携帯を拾ってくれた中国人
原尻真理菜
留学生活にも慣れ始めたころ、授業が終わって私はいつものように友達と大学の食堂でお昼ご飯を食べました。そして寮の部屋に帰ってから「やばい、食堂に携帯置き忘れた」と気が付きました。幸い、食堂は寮の目の前だったので、すぐに取りに戻りました。しかし、予想外の展開が待っていました。当然あるだろうと思い、座っていた席をいくら探しても携帯はどこにも無かったのです。食堂のスタッフにも聞いても、落し物やそれらしい物は届いてないし見つかってないとのことでした。この短時間ですでに盗られてしまったのかと、私は唖然としました。中国用の携帯も持っていましたが、落としたその携帯は私が日本から持って行ったもので、買い換えるとなるとかなり高額なものでした。どうにかしたいと思い、とりあえず大学のオフィスへ行き先生に「落し物の携帯が届いたら連絡してほしい」と伝えました。しかし待っているだけでは無理だろうと思い、友達に協力してもらってパソコンから携帯の画面を操作し「私は東北財経大学の学生です。この携帯を拾ったら大学まで連絡してください」と中国語で打ち、携帯のロック画面に表示することができました。
しかし2日経っても音沙汰はありませんでした。もう無理だろうと思ってほとんど諦めた気持ちでいると、その翌日大学から連絡がありました。先生は「あなたの携帯を拾ってくれた人がいる。大学の近くで仕事をしている人です」と言って、拾い主の電話番号を教えてくれました。私は驚きのあまり「谢谢」としか言えませんでした。私はすぐに教えてもらった電話番号に電話をかけると、相手は若そうな中国人の男性で、私はひたすらお礼を言い、翌日その方の仕事場まで携帯を取りに行く約束をしました。
そして当日、彼の会社まで行き「来たはいいけど、ここからどうしたらいいんだ?」とオフィスの入り口で突っ立っていると、中から1人の男性が出てきたので「王さんはいますか?」と聞くとその男性は「就是我」と答え、さらに「これを落とした学生?」と、手に持っていた携帯を差し出しました。私は携帯を受け取り、お礼にチョコレートのお菓子を渡しました。彼は休憩中だったらしく、少し話そうと言ってくれました。彼は日系企業に勤めており、私が日本人だと知るととても流暢な日本語で、私の留学生活のことや、携帯を拾った経緯などを話してくれました。この出来事は、私の中国へのイメージを大きく変えました。スリが多い、治安が悪い、マナーが悪いなど、中国人は大体そうだと勝手に思い込んでいました。しかし彼は落ちている携帯を見て「持ち主が取りに戻ってくる前に誰かが持って行ってしまうかもしれない」と、携帯を持っていてくれていたのです。
当時は、中国ってこんなことばっかりなのかな、やっていけるのかなと不安でしたが、こんなに親切な人もいると分かって「何があっても大丈夫、何とかなる、優しい人いっぱいいるし」と思えるようになりました。その時携帯を拾ってくれた中国人の彼とは、日本に帰った今でも連絡を取ることがあり、今となってはそんなこともあったなぁという笑い話になっています。携帯落として良かったです。