互いの素晴らしさ知る旅を
JTB中国の横内恒雄・上海万博営業推進担当に聞く
薛建華 賈秋雅 単濤=聞き手
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横内恒雄氏(写真・賈秋雅) |
日本でのチケット販売総代理店であるJTBは、これを機に、日本から中国へ、中国から日本への観光旅行を飛躍的に拡大させ、旅行業界そのものの底上げをはかりたいと意欲を見せている。東京にあるJTB上海万博担当である横内恒雄氏に、現状と将来の展望について聞いた。
――まず、上海万博が中国の経済・社会にもたらす効果について、感想を聞かせてください。
当初予定されていた7千万人の入場目標数が、確実に達成されると見込みとなっていることに、私たちは中国経済の勢いを感じています。
2005年に開かれた愛知万博の来場者数は2205万人だったのですが、それに関する経済効果の報告では、道路や空港建設、間接効果を含む生産誘発効果は、約7兆7千億円にのぼりました。また45万人の雇用を創出する効果があったのです。
上海万博も目標来場者数の達成によって、これまでの生産誘発効果に加えて、各産業にも広く波及する経済効果がもたらされるだろうと思います。その効果は中国の将来に非常に深くかかわっていくものです。
先日、上海の新聞に5月から7月までに中国に入国した外国人は、前年同期比41%増の138万人であったという記事が載っていました。これは主催者側が進めてきた外国人観光客の誘致が、望ましい結果を生んでいるということでしょう。
――万博会場の現場ではどんなことを感じますか。
私たちは旅行業者として、パビリオン入場の待ち時間、飲食、トイレなどについて、万博が始まる前にいろいろ心配しました。しかし、実際に万博を見たお客さまからは、「大変工夫がなされている」という良い反響が多く寄せられました。地下鉄、バスなどの公共交通や、タクシーの充実、混雑緩和、安全検査の徹底、乗車マナーの向上……さまざまな面で、工夫と改善がなされていると、私どもも耳にしております。
これは、プレ・オープンの時にあったいろいろな問題を解決した結果ではないかと思います。例えば、係員の数を増やし、会場内や上海市内にボランティアを数多く配置したこと、また係りの人たちが心をこめて対応したことが、駐車場、会場、パビリオンなどでのスムーズな入退場につながったのではないかと感じています。
また「食」についても、日本のたこ焼きやソフトクリームの店には、連日、長蛇の列ができていますが、日本の食文化に興味を持っていただいているのは、非常にうれしいことだと感じています。
もちろん改善が望まれる部分もまだあります。例えば地下鉄内で現在の来場者数をタイムリーにアナウンスするとか、あるいは会場内で今日のイベントには何があるかなど、日本語での情報の発信をもっと多くしてほしいという思いはあります。
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日本地区チケット発売に先立ち2009年6月25日に実施された共同記者会見の様子(写真・JTB) |
――日本人観光客を上海万博へ誘致するために、どのような努力を払ったのでしょうか。
これについては三つの面から申し上げたいと思います。
第一に、日本国内での上海万博に関する認知度を高めることです。これまでに海外で開催された万国博覧会へ日本人が見学のために足を運んだ人数は、それほど多くはありません。上海万博については、2008年に行った調査では、日本国民の認知度が6.5%にとどまっていました。そこでまず、上海万博の認知度を上げなければならないと手を打ってきました。
具体的には、各関係機関と連携し、PRイベントを実施しました。昨年4月に万博事務協調局が主催する東京・森ビルでの上海ウィークでチケット販売を予告し、7月には東京・台場で行われた日本館をメインにした上海万博PRミニ・イベントではブースコーナーを設けてチケットの宣伝を行い、開幕8日前にはJTB主催によるカウントダウンイベントを東京・六本木で行いました。
また、中国国家観光局や上海市観光局、日本サイドのご支援をいただきながら、日本語版のガイドブックを作成し、一般マーケットや社内代理店で配布しました。さらに日本のマスメディアに対して共同記者会見を行いました。全国紙のほか地方紙にも、上海万博についての記事広告、ツアー広告を出し、上海万博ツアーの存在を知ってもらう努力をしてきました。
第二に、業界の販売体制を組んだことです。JTBは日本地区の総代理店として、チケットの販売を業界挙げて取り組まなければならないと、旅行販売会社に呼びかけ、13の旅行会社及びチケット会社とコンソーシアムを組んで、業界としての販売体制をつくりました。そして、販売チャネルの多様化をはかり、さまざまなニーズへの対応をすると同時に、新たな需要の掘り起こしをはかりました。渉外営業、店頭営業、インターネット販売、各種通信販売、団体旅行、個人パッケージ旅行、パビリオンでのイベント参加、コラボレーション・イベントへの参加誘致など、さまざまな販売システムを活用し販売展開をしてきた。
第三は、万博会場内での問題を解決することでした。お客さまが安心して参観できる体制をつくろうと、関係情報をタイムリーに発信するよう努力してきました。例えば、中国館の外国人向け予約枠、団体旅客の入場と駐車場予約の問題など、毎日、どんなことでも、問題を放置せず、可能なかぎり交渉し、それを解決してきました。この努力はこれからも続けていきます。
――上海万博は、中日両国民の相互理解と国民感情の改善に何をもたらしたと思いますか。
中国の方からは、日本の技術が素晴らしいとか、係員の表情が終始笑顔だとかといった感想がかなり多く聞かれます。日本人と身近に接する機会がなかった方も、日本のサービス精神やホスピタリティーが素晴らしいと、「日本ブランド」の認知向上に役立っていると思います。日本館や日本産業館を見て日本に興味を持った人は、「もっと日本という国を知りたいなあ」「日本という国に足を踏み入れてみたいなあ」と思われたのではないでしょうか。上海万博は日本への訪問意欲をかきたてたのではないかと思います。
一方、中国を訪れた日本の観光客やビジネスマンは、万博会場内のみならず、上海市内の随所で、中国の経済発展の勢いを肌で感じたはずです。日本人にとって、日中双方の発展を願い、実際に実現するためには、やはりお互いの尊重と連携の重要性を認識しなければならないでしょう。
また、万博会場で繰り広げられているイベントに参加する形で日本から来た人たちは、日本の伝統文化や芸能を紹介することによって、日中両国の市民レベルで交流しました。参加された方にとっては、一生、記憶に残るのではないかと思います。
私も6月12日からのジャパン・ウィークに参加しました。沖縄の踊りを見ようと多くの観客が集まり、盛り上がっていました。ある参加者は、「こうしたインターナショナルなイベントに参加したことを大変誇りに思う」と語っていました。
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JTBは上海万博開幕8日前の4月23日に、「すでに10万枚のチケットが売れている」と発表。あいさつするJTBの執行役員・吉村久夫氏(写真・JTB) | 月12日に、JTBをはじめとする日本各界の協力により行われた、ジャパンウィーク・アジア広場での琉球国祭り太鼓の演舞(写真・JTB) |
――中国人観光客に対する日本のビザ発給要件が緩和されました。これに伴い、JTBではどのような取り組みをしていくのでしょうか。
日本の国としての成長戦略の一つは観光立国です。特に外国人観光客を誘致するための「ビジット・ジャパン」事業が大きな柱になっています。韓国、中国本土、香港、台湾の四市場は最重点市場として国が認識し、政策予算も重点的に配分されています。当社も中国市場については、その市場性、成長性から見て、最重要市場と考えており、国や自治体、地域にさまざまな提案をして、誘致のためのプロモーションや受け入れのインフラ整備などに取り組んでいます。今回のビザ発給要件の緩和で、個人旅行は「質」「量」ともに大きく変わると見ています。
まず「質」では、これまで北京、上海などに限られていた個人観光ビザの申請が、今回、訪日団体旅行を扱える中国全土の旅行会社でも、できるようになりました。中国本土のさまざまな町や地域からの人々がその対象になっています。個人観光ビザの普及に伴って、旅行の「質」と観光客のニーズは多様化していくだろうと思っています。私どもは中国の旅行会社に日本の魅力をアピールし、旅行のプランをコンサルティングしながら、そういった需要を喚起していきたいと思っています。たとえば、中国の富裕層に対しては、これまでのレジャー観光と違う付加価値の高い旅行を提案していきたいと考えています。
もう一つの「量」では、昨年度の日本政府観光局(JNTO)のデータによると、中国からの個人観光客の割合は全旅行会社の4割弱になっています。しかし、隣の韓国は八割強になっていますので、今後中国の個人市場の規模拡大が非常に見込まれると思っています。中国の市場でもインターネット販売が伸びているので、JTBもオンライン販売事業を強化し、お客さま個人に直接対応するB2C市場(企業と消費者との取引)のみならず、現地の旅行会社に対するB2B(企業間取引)のオンライン販売も提案していきたいと思っています。
――旅行によってもたらされるものは何でしょうか。
旅行には「交流」「文化」「教育」「経済」「健康」という5つの力が存在すると考えています。それを核にしながら「交流文化」というキーワードで事業を進めていきたいと思っています。
旅行というのはただの旅ではなく、そこに交流が発生します。その交流は人と人の交流だけではなく、文化や歴史などさまざまな分野での交流を通じて今後の産業が発展していくと考えています。その中で、旅行は非常に大きな要素だと思っています。
――中国の観光客がどんどん日本にやって来ています。日本の先進技術や伝統文化を紹介するだけでなく、心に響く交流が必要ではないでしょうか。
一例を挙げると、福島県磐梯町のある中学校ではいま、『論語』をベースに授業を始めています。江戸時代、そこは会津藩で、武士の子弟が『論語』を学んでいました。磐梯町の町長から、地元の活性化のために『論語』を生かして文化を作ろうと取り組んでいるので、ぜひ中国の方々と市民レベルの交流をしたいという希望がありました。そこで私どもといっしょに中国に行っていただき、学校や市民団体を訪問して、プロモーションを行いました。
JTBではいま、中国の小学生や中学生を対象に、大都市ではなく、日本の地方でホームステイをしてもらう事業も行っています。このような交流は将来につながっていくと思っています。お互いの本当の生活を体験することによって理解を深める事業を、今後も進めていきたいと考えています。
ビザ発給要件の緩和に伴って、観光で日本を訪れる人がますます増えていくことでしょう。JTBは、これを今までになかった環境の中での、新たな、良い意味でのビジネスチャンスと捉え、できることをしっかりやっていきたいと思っています。
人民中国インターネット版 2010年9月15日