お互いの過去と向き合う『前任攻略』
文・写真=井上俊彦
中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。
アニメ『熊出没之奪宝熊兵』が大成功
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子どもの姿が多い映画館のロビーでは、『熊出没』を見た観客のためのお楽しみ抽選会も行われていた。各所の映画館で同様のイベントが行われており、新しい戦略と言えそうだ |
昨年の1月は『人再囧途之泰囧』のヒットが社会現象となり、ほかのコメディー作品にも波及効果が見られるなど、映画館は大いにぎわっていました。ところが、今年は『私人訂製』もスタートダッシュは記録的でしたが結局7億元ちょっとでまとまりそうで、ほかに大きなヒット作も見られません。このため、各週の興行収入が前年比でマイナスが続くという近年にない状況が出現、ちょっとした異変となっています。
目を引くのは1月17日に公開されたのがアニメ映画『熊出没之奪宝熊兵』です。2012年からテレビ・シリーズがスタートし、昨年あたりから子どもたちに大人気となって、キャラクター商品もよく売れているようです。北海道土産の「熊出没注意」にヒントを得たのではと思われる作品名ですが、主要な登場人物は2頭の熊、熊大と熊二と、原木伐採のため森(設定は黒龍江省のハルビンの森となっています)に住み込んでいる光頭強。森(自然)の番人としての熊と、自然破壊者としての人間の対決で、人間がやり込められる設定です。その劇場版が26日時点で1億8000万元を突破するヒットになっています。
ほかにも『怪盗グルーのミニオン危機一発』『喜羊羊與灰太狼之飛馬奇遇記』『Saving Santa』などのアニメに加え、実写の変身ヒロインもの『巴啦啦小魔仙之魔法的考験』などが上映中で、どの映画館のロビーも家族連れでにぎわっていました。以前も紹介しましたが、こちらでは一人っ子政策を背景に、両親から祖父母までが一緒に映画館にやって来るのは当たり前の光景です。
映画館のある6階からは住宅開発が進む周辺が見渡せる。ここは、郊外の住宅開発が進んで地下鉄が整備され、駅前に開業したショッピングセンターにシネコンが入居するという、典型的なパターンだ |
郊外に新たにオープンするショッピングセンターらしく、子ども向けのショップや施設が多く入る |
元カレ、元カノだらけの展開!?
さて、そんな中で今週見た作品は『前任攻略』です。本来1月31日の春節公開作品ですが、一部劇場で先行上映となったようで、あわててこの作品の配給会社華誼兄弟の経営する新しい映画館に行って来ました。
出演は人気アイドルで『致青春』にも出演したハン・グン、ヒロインは『ライジング・ドラゴン』でジャッキー・チェンと共演したヤオ・シントンが演じています。ほかに『美人心計』や『北京青年』といったドラマでも活躍のワン・リークン、そして『私人訂製』で注目を集めたジェン・カイとなかなか豪華な顔ぶれです。
若きやり手広告マンの孟雲(ハン・グン)は、元カノの結婚式に招かれ、元カノの結婚相手の元カノ(ちょっとややこしいですね)夏璐(ヤオ・シントン)と知り合います。お互いひと目ぼれで交際は進みますが、孟雲には大学の同級生で広告事務所の共同経営者の羅茜(ワン・リークン)が気にかかっています。そこに夏璐の元カレの韓国人パクが登場し、ふたりの関係に微妙な変化が生まれます……。
タイトルにある「前任」とは「元」の意味で、最近は「前任女友」「前任妻子」といった表現をよく目にします。この作品では「前任」を数多く登場させることで、開放的な「80後」の男女関係を代表させているようです。ただし、私の周辺の「80後」たちは、映画の主人公たちに比べるとかなり保守的です(笑)。
冒頭はまったくのコメディーという体裁ですが、次第に夫婦として愛し合うとはどういうことか、正面から向き合うようになっていく展開で、このあたりのストーリーは、ティエン監督が脚本を担当した『人在囧途』にも通じます。1983年生まれの監督は、「80後」たちが青春を謳歌する時代から、社会や家庭の責任を担う時代になったことを伝えようとしているのかもしれません。
さて、今週後半からは春節の連休で、映画も大作がいっせいに公開されます。そのあたりについては、連休明けに報告させていただきますのでお楽しみに。それでは、新年快楽!
【データ】 前任攻略(Ex File) 監督:ティエン・ユーシェン(田羽生) 出演:ハン・グン(韓庚)、ヤオ・シントン(姚星彤)、ジェン・カイ(鄭愷)、ワン・リークン(王麗坤) 時間・ジャンル:108分/愛情・コメディー・ドラマ 公開日:2014年1月31日
華誼兄弟北京影院洋橋店
所在地:北京市豊台区馬家堡東路101号院10号商業楼銀泰百貨F6 電話:4000009009 アクセス:地下鉄10号線角門東駅下車、D1口すぐ
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2014年1月27日