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新春特別企画【中国電影之旅 浙江編】

 

文・写真=井上俊彦

 元旦3連休にからめて休みをいただき、8日間の日程で映画に関する場所を訪ねながら浙江省を旅行しました。いわゆる「ロケ地めぐり」です。当初思っていた以上に興味深いものを目にすることができましたので、皆さんに「新春特別企画(笑)」としてご覧いただくことにしました。

普陀山 『不肯去観音』

日本でも報道されているように、北京では12月に断続的にスモッグが発生しました。出発時もスモッグだったのですが、2時間のフライトで舟山市に到着すると、爽やかな青空が広がっていました。浙江省の沿岸にあり103の島から成る舟山市は、中国で2番目に空気がきれいな都市と言われるだけでなく、初の国家指定海洋経済新区となっていて、発展に注目が集まる都市でもあります。

 不肯去観音院

さて、舟山でまず訪れたのは中国四大仏教名山の一つに数えられる普陀山でです。「名山」と言ってもここは一つの島で、南海観音などの有名な仏教施設が多数あります。その中で、中国映画ファンの私が目指したのは南海観音のそばにある「不肯去観音院」でした。ここには不肯去観音(行こうとしない観音)像が安置されています。この観音像が行こうとしない先は、実は日本です。そして、それにまつわる物語を映画化したのが2013年に公開された『不肯去観音』でした。内容についてはこのコラムで以前紹介しましたので、そちらをご覧いただければと思いますが、日本からやって来た僧の恵萼(えがく)を演じた中泉英雄の熱演が印象に残っています。この映画は、劇場では大ヒットとはいきませんでしたが、後になって地下鉄の中でケータイ鑑賞している女性を見たことがあり、知り合いでも「ネットで見ました」という人がいて、意外に見られているのかもと感じました。この後訪れた東極島でも、出会った若者に「その映画知ってるよ」と言われました。

http://www.peoplechina.com.cn/home/second/2013-07/30/content_558228.htm

今回は、その観音像を拝んできましたので、ご紹介しておきます。不肯去観音院の建物は思っていたより小ぢんまりとしていて、観音像も小さなものでしたが、シーズンオフにもかかわらず、かなり多くの観光客が訪れていました。それを見て、観音像は日本に行かないことで、両国の仏教交流を伝え続けているのだなと感じた次第です。

 

 安置されている不肯去観音 南海観音 

 

【TIPS】空港のある島の慈航広場からフェリーが運行されている。景勝地の入場(島)料140元のほか不肯去観音院は別に6元、南海観音は別に5元の入場料が必要。フェリーの料金は25元で、ほかに市内中心部の沈家門から片道28元の快速フェリーも運行されている。島内は山が多く、歩くとけっこう疲れるが、主要観光スポットに行く小型バスが2元からの料金でひんぱんに運行されている。

 

東極島 『いつか、また 後会無期』

次に、舟山市内の沈家門から連絡船で2時間かけて向かったのは、東中国海に浮かぶ小さな島、東極島です。人気作家の韓寒が自らメガホンを握った『後会無期』(2014)で、旅の出発点となったのがこの島でした。中国東端の小さな島で暮らす3人の若者が、クルマで中国大陸を横断するロードムービーで、幼なじみとの再会、ワケありのコールガールとの遭遇、文通相手との初対面、一人旅の若者の合流など、さまざま出会いと別れを経験し、それぞれに異なった人生を歩み始めるという物語です。内容に対する評判が高かっただけでなく、興行的にも大成功と言っていい成績を収め、主題歌や挿入歌もヒットするなど、一種の社会現象として扱われました。コラムのリンクはこちらです。

http://www.peoplechina.com.cn/home/second/2014-07/30/content_631994.htm

 

 ハイシーズンには大勢の若者が訪れるという

 

この作品は『いつか、また』のタイトルで、昨年日本でも一般公開されました。ご覧になった方の中には、東極島という名前や物語全体の雰囲気から、これを架空の島だと思った人も多かったと思います(中国でもそうでした)が、実は本当に存在します。四つの島を中心とする群島をまとめて東極島と呼んでいるそうで、連絡船は四つの島のうち最も大きな島にある廟子湖に到着します。映画の撮影場所もほとんどがこの島の中だそうです。船で一緒になった江西省と杭州から来た3人の若者たちも、ロケ地を訪ねて島に渡るところでした。いずれも1988年生まれという若者と意気投合した50年代生まれの私は、勢いのまま彼らと共にユースホステルのドミトリーに(たぶん37年ぶりに)宿泊し、その夜は宿のスタッフたちも含めていろいろ語らいました。日本人の私がいたため話題は主に中日関係や日本文化についてでしたが、彼らの日本に関する知識は豊富で、日本や日本人に対する見方も冷静だったことが印象に残りました。ただし、彼らはアニメやドラマなど日本のサブカルチャーにやたら詳しい反面、今でも日本の男性が極めて亭主関白だと思っているなど、普通の日本を誤解している点もありました。

 

 撮影場所として保存されている建物 柵の前には案内板も設置されている 

 

さて、若者と一緒にめぐったロケ地ですが、まず丘の上にはジョー・チェン(陳喬恩)演じる周沫の実家とされた建物が残されていました。映画では3軒の家が燃やされましたが、1軒はこわれてはいるもののそのまま残れさていました。柵で囲われていて、映画のロケ地であることを知らせるパネルも設置されていました。建物に落書きもなく、訪れる若者たちが映画とそのロケ地を尊重していることが感じられました。宿のオーナーの話によれば、この映画が公開されて以来、2014年の夏、15年の夏と、本当に多くの若者がこの島にやって来たそうです。最盛期には客を満載したフェリーが1日4便運行され、ゆっくり歩いても2時間で回れてしまう小さな島が連日2000人の若者であふれたそうです。映画が新たな観光地を生み出した一つの例というわけです。

 

 廃校になった学校の建物

 

ただ、気になることもありました。島では一人の子どもも見かけることがなかったのです。チェン・ボーリン(陳柏霖)演じる江河は先生という設定でしたが、実は現在の島に学校はありません。かつてあった小、中学校は、2000年代前半に教育の質向上のため他の島に統合され、子どもたちはみな島を去ったようです。そして打ち捨てられた学校の建物が残る一方、別の場所ではたぶん激増する観光客に対応するためでしょう、新しい変電所が建設中で、俗世間から隔離されたような島も、実は時代の流れの中にあることを教えてくれました。

大きな像はたいまつで村人を救った人物の伝説に基づくものだそう

【TIPS】舟山市の沈家門(半升洞)から東極島への連絡船は1日1便、朝8時45分発で2時間余りで到着。ハイシーズンには2便以上運行されるとのこと。料金は100~150元の3段階に設定されているが、この日はシーズンオフで100元均一だった。シーズンオフは到着後すぐに引き返す1便だけのため、島を観光するには宿泊が必要。

 

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