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劇場版が大ヒット『爸爸去哪児』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

春節に大作『大閙天宮』を上回る上映回数

2月2日、映画仲間と午年第1回の鑑賞会を実施しました。朝から『澳門風雲』と『西遊記之大閙天宮』を立て続けに見て、春節はチョウ・ユンファまつりだったなと振り返ろうと思ったのですが、この日3本目に見た『爸爸去哪児』の印象があまりも強烈だったため、急きょこちらを紹介することにします。

昨年後半、テレビ番組で大きな話題になったのがこの『爸爸去哪児』(パパ、どこ行くの?)でした。湖南衛星テレビ局が、韓国で大ヒット中のバラエティー番組の版権を取得して制作したもので、俳優やモデル、監督などの仕事を持つお父さんとその実の子(3人は男の子、2人は女の子)5組が、番組から任務を言い渡され、時に競争し、時に協力して頑張る様子を見せていきます。有名人パパの思いがけない奮闘ぶりや困惑、子どもたちの無邪気さや純真さに、全国の家庭が夢中になりました。5人の子どもたちは、もうアイドル扱いです。

同テレビ局はこれまでにも人気番組を映画化した実績があり、この人気を見逃すわけがなく、家族がそろう春節の時期に向けて素早く映画化したのです。昨年の『快楽大本営之快楽到家』のヒットやこの番組の人気から考えてある程度の人気は予想していましたが、まさか『大閙天宮』を上回る回数が上映され、春節連休中に5億元に迫る興行成績を上げるとは驚きです(『大閙~』は3Dのため興行収入では上回っています)。「80後」が子育てに奮闘する世代になっている現在、これからも家族をターゲットにした作品が多数作られる予感がします。

 

各映画館にはさまざまな『爸爸去哪児』のディスプレーがあり、人気のほどをうかがわせた 

作品の内容といえば、ストーリーなどはなく、久しぶりに5組の親子が集められ、2日間で番組と同じようにいくつかの任務をこなすというものでした。場所は広州のサファリ・パーク。そうです、可愛い子どもと動物という、「鉄板」の組み合わせで観客を引きつけようというねらいのようです。そして、私はその魂胆にまんまと引っ掛かって「うわー、可愛いなあ」と感じてしまった一人です。すみません。

えっ、誰に謝っているのか? もちろん、競争が激化する中国ストーリー映画にかかわっている方々にです。企画から何年もかけて物語を作り、監督、脚本家、俳優、各スタッフが苦労を重ねてようやく完成する作品が見向きもされず、本来はテレビの2時間スペシャルで流すようなお手軽な作品が、記録的な大ヒットとなっていることに反発する映画関係者が多いのも理解できます。微博(中国版ツイッター)や微信(中国版LINE)では厳しい批判も飛び交っているようですが、良し悪しは別にしてこうした作品が好まれるのも今の中国映画の現実だと思います。ただし、同じく人気バラエティー番組を映画化した『中国好声音之為你転身』は昨年末12月27日という正月映画枠で公開されたものの、残念な結果になりました。人気番組を映画化すればいいというものでもないようです。

北京のテレビ塔も春節時期は展望台部分に「福」の字が浮かんで回転する「紅灯籠」に変身 

地下鉄駅通路にも真っ赤な全面広告が登場して春節気分を盛り上げていた 

中国の子どもに驚かされる

午後3時半からの上映回は最前列を除いてほぼ埋まっており、改めてその人気ぶりを感じました。みなさんテレビ番組を通じてすでに子どもたちの個性を把握しているようで、それぞれの子が期待通りの反応をする様子を楽しそうに見ていました。特に子どもたちと動物の赤ちゃんとのふれあい場面には、「うわ~、かわいい」の声が飛び交いました。

ところで、家族だけでなく、恋人同士で来ている観客も目立つ中、一人でこの映画を見ている私の隣に、小学校低学年とおぼしき女の子が座りました。ポップコーンを抱え、チケット売り場で一緒になったらしい後ろの席の男の子連れの母親と話しているのが耳に入りましたが、彼女は同じ時間帯に違う映画を見たい父母とは別に単独でこの映画を見に来たようです。後ろの席からの質問に「アニメも上映されているけど、この作品はけっこう見る価値があると思うの」と、大人びた答え。上映中も静かで特にはしゃぐ様子もなく、ポップコーンを食べながら淡々と見ていました。大声で「僕は(5人の子どもうちの)キミとアンジェラが好き!」と話し、主題歌が流れると一緒に歌い出す天真な男の子とは、明らかに精神年齢が違います。

上映が終わった出口では、若いイケメンのパパが、ママと一緒に女の子を待っていました。その夫婦のむつまじい様子を見て、「この子は両親に二人だけの時間を作ってあげようと別行動したのでは……」という考えが浮かび、思わず「まさかね」とつぶやいていました。うーん、どうやらいろんな子どもがいるようです、最近の中国には。

報道によれば、『爸爸去哪児』のヒットもあり春節連休期間中の興行成績は14億元を突破したとのこと。そして、来週はバレンタインデーですので、また映画館は人を集めそうです。そこでは人気ドラマの劇場版『北京愛情故事』など多数(たぶん7本)のラブロマンスものが公開されます。というわけで、テレビから映画へという流れには今後も注目していきたいと思います。

今年は折からのPM2.5問題もあって花火・爆竹自粛が呼びかけられて街は意外なほど静かで、花火売店もヒマだったよう 

連休明けの2月7日は深夜から雪が降り、北京では久しぶりの降水となった 

 

【データ】

爸爸去哪児(Dad, Where Are We Going?)

監督:シエ・ディークイ(謝滌葵)、リン・イェン(林妍)

出演:ジミー・リン(林志穎) 親子、グォ・タオ(郭濤)親子、ワン・ユエルン(王岳倫)親子、ティエン・リャン(田亮)親子、チャン・リャン(張亮)親子

時間・ジャンル:95分/家庭

公開日:2014年1月31日

 家族連れで大にぎわいだった新影連・華誼兄弟影院のロビー

新影連・華誼兄弟影院 

所在地:北京市朝陽区広順北大街16号望京華彩商業センターB1

電話:4000009009

アクセス:地下鉄13号線望京西駅下車、547路のバスで利沢中一路下車すぐ

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年2月7日

 

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