが、自ら監督・主演したテレビドラマを映画化するということで早くから話題になっていました。ただし、ストーリーはドラマ版とは関係なく、5組のカップルの物語が交錯するオムニバス的作品です。まず、インテリア・デザイナーの陳鋒(チェン・スーチェン)は一目ぼれした沈彦(トン・リーヤー)に猛アタックし恋人同士になりますが、彼女が妊娠してしまったことから厳しい現実を突きつけられます。彼の相談相手である呉崢(ワン・シュエビン)は遊び人で、妻の張蕾(ユー・ナン)に隠れて浮気を続けていますが、ある時妻にケータイの暗証番号を見破られ……、と5つの物語が続きます。
古くからの中国映画ファンにはチャン・ヤン監督の『スパイシー・ラブ・スープ』(1997年)の2014年版をイメージしていただければいいかと思います。違った世代のカップルが目の前に示される愛情の問題にどう立ち向かうか、大きなひねりはありませんが、ユーモアを交えながら前向きに描いていてさわやかな感動作になっています。
また、現在の北京のさまざまな風景が盛り込まれているのも見どころです。国貿や三里屯の夜景、伝統的住宅が並ぶ胡同、景山から見下ろす故宮の眺めなどのほか、市の西にある五棵松エリアも登場するなど、非常に工夫されていました。これまでの北京を舞台にした作品では、現代を表す東部のビジネスエリアか伝統を表す胡同が象徴的に使われることが多かったのですが、最も普通の北京市民が暮らす場所も取り込むことで今の北京の顔がより全面的に描かれている印象です。90年代前半の北京を舞台にした『スパイシー~』と見比べてみるのも楽しいかもしれません。
そうした工夫が功を奏したようで、13日午後に半日前倒しで公開されて16日までに2億元を突破しましたから、ラブロマンスものとしては爆発的人気と言っていいかと思います。
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今年は元宵節(日本の小正月に相当)とバレンタインデーが重なったため、このショッピングセンターでも記念セールを実施中だった |
シネコンが入るショッピングセンター |
もうひとつの『愛情故事』にも見どころ
ところで、私はこの日もう1本鑑賞しました。それが『江南愛情故事』です。便乗商法かと言いたくなるタイトルですが、作品はなかなかユニークでした。物語の舞台は1937年の江南です。相手に会ったこともないまま旧家に嫁いだ雨蓮(シェン・チウユー)は、結婚式当日に結婚相手である長男の明軒が従軍してしまったことを知ります。寂しくまだ見ぬ夫の帰りを待つ彼女ですが、そんな彼女に何かと世話を焼くのが弟の明皓(シェン・タオ)でした。そして、軍営を訪ねた雨蓮は夫について驚くべき事実を知らされます……。
浙江省の南潯で主にロケがされたそうですが、アクション映画ではなくこうした作品に3Dを使い、水郷の古い街を立体的に見せるという手もあっていいかなと思いました。少なくとも、私はぜひ近いうちに南潯に行ってみたいものだと感じました。3Dで見せられるかつての江南旧家のたたずまいや伝統的風習は、日本人の私にとって極めて新鮮なものでした。物語のテンポも古鎮を流れる水路の水のようにゆったりとしており、心地よく見ていられました。惜しむらくは終盤近くの日本軍登場以降の展開がいささか性急で、もうひと工夫ほしいと感じました。
主演のシェン・チウユーはイギリス留学経験もある現代女性ということですが、伝統社会と戦争の悲劇の中でけなげにに生きる女性を見事に演じていました。特に立ち姿の美しさと、三白眼とも言えそうな独特な目が印象的で、彼女の存在感が作品全体を決めているように感じたほどでした。
住宅開発が進む市の南部にあるシネコン周辺には新しい高層アパートが目立つ |
ソチ・オリンピック開催中とあって、ショッピングセンターには中国代表のユニフォームなども展示されていた |
幸福藍海国際影城公益橋店 所在地:北京市豊台区角門19号 華冠天地4階 電話:010-67500828 アクセス:地下鉄4号線公益西橋下車、C口を出てを楓竹苑北路を左折、徒歩10分
2月11日に開業したばかりのシネコンでは、開業1週間は全作品が26元と格安で見られるキャンペーンを実施中だった |
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2014年2月18日