「困ったときはお互いさま」中日関係の未来が見えた
(東洋学園教授 朱建栄=文・写真)
5月25日夜、東京の六本木ヒルズアリーナで、四川大地震チャリティーコンサートが開かれ、日本と中国のミュージシャンや歌手30人以上が4時間近くの熱演をした。このイベントについて日本のテレビ、新聞、そしてネットも、こぞって大きく伝えた。コンサートは黙祷で始まり、アグネス・チャン(陳美齢)さんは両国の出演者を代表して挨拶し、「四川の被災者の皆さん、頑張れ」と大声で叫んだ。その声に千人以上の人々がいっせいに呼応した。
|
|
|
四川大地震のチャリティーコンサートで挨拶する筆者(左端) |
チャリティーコンサートに出演したアグネス・チャンさん(右から3人目)らミュージシャンたち |
中国駐名古屋総領事館の李天然総領事(右)は日本の国際緊急救援隊の隊員に感謝状を送った(写真・新華社) |
クライマックスの一つは帰国したばかりの日本救援隊隊長の登壇のときだった。ある参加者のブログの記録を引用する。
「感謝 日本 堅強 中国」と書かれた紙をコンサート開催中掲げ続けた中国人女性。
国際緊急援助隊の小泉崇団長が四川省での体験を語ると、会場にいた中国人が大声で「感謝!!謝謝!!!謝謝!!!」って叫んだ。一人が叫ぶと、連鎖反応のようにみんなが拍手と感謝の言葉で団長を讃えた。
ものすごく感動して一人で泣いてた私。前にいる女の子にジロジロ見られて恥ずかしかった……
でも、この女性の「紙」や、中国人の感謝の叫びに、何らかの感動を覚えたのは私だけではないはず。
◇
チャリティーコンサートの準備にかかわった一人として、その熱烈な場面を見て無量の感慨がこみ上げた。学者・研究者の一人としてそこに、中日関係の未来を解く鍵も隠されているように感じた。
5月12日の地震発生直後から、一部の中国人有志者と団体はこのコンサートを企画し始めた。私は、開催の一週間前になってそれを知ったが、「在日中国人が主導で日本の支援に感謝し、更なる義援金を呼びかける発想はわかる。ただ、今回の大地震は国境を越えた全人類の関心事だ。日本も救援隊、医療チームを派遣して自分の仕事のようにがんばった。六本木ヒルズは日本の若者のメッカでもある。誤解を避け、両国の共通する立場を示すためには、日中共催の形を取ったほうがいいじゃないか」と提案した。
これが受け入れられて、日本と中国の共催の方向へ関係者一同は慌しく動き出した。前トヨタ会長・経団連会長で今も首相特別顧問を務める奥田碩さんは、海外にいたにもかかわらず、呼びかけ人の一人になると、秘書を通じて返事してくれた。在日中国人学者の活動をずっと熱心に支えている電通最高顧問の成田豊さんは呼びかけ人を引き受けただけでなく、電通のスタッフに、一流のコンサートになるための助言、企画参加を指示した。CCTV大富の張麗玲社長は、日本芸術界の重鎮の参加も重要と指摘し、浅利慶太・劇団四季の代表に何度も連絡して意義を説明して、やはり呼びかけ人に名を連ねてもらった。
アグネス・チャンさんには私が連絡を担当したが、呼びかけ人の要請に応じただけでなく、他の日本人ミュージシャンの出演参加にも声をかけると進んで言ってくれた。
在日中国人と日本の芸術家が競演し、中国国内からも有名歌手がボランティアで駆けつけた。辻孝文・舞台監督ら多くのスタッフが舞台裏で献身的に努力し、崔天凱大使も激務の中を駆けつけてフィナーレに登壇し、歌手たちといっしょに歌った。多くの日本人記者に感想を聞いたが、「違和感が一切なく、みんな感動した」と答えてくれた。
朝日新聞記者は「困ったときはお互いさま。少しだけ縮まった日中関係が見える夜だった」と紙面に書いた。ある日本人女性もブログで、
「かつても今も反目してしまう弱さを持つ人間ですが、ともに力を合わせて一つに向かうことができるのも人間のすばらしさです」
と感想を述べた。
◇
四川汶川大地震の救援・復興支援は日本で幅広く行われた。政府・企業・民間から多額の義援金が送られ、現地に緊急に必要なテントなどの物資も多く集まった。それだけでなく、地震対策で多くの経験を積んだ日本人専門家は中国に積極的に提案し、一部は中国側の要請を受けて現地に赴き、助言を行った。阪神大地震を経験した兵庫県、神戸市の関係者は、その後数年間かけて作り上げた復興計画などの資料を、中国側に無償で提供し、私が代表を務める日本華人教授会議のメンバー(王柯、黄磷、季衛東、劉徳強各氏らが中心)は留学生たちに呼びかけてその翻訳を担当した。
◇
中日関係の未来を考えるとき、今回の大地震からいくつかのヒントを得ることができる。
中国自身は被災地の情報を積極的に公開し、憶測を排除し、大半の日本国民から信頼を勝ち取り、国境を越えた人道主義的な連帯感を引き出した。
日本の救援隊、医療チームなどが現地に赴き、献身的な働きを中国の一般民衆に見せた。「顔の見える支援」で効果を挙げた。
地震多発国の日本から、災害への備え、発生後の対策、経験とノーハウを伝え、「日本ならではの支援と貢献」をした。
日本と中国、この2つの大国のGDPは足すと東アジア全域の8割以上を占める。国民同士のふれあいと助け合い、互いに敬意を表すこと、そして世界への共通責任を果たす意思、この3点が実現すれば、その将来をあまり心配しなくて良いのではないだろうか。
チャリティーコンサートの冒頭で私は主催者を代表して挨拶し、中国の若者が四川の大地震後に書いた言葉を紹介した。「どんなに大きい困難があっても、みんなが分かち合えば小さなことになる。どんなに小さな努力でも、いっしょにすればとてつもなく大きい力になる」。この話は中国と日本の関係の将来にも適用できるような気がする。0807
人民中国インターネット版 2008年7月
|