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新世代がさわやかに演じる『左耳』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

またまた青春映画にヒット作誕生

3連休のメーデー興行も引き続き好調で、国産映画では人気テレビドラマの映画化『何以笙簫黙』が最も注目されました。ホアン・シャオミン(黄暁明)とヤン・ミー(杨幂)という人気俳優の共演に加え、ホアン・シャオミンとリアル・カップルのアンジェラベイビー(楊穎)が共演することも話題になりました。しかし、大学生カップルのその後を描いたこの作品より、高校生カップルを描いた作品が予想外の健闘を見せており、5月10日までに4億6000万元を記録ました。それが『左耳』です。

2005年、景色の美しい海辺の地方都市(山東省日照市でロケされたようです)。大学受験まで3カ月に迫った李珥(チェン・ドゥーリン)は、あこがれのイケメン秀才・許弋(ヤン・ヤン)が不良と評判の黎吧啦(マー・スーチュン)の猛烈なアタックを受け付き合い始めたことにショックを受けます。彼が次第に不良化していくのを心配した彼女は吧啦の後をつけ、吧啦が張漾(オウ・ハオ)に暴力を受けているのを見て助けに入りますが、吧啦が本当に好きなのは張漾だったのです……。

 

 

 

映画館に飾られていた『左耳』のディスプレー

シネコンの入るショッピングモール・新燕莎金街は明るく高級感がある。まだ認知度が高くないためか、客がそれほど多くない感じがする

 

若い俳優の魅力を引き出した監督

私は公開からずいぶん過ぎた5月10日に王府井の映画館で見たのですが、ほぼ満席でした。上映前、2人で入ってきた若い女性の一人から「その席は私のじゃないかしら?」と言われましたが、結局彼女の勘違いでした。彼女は「私ったら、席の番号さえおぼられないの」と明るく笑って謝り、私の隣に座ったのですが、かなり物語が気に入ったようで、場面ごとに隣の友だちに感想を話すので、この作品がなぜ若者に人気なのかよく分かった気がしました(笑)。

作品では、どこの地方都市にもありそうな少年と少女のエピソードを比較的抑制のきいた画面で追い、不幸な出来事が成績優秀で内気な少女に影響を与え、彼女を少し大人にしていく様子がていねいに描かれていきます。最近の青春回顧ものに多い、狭い人間関係とどろどろに傷つけあう男女関係といった展開とはかなり違い、私には自然な感じがします。

ネット予約チケットを出力するマシン。以前は各サイトごとに別々のマシンだったが、最近はどのサイトで予約しても映画館のマシンから発券できるようになっている。以前のマシンはトイレに続く廊下に片付けられていた

そして、この作品で注目したいのは俳優陣の若さです。マー・スーチュンは1988年生まれの子役出身女優です。『歳月無声』(2012)では都会から転校してきたお嬢さんを演じましたが、この作品でははすっぱに見えながらも根は純情な田舎の娘を熱演しており、さすがに演技力が光ります。しかし、彼女以外の主要キャストはみな90年代生まれです。

オウ・ハオはテレビのオーディション番組『快楽男声』で注目された歌手で、すでに映画デビューもしている1992年生まれです。ヤン・ヤンはドラマ『紅楼夢』(2010)で賈宝玉を演じた若手イケメン俳優で、91年生まれ。そして、主人公を演じるチェン・ドゥーリンは、南京航空航天大学に通う女子大生です。清潔感があり、芸能エリート俳優に比べてより観客との距離が近い感じがします。これも若者に支持された理由かもしれません。93年生まれという若さです。

彼女の演技に、私はかつて見た台湾映画『藍色夏恋』を思い出しました。少女の立ち位置のようなものが似ている気がします。監督が台湾地区出身のアレック・スーだということも関係しているかもしれません。なお、彼の人脈でしょう、ヴィッキー・チャオ(趙薇)がエンディング・テーマを歌っています。

最後に、メーデー興行についてはシルビア・チャン監督の『念念』、ワン・シャオシュアイ監督の『闖入者』についても触れておきたいと思います。これら文芸作品は成績的にはふるいませんでしたが、私が見た回は両作品ともほぼ満席で、観客もエンドロールまで席を立たないなど、独特の雰囲気がありました。ワン・シャオシュアイ監督はメディアのインタビューの中で、もっと上映回数を振り分けてほしかったと話していました。劇場も商売ですからヒット作を多く上映したい気持ちは分かりますが、業界が好調の今こそ、長く映画を愛してくれるファンを育てるために、こうした意見にも耳を貸してほしいと思います。左右どちらでもけっこうですので。

 

この日曜日は母の日だった。このシネコンでは入場券で抽選ができるキャンペーンを実施していた。また、シネコンの入るショッピングモールでも抽選が行われて行列ができていた

 

 

【データ】

左耳(The Left Ear)

監督:アレック・スー(蘇有朋)

出演:チェン・ドゥーリン(陳都霊)オウ・ハオ(欧豪)、ヤン・ヤン(楊洋)、マー・スーチュン(馬思純)、フー・シャー(胡夏)

時間・ジャンル: 117分/ドラマ・愛情

公開日:2015年4月24日 

 

 北京耀莱成龍国際影城王府井店のロビー

 

北京耀莱成龍国際影城王府井店

所在地:北京市東城区王府井大街301号新燕莎金街ショッピングプラザ地下1階

電話:010- 65273227

アクセス:地下鉄1号線王府井下車、A口を出てすぐ

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

  

人民中国インターネット版 2015年5月11日

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