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22時間鈍行列車での出会い

 

淺井遥介

大学2年生の夏に初めてバックパッカーとして一人旅に出た。東の上海から始まり、西安、成都、昆明を通って西の香格里拉まで、3週間で中国を横断する壮大な旅だ。今回は、中国への印象を変えた列車の中での出会いについて書きたい。 

中国では全土で鉄道が整備されているため、移動のほとんどに鉄道を使った。スピードも速く非常に快適だった。しかし、成都から昆明まで移動した際は鈍行列車の硬座に乗るしか手段がなかった。その距離800キロメートル、約22時間かかる長旅だった。しかも、私が手にしていたのは、硬座という最低ランクの座席のチケットだ。硬座の車両は治安が悪いからやめた方がいい、と言う人もいたので、果たして昆明に着けるのか、少し不安にもなった。ただ、旅を途中で止めるわけにもいかないので、思い切って列車に乗り込んだ。硬座の座席はその名のごとく硬く、背もたれは垂直で、小一時間座るだけできつそうだ。列車に乗ってすぐ、カルチャーショックを受けた。隣に座っていたおそらく30代くらいの隣の男性がひまわりの種を食べた際に、その殻を床にそのまま捨て始めたのである。ゴミ袋などに捨てない理由がわからず、不思議でもあったし、不快にも感じた。こんな列車で22時間も過ごせるのか心配になった。

この慣れない時間をやり過ごすために日本語の本を読んでいると、さきほどのひまわりの種を食べていた男性が私に興味を持ち始めたのを感じた。私も彼のことが気になったので、思い切って「これは日本語の本だよ」と、中国語で言ってみた。彼は納得したような面持ちになり、いろいろと質問してきた。しかし私の中国語レベルが足りないためか、彼の質問はあまり理解できない。とりあえず私はこれまで旅した西安や九寨溝の写真を見せ、これから雲南省に向かっていく、といった内容を拙い中国語で一生懸命話した。うまく言えないことは紙に書いた。彼は私の言いたいことがわかってくれたようで、にっこり笑ってくれたので、私も笑い返した。さっきまで不快だと思っていた相手とコミュニケーションが始まって、お互い笑い合うことができたのである。仲良くなって、彼は例のヒマワリの種を分けてくれたので、ありがたく受け取って一緒に食べた。私は、殻を捨てるのに、持っていたビニール袋を取り出してそこに捨てた。すると彼も私の行動を見て、ビニール袋に殻を入れ始めた。最終的には周りの人たちも私に興味を持ってくれて、私を取り囲むように話が始まって、時間もあっという間に過ぎた。

彼らとは習慣や価値観は全く違う。話す言葉も違う。黙っていればわかりあうことは難しいだろう。しかし、「互いへの興味」という共通点があったので、コミュニケーションをとって簡単に打ち解けることができた。このように習慣や価値観、言語の違いというギャップを埋めて仲良くなれたことが、私は本当にうれしかった。

私は大学一年生のころから大学で中国語を勉強していたが、旅の前は勉強する意義を見失い始めている頃だった。よくよく考えると、小さい頃家族旅行で北京に行って以来中国に行ったことがなかったし、実際の中国や人々の様子は、メディアから得た情報以外あまり知らなかった。旅に出たきっかけは、そうしたギャップを埋めたいと思っていたことにある。旅に出てみて気づけたことはいくつもある。私の中国語を活かして出会った人と仲良くなれたので、これまでの私の中国語学習に意味があったことを確認できた。また、実際に現地で人々とコミュニケーションができたことで、メディアで受ける印象からはわかりにくい人々の温かみを感じられた。こうした旅の経験を経て、中国にさらなる関心を持ったため、今は中国語を勉強しながら日本と中国の近現代以降の関係について大学のゼミで専攻している。私が中国の出会いで得た気づきは、これからも大切にしていきたい。

 
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