若手人気喜劇俳優3人が集合『不可思議』
文・写真=井上俊彦
中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。
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この週末で、映画の総興行収入が400億元を突破しました。約4週間を残して、昨年より100億元以上増加しているのです。何年も市場が拡大し続けているにもかかわらず、まだ年間30%以上の伸び率を見せていることには、驚きを禁じえません。この後もまだ『鬼吹灯之尋龍訣』などの期待作が控えており、最終的には440億元を上回るのではと言われています。
この土・日も2日間で3億元を軽く突破する興行収入を記録しましたが、人気はいささか分散気味で、ぶっちぎりの人気作品は見当たりません。『オデッセイ』や『極盗者(Point Break)』などの海外勢のほか、国内作品も多数公開されており、ヤン・ミーとリー・イーフォンがスターの禁断の恋を演じる『怦然星動』やアリエル・リン主演の『杜拉拉追婚記』などの恋愛ものに混じって、一風変わった、その名も『不可思議』という作品も登場しています。
唐立果(ワン・バオチアン)は王若水(シャオ・シェンヤン)の経営する宅配会社で働いています。ある日、自らトラックを運転して配送中に隕石のようなものに直撃され気を失います。そして目覚めると、地球外生物が彼にまとわりついていました。そして、この生物が起こす騒動にふりまわされているうちに、彼の生活に変化が生まれます。実は、立果は3年前に交通事故で娘を亡くし、そこから立ち直れないでいたのです。ところが、若水のライバルの一哥(ダーポン)はこの地球外生物の存在を知って、それを奪おうとします……。
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北京万画四季青影城があるショッピングセンターは映画館、キッズランド、フードコートなどは大勢の客でにぎわっていたが、物販店舗エリアでは改修が行われていた。ネットショッピングの影響が大きいとも言われる |
人気者を3人そろえたら3倍面白くなるか?
ワン・バオチアンは『人在囧途之泰囧(ロスト・イン・タイランド)』などで中国では大人気の喜劇俳優で、日本では『イノセントワールド~天下無賊~』(2004)などが公開されています。シャオ・シェンヤンは出演作の『女と銃と荒野の麺屋 』(2009)、『グランド・マスター』(2013)が日本でも公開されているので俳優のイメージがあるかもしれませんが、もともとはコントで知られるコメディアンで、国民的人気を持ちます。そして、ダーポンはこのコラムでも紹介した『煎餅侠』で今人気急上昇中の喜劇監督・俳優です。豪華な配役と言っていいでしょう、この顔合わせだけで見に行ってみようかと思った人も少なくないはずです。
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逄小威氏の写真展「電影的面孔」は東単にある視覚経典美術館で行われた |
3Dのこの作品、CGをたっぷり使ったSFファンタジーで、ツンデレの味付けをした男女間の愛や涙を誘う親子愛も盛り込まれ、若手人気コメディアン3人を配して随所にユーモアを交えています。つまりはてんこ盛りに盛った作品で、これを実績ある実力派の監督がまとめています。孫周監督はコン・リー主演の『きれいなおかあさん』(1999)や『たまゆらの女』(2002)などが日本でも公開されたように、以前は文芸作品を撮っていましたが、2012年にはリー・ビンビン(李氷氷)主演のラブコメ『我願意 I Do!』を監督しました。今回はさらに異なったタイプの作品に挑戦しています。
というわけで豪華なキャストとスタッフで制作された作品ですが、人気コメディアンを3人そろえたぶん3倍おもしろくなっているのか? というと、残念ながらそれはありません。正直に言って、配役的にはシャオ・シェンヤンの個性が生かされているとは思えず、ダーポンは完全にただの悪役でした。ベテラン監督は、随所に流行語を散りばめるなどの工夫していますが、残念ながら私の近所から爆笑は起こりませんでした。
中国映画110周年を記念して……
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大柵欄にある大観楼影城の外観と壁面の展示 |
ところで、今年は中国映画110周年(中国国産ストーリー映画が制作・上映された年から110周年)に当たり、イベントなども行われています。私もこの週末は映画を鑑賞するだけでなく、写真展も見に行ってきました。逄小威氏が撮影した映画俳優や監督など110人のポートレートを展示した「電影的面孔」と題するもので、とても興味深い作品が並んでいました。100周年に続いての写真展ということで、この10年間に新たに加わった新しい顔に、映画界の変化も感じました。そしてこれに刺激を受け、私個人も110周年を記念しようということで、その足で110年前に撮影された『定軍山』ゆかりの地を歩いてきました。作品が上映された大柵欄にある大観楼影城と、撮影場所の豊泰写真館があった場所(南新華街)です。コラムが始まった時にも一度登場しましたが、改めて最新の写真でご紹介しておきます。
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南新華街の豊泰写真館跡にあるレリーフ |
【データ】 不可思議(Impossible) 監督:スン・ジョウ(孫周) 出演:ワン・バオチアン(王宝強)、シャオ・シェンヤン(小瀋陽)、ダーポン(大鵬)、イン・ジェン(尹正) 時間・ジャンル: 99分/ファンタジー・コメディー・ドラマ 公開日: 2015年12月4日
北京万画四季青影城 所在地:北京市海淀区西四環北路117号 金四季ショッピングセンター仲段3階 電話:010-88493114 アクセス:地下鉄6号線海淀五路居駅下車、A口を出てすぐのバス停から698路などのバスで二つ目の四季青橋南で下車、歩道橋を渡り徒歩2分。 |
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2015年12月9日