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婦人デーにぴったり!?『脱軌時代』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

 

「なんとかデー」は映画館も書き入れ時

最近ネットで「“節”が多すぎる」という書き込みを見ました。つい先日「情人節」(バレンタインデー)があったばかりなのに、3月前半には「三八婦女節」(国際婦人デー)「三一四白色情人節」(ホワイトデー)「三一五消費者権益日」(世界消費者権利デー)が続きました。これに合わせてネット・ショッピング・サイトでセールが行われたほか、映画界でも女性は半日休となる(今年は土曜日でしたが)国際婦人デーに女性客を呼び込みたいと、女性向けの作品をぶつけてきました。そのうち特に評判の良かった『脱軌時代』を、翌週になってから見に行ってきました。

舞台は広州市。民政局で夫の劉光芒(パン・ユエミン)との離婚手続きを済ませたばかりの許可(チャン・ジンチュー)は、わき見運転で「富二代」(富裕層の子女)の康(ケンジ・ウー)のクルマに追突します。その後、仕事に就いた彼女がツアコンを務める海外ツアーに康が参加するなど、偶然が重なり二人はお互いに関心を持ち始めます。一方、元夫の光芒は「小三」(浮気相手)のYOYO(バン・ジアジア)を拒絶し、生活を正して妻の帰りを待ちます。そんな時、許可は康に誘われて出席したパーティーで、顔を合わせたYOYOに挑発され……。

「屈しない女性」を演じて魅力を放つ

「脱軌」とは脱線のことです。ここでは、家庭の崩壊、離婚後の彼女の生活の混乱のほか、夫の浮気=「出軌」もイメージさせます。脱線というタイトルですが、困難に陥った女性の自立に向けた挑戦がユーモアを交えて描かれており、かなりポジティブです。ま、男性の観客の中には“ドキッ”とさせられた人も少なくないでしょうが(笑)。

ネットショップではスマートホンの電子決済をめぐり、3月8日をターゲットに、会員になると3.8元で映画が見られるなどのキャンペーンが行われた

夫の浮気に対して、「5年もの間、子どもの世話に追われ、化粧品も惜しんで倹約した揚句が、女の魅力がないと浮気だなんて!」と憤る許可はとても自尊心が強く、どんな時でも自らの尊厳を守ろうと、自分を愛するふたりの男性にも屈しません。例えば、年上の彼女を「おばさん」とからかいながらも真剣に口説く康を、「私にはパパの方がふさわしいと思うわ。あなたよりたくさん財産を持っているもの。今度紹介してね」とかわし、家に戻ってほしいと懇願する光芒の「君以外にこの家にかかわっていい女はいないんだ」という言葉に、「あなた以外に私をこんなに傷つけた人はいないわ」と切り返すといった具合です。

そんな気の強い女性を演じるチャン・ジンチューに圧倒されます。長いセリフだけでなく、階段の手すりから飛び降りようとしたり、プールに飛び込んだりと体当たりの演技が光ります。日本でも『孔雀―我が家の風景』(2004年)から最近の『ゴールデンスパイ』(2013年)まで多くの出演作が公開されている彼女ですが、改めて女優としての魅力を感じました。

そして彼女は、この作品ではプロデューサーにも名を連ねています。実は、自ら監督する意向があったようですが、演技するシーンが多い上にその演技も体当たりなものばかりのため、スーパーバイザーを務めたルー・チュアン(陸川)から演技に集中するようアドバイスされたそうです。それだけに、彼女の演技からは作品に対する思い入れが伝わってくるようでした。

ところで、妻に出て行かれた男の意気消沈ぶりを演じたパン・ユエミンの表情には迫真のものがありました。中国のファンは、この作品の彼を見ながら、実生活での女優ドン・ジエ(董潔)との泥沼の離婚劇を思い出したことでしょう。おっと、こちらが「八卦」(ゴシップ)に脱線してしまいました。

地下鉄4号線西四駅D口を出るとすぐに中国地質博物館がある 

中国地質博物館前には広場があり、日が暮れると大勢のダンス愛好者たちが「広場舞」を繰り広げる 

 

【データ】

脱軌時代(The Old Cinderella)

監督:ウー・バイ(五百)

出演:チャン・ジンチュー(張静初)、パン・ユエミン(潘粤明)、ケンジ・ウー(呉克群)、バン・ジアジア(班嘉佳)

時間・ジャンル:93分/愛情・ドラマ・コメディー

公開日:2014年3月7日

地質礼堂には映画館だけでなく、人気コメディー劇団の「開心麻花劇場」も入っている

羊肉胡同を入るとすぐアーチが見える 

地質礼堂

 所在地:北京市西城区西四羊肉胡同30号

電話:010-66178928

アクセス:地下鉄4号線西四駅下車、D口を出てすぐ地質博物館の建物の南側

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年3月14日

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