さえない男たちの冒険『我的狐朋狗友』

文・写真＝井上俊彦

中国映画を北京市民とともに映画館で楽しみ、そこで目にしたものを交えて中国映画の最新情報をお届けするという趣旨でスタートしたこのコラムも5周年を迎えることができました。中国社会がモノを消費する時代からサービスを消費する時代へと変化する中、この5年間で年間興行収入は130億元から440億元に急拡大、郊外や地方都市にもシネコンが続々開業して全国的に娯楽の定番となりました。その間にネット予約が当たり前になるなど、映画を楽しむスタイルも変化しています。そうした周辺事情も含めて中国社会の発展をよく映し出す映画は、日本人の私たちが中国を理解する一つの窓口にもなると思います。6年めもできるだけたくさんの映画をご紹介したいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。

青春末期の4人に訪れる大ピンチ

春節を前にまず学校が冬休みに入り、アニメ作品が多数公開されています。中でも『カンフー・パンダ3』が人気で、映画館には家族連れの姿が目立ちます。そんな中で、上映館も少なく公開されているのが『我的狐朋狗友』です。「狐朋狗友」とは、漢字からもだいたい想像がつくと思いますが、ろくでもない遊び仲間のことです。このタイトルに興味を覚え、北京西駅の春節帰省ラッシュを見学がてら北京世茂国際影城に見に行ってきましたが、これが今年初の「拾い物」でした。

物語は河南省の小さな町で始まります。女好きの唐明軍（トン・ユエ）は、地回りのヤクザ昆山（リウ・グァンチェン）の女にちょっかいを出してトラブルになり、追い詰められて昔からの遊び仲間に助けを求めます。明軍のピンチに駆けつけた3人の仲間たちですが、実際はあまり役に立たず、結局4人で逃亡することになってしまいます。そして4人が頼ったのは、昆のかつての相棒で、今は農業を営む柴でした。実は柴の妻は明軍の初恋の人、李先生だったのです……。

スターの出演もない低予算の地方ロケ映画ですが、最初はコメディーとして見ていた観客が、次第にほろ苦さを感じていく展開になっていました。30代後半を迎え、家庭もあるが成功にはほど遠い状況の仲間たちが、事件をきっかけに彼らなりのやり方で青春に区切りをつけていく様子が描かれているのです。男目線全開の作品で、友だちのために家庭も顧みない登場人物に、女性は「なんて自分勝手なやつらなんだ」と立腹されること請け合いです（苦笑）。それでも次第に明らかになる秘密から、4人を結びつけているものが理解できるようになると、だらしない男たちにも共感を覚えるようになりました。さらに、「そうだったのか」の仕掛けもよくできていて、じんわりと感動します。特に、苦い過去を引きずる万衆を演じるワン・ジンチュンがなかなか渋くて魅力的です。彼は『オルドス警察日記』の主人公のほか、『薄氷の殺人』ではクリーニング店の主人も演じていますので、中国映画ファンにはおなじみの顔ではないでしょうか。

冬休みに入り、子どもの姿が目立つ映画館のロビー

春節が翌週に迫ったこの時期、北京ではすでに帰省ラッシュが始まっており、週末でも道路は渋滞気味、映画館近くの北京西駅は帰省客で混雑していた

苦い思い出と河南の風景

監督のフォ・モンは1984年河南省の生まれでこれが初めての作品。監督の故郷でもある周口でロケが行われたそうです。周口は、河南省南部にあり、省都の鄭州から南東に約150キロ、伏羲や女禍の神話から、老子や陳勝・呉広、後漢の光武帝まで、多くの物語に彩られた歴史ある地域ですが、現在は決してよく発達した地域とはいえません。その風景がさえない青春末期の男たちの物語にぴったりと言ったら、地元の人に怒られるでしょうか。

ラストシーンで石炭を運ぶ列車に向かって4人が叫ぶ「火車別走、我們追不上了！（列車よ行くな、追いつけないじゃないか！）の言葉は、急速に発展・変化する中国社会、慌ただしく過ぎていく青春に対する、普通の男たちの気持ちを代表させているのでしょう。心に残りました。残念だったのは、観客が私の他にはカップルが1組だけだったことと、実は河南方言版があるという情報を後で知ったことです。たぶん河南省上映用でしょうが、どうせならそちらを見たかったと思いました。

なお、プロデューサーとして『スパイシー・ラブ・スープ』や『グォさんの仮装大賞』のチャン・ヤン（張揚）監督の名前がクレジットされています。報道では、制作に当たって彼があまりに多くの手助けをしてくれた上、報酬をと申し出ても一切受け取らなかったため、監督は非常に恐縮しているということです。