People's China
現在位置: 2010年 上海万博推介

クラシックから現代舞劇まで

 

香港ウィークは十月十八日に開幕式を行い、二十一と二十二日の両日には香港で「オペラのプリンス」と呼ばれ、テノール歌手であるウォーレン・モク(莫華倫)が公演するなど万博の終盤を飾る多彩な出し物が二十二日までの五日間にぎっしり詰まっている。陳子敬香港万博事務弁公室主任は「香港ウィークでは香港の文化の多様性ばかりでなく、クリエイティブな面も含め、国内外の来場者に本物の『香港テイスト』を味わっていただきます」と語っている。

香港警察音楽隊が登場

「香港警察」と聞いて、さて、あなたのイメージに浮かぶのは、どんな姿だろう。映画『ポリス・ストーリー』でジャッキー・チェン(成龍)が演じた次々と難事件を解決する腕利きの刑事だろうか。実は香港警察には音楽の才能に恵まれた錚々たるメンバーが顔をそろえているのである。香港ウィークの開幕式を皮切りに、十八日と十九日、香港警察音楽隊が万博会場慶典広場に登場、梁宝根音楽監督率いる四十八人が見事な演奏を披露する。

まず登場するのが、バグパイプ楽隊だ。スコットランドのキルトに身を包んだ十六人が祝典の華やかさをいっそう盛り上げる香港警察音楽隊ならではの名演奏を繰り広げる。香港警察音楽隊隊員は英国王立音楽学院のグレードを取得しなければならないだけでなく、体格や体育の素質にも恵まれていなければならない。警察官である以上、不測の事態が起これば、身を挺して事件に対処しなければならないからだ。

香港警察音楽隊は、一九五一年に警察官のアマチュアバンドとして発足した。五四年にバグパイプ楽隊と鼓笛隊が編成され、一九七〇年になって、はじめて専門の音楽隊として独立したのである。現在では、香港唯一の儀仗音楽隊として、年に六百回もの演奏をこなしている。特別行政区政府の貴賓歓迎式典、各種祭典や表彰式などの際にはなくてはならない存在として引っ張りだこなのだ。

梁さんが目を細めながら語ってくれた。「やはり、なんといっても忘れられないのは香港が祖国のふところに帰ったあの日の演奏ですね」。梁さんは音楽隊に入って二年目にもかかわらず、祖国復帰式典では指揮を担当した。「あの日は大雨でしたので、いま思ってもほんとうに辛い演奏でしたが、その歴史的な意義を考えて、皆、胸が震えたものでした」

万博会場慶典広場での演出に話が及ぶと、梁さんは「まず最初の十五分間はマーチングをお見せします。香港警察音楽隊の特色は『中西結合』ですから、バグパイプ楽隊あり、軍楽隊ありで、万博会場では、中国の曲からスコットランド民謡、流行歌まで、盛りだくさんな演奏を披露しますが、楽曲だけでなく歌も歌いますのでご注目を。軍楽隊は白一色の制服で登場します。手にした楽器はすべて銀メッキされていますので、音もよく響き、白の制服ともマッチします。どうぞお楽しみに」

ピアノと二胡がジョイント

視覚障害のある若いピアニストと二胡の大家が、香港の名曲『獅子山下』を合同演奏する初めての試みが、十月十八日、万博会場内の宝鋼大舞台で行われる。

李軒さんは先天性の視覚障害に見舞われ、極度の弱視にずっと苦しんできた。十一歳からピアノを習い始めたが、楽譜を読むのにもルーペが必要だった。音楽の才能に恵まれてはいたが、学校では飛び抜けた成績を残せなかったため、卒業後は化粧品会社の電話セールスの職に就いた。昼間は、そっけない言葉で電話を切られることばかりだったが、夜はホテルのラウンジなどでピアノを演奏し、拍手で迎えられた。いつ失明してしまうかも知れない李さんは今年二十五歳。二〇〇九年、身障者の芸術活動を支援する香港展能芸術会の推薦があって、電話セールスの仕事をやめ、プロのピアニストとして独り立ちした。

「昼間は(電話の相手から)ののしられるのが常でしたが、夜には拍手で迎えてもらえた。あの生活があって、今日の私があるのです」と李さんは明るく笑う。

香港ウィークの公演では、二胡の大家、黄安源氏とのジョイントコンサートのほかに、ピアノの弾き語りも披露するとのこと。大好きな曲『僕は歌が歌えない』(我不会唱歌)を心を込めて歌いたいという。

二胡の大家、黄安源氏。趣味は二胡の収集。自慢の象象牙製二胡を手に

黄氏の半生も決して順風満帆ではなかった。「文化大革命」の期間、彼は劇団の普通の二胡奏者にすぎなかったが、研鑽を積むのを忘れなかった。一九七七年、三十二歳の時に妻子をともなった香港に移住。二胡の演奏に秀でるほかには何の才能もない彼は建築現場で働くしかないと覚悟していたが、当時、香港では民族楽器の演奏ができる人材が不足しており、設立されたばかりの香港中楽団に採用された。しっかりした基礎を身につけていた彼は楽団員の人望を集め、やがて楽団長に。以来、団長の重責を二十七年間も担い続けてきた。

香港ウィークでは李さんとのジョイントコンサートのほか、息子との父子合同演奏も披露する予定だ。

ハーモニカの「オーケストラ」

ほっそりとした長身、見るからにインテリ風の駱英祺さんは二つの身分を持っている。ふだんは多国籍企業の首席財務官としてオフィス通いの毎日だが、ひとたび背広を脱いで燕尾服に着替えると、さっそうとした「キングズ・ハーモニカ五重奏団」の団員に変身するのである。楽団の創設は一九八七年。香港の名門、キングズ・カレッジ(英皇書院)の同窓生五人で結成した。

ジャズ楽団「香港サタデーナイト・ジャズオーケストラ」もやってくる。上海のダンサーたちも加わり華麗なジャズシーンを繰り広げる。

駱さんらとの待ち合わせ場所はキングズ・カレッジの古めかしい教室だった。退勤のその足で駆けつけてくれた駱さんは、「ここのハーモニカ楽団は六十年の歴史を持っています。私たちは五人ともここの楽団の出身ですが、それぞれ勤め先は違っても、ハーモニカに対する熱愛の気持ちは少しも変わりません」と目を輝かせて語り始めた。

五重奏団を立ち上げたばかりの頃は、演奏会を開くたびに経費は持ち出しで、運営にはずいぶん苦労したらしい。海外での公演にもただ五人だけで出向いたが、やがて母校の教師や学生らも同行してくれるようになり、二〇〇四年には香港で「アジア・太平洋地区ハーモニカ祭」が開かれることが決まると、多くの人々の協力と支援が必要になった。祭は大成功に終わり、この成功が契機になって、同好者が八十人以上に増え、香港ハーモニカ協会が設立された。

香港ウィークでは、協会を挙げて一大イベントを繰り広げる。完全な「ハーモニカ・オーケストラ」には最低でも十人の低音部・中音部・高音部のハーモニカ奏者に加え、アコーディオンやベース、チェロなどの奏者も必要で、二十人からなる楽団に膨れ上がる。この陣容を整えた楽団なら演奏効果は管弦楽団にも決して劣らない。

五重奏団で低音部を担当する関文豪さんは力を込めて次のように語ってくれた。「今回の公演は特別です。協会員の八十六名が参加します。二胡奏者の黄氏、ピアニストの李さんとの合同演奏もありますし、宝鋼大舞台と慶典広場ではそれぞれ一時間ずつ特別公演も行います。『オーケストラ』あり、独奏あり、二重奏あり……。私たちのすべてをお見せしますので、是非お運びを」

舞劇で香港の魂を表現

香港ウィークの閉幕式を飾るのが舞劇『兵士の物語』。ロシアの作曲家ストラビンスキーが一九一八年、スイスの劇作家ラミューズの台本をもとに作曲したもので、ロシアの民間伝説が基になっている。ステージに登場するのは四人だけ。物語の語り部、兵士、悪魔、王女。音楽と朗読、舞踊が一体になった素晴らしいステージが繰り広げられる。

記者は今回の万博会場での公演の監督と振り付けを担当した伍永烈氏とオーケストラの指揮者、葉詠詩氏の二人に話を聞いた。

伍氏は思い切って物語の舞台を前世紀初めのロシアから今日の香港に変え、「兵士」も現代のサラリーマンと同じスーツ姿にした。また原作の冗長な部分はあえてカットして、全体を四十五分間の舞台に再編集したのである。「舞台装置は変わっても、物語はきっと観衆たちの共感を得ることができると信じています」と伍氏。

語り部には香港独立楽団に所属する朱柏謙氏が選ばれた。朱氏にとって、普通話(中国語の標準語)での語りは初めてのことで、大きなチャレンジになる。指揮にあたる葉氏はアジアのクラシック音楽界で声望のたいへん高い指揮者だが、ステージでは、タクトを振るだけでなく、ダンサーとの掛け合い場面もあるという。観衆は音楽を聴きながら舞踏を鑑賞し、物語にも耳を傾けることになるが、ステージでは出演者もいくつかの役をこなすなど、なかなか忙しいらしい。

伍氏の大胆な改編を経て二〇〇五年に『悪魔の物語』のタイトルで公開されたこの舞劇は香港で大好評を博した。葉氏は次のように語り、万博会場での上演に並々ならぬ意欲を示した。

「この舞劇のテーマと香港ウィークが表現しようとしている理念が期せずして一致しました。ただ新しさを追求するのではなく、その新しさの中には香港の現実が反映されています。私たちに必要なのは単に芸術的な追求を深めることではなく、最も重要なのは香港の魂を表現することなのです」

 

人民中国インターネット版 2010年10月

 

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