ひと味違う青春回顧もの『我的少女時代』
文・写真=井上俊彦
中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。
若い女性の観客が爆笑の連続
台湾地区最大の映画賞金馬賞の授賞式が行われたこの週末に、大陸部で台湾映画『我的少女時代』が公開されヒットしています。
1990年代後半の台北、林真心(ヴィヴィアン・ソン)は秀才でイケメンの欧陽非凡(リー・ユーシー)にあこがれる平凡な女子高生です。ある日彼女は「幸福の手紙」を受け取りますが、お人好しで気の弱い彼女は破り捨てることができず、5通の手紙を書いて嫌いな先生や恋敵の陶敏敏のほか、非凡と対立する不良の沈太宇(ワン・ダールー)のかばんにも入れます。ところが、太宇は本当に不幸に遭い、自責の念もあって彼女は太宇の「パシリ」になってしまいます。すると敏敏が好きな太宇は、非凡と敏敏を引き離し、自分たちがそれぞれと付き合おうと提案してきます……。
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懐かしいカセットテープをあしらったポスター |
あらすじからも想像がつくと思いますが、90年代のレトロな味付けがされてはいるものの、基本的には王道の学園少女マンガのような物語です。ただ、ヒロインたちの善良さやひたむきさ、さわやかで健康的なストーリーに好感が持てます。映画サイトの紹介文には「人工中絶も二股もなし、感動が常にある」の文句も見られ、最近よくあるどろどろの青春回顧ものとの違いが強調されていました。
私は公開初日木曜日の夜に、市西部の住宅街にあるショッピングセンターのシネコンで鑑賞したのですが、200席近い大きなホールが前方2列ほどを残してほぼ埋まっていました。そして観客には圧倒的に若い女性が多く、とても楽しそうに鑑賞していました。太宇のときめかせるような行動には、「ワッサイ」「イ~」「アイヨ~(しかも語尾上がる)」などの声がしきりに上がっていました。もちろん、セリフにも爆笑が起こっていました。特にウケていたのは非凡と敏敏がこっそり育てている子犬を、太宇たちが持ち去るシーンの、「現在一起養狗、以後一起遛狗、日久生情、狗又生狗」(今一緒に犬を育てているけど、やがて一緒に犬を散歩させるようになり、日が経つにつれて情がわいて、犬はまた犬を生むんだ)というセリフで、付近では笑いながら復唱する声も聞こえました。
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枯れ葉の時期、会社近くの通りには清掃作業で集められた落ち葉を集めた袋が山積みされていた |
そしてそんな笑い声も、終盤には鼻をすする音に変わりました。隣の席の若い女性二人組はバッグを取り出ししきりにティシューを探していました。そして、上映終了後の退場通路は今見た映画についてあれこれ話す声に満ちていました。興奮冷めやらず、何かを話したくてしょうがない……久しぶりに見る光景でした。
台湾発ラブコメ最大のヒットに
公開からわずか4日で、この種の台湾映画としては過去最大のヒットだった『あの頃、君を追いかけた』の興行記録を上回り、1億元を突破しました。日曜日には単日で『ハンガー・ゲームFINAL:レボリューション』を上回りトップに踊り出ました。台湾地区の1990年代の学園生活は大陸部とはかなり違い、こちらの若者には違和感があるかと思ったのですが、逆に興味深く見たようです。実は、台湾風のコメディーはこちらではあまり支持されず、私もこれまで閑散とした劇場で台湾風のギャグが完全にすべるのを何度も見てきました。しかし、今回はまったく違う様子でした。チェン・ユーシャン監督は、台湾地区のテレビ局・三立電視台で数々のアイドルドラマの制作に関わってきた敏腕プロデューサーだそうです。台湾アイドルドラマは、ネットを中心に大陸部でも人気で、その文法を取り入れた作品は、大陸の若者にも受け入れやすかったのかもしれません。
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週末には本格的な雪が降ったが、街路樹の葉が残っている時期の積雪は極めて珍しい |
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今年初の本格的な雪に、雪遊びを楽しむ家族連れの姿も見られた |
作品を魅力的にしているのは、物語やセリフばかりではありません。ヒロインのヴィヴィアン・ソンのはつらつとした演技も印象的でした(金馬賞の主演女優賞にもノミネートされました)。先月公開された『十七歳』のチェン・ユーシー(程予希)、『宝米恰恰』(2012)『逆転勝』(2014)のホアン・ペイジア(黄姵嘉)と、台湾地区からは若い魅力的な女優が次々登場している印象です。私にとってはミッシェル・チェン(陳妍希)、アイビー・チェン(陳意涵)、アンバー・クオ(郭采潔)らが新世代の台湾女優という印象だったのですが、もう次の世代が活躍し始めたようです。
【データ】 我的少女時代(Our Times) 監督:チェン・ユーシャン(陳玉珊) 出演:ヴィヴィアン・ソン(宋芸樺)、ワン・ダールー(王大陸)、リー・ユーシー(李玉璽)、アンディ・ラウ(劉徳華)、ジョー・チェン(陳喬恩)、ジェリー・イェン(言承旭) 時間・ジャンル: 134分/愛情・コメディー 公開日: 2015年11月19日
星美国際影城・金源店 所在地:北京市海淀区遠大路1号 金源時代ショッピングセンター5階 電話:010-88878696 アクセス:地下鉄10号線長春橋駅A口下車徒歩1分、出口を出ると左手に巨大なショッピングセンターが見える
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2015年11月25日