People's China
現在位置: 2010年 上海万博推介

都市・農村間の格差は縮まるか
ーー浙江省紹興市で第五回上海万博テーマフォーラム

 

孫雅甜=構成

九月九、十日の二日間、浙江省の紹興市で「経済のモデルチェンジと都市・農村間の相互発展メカニズム」をテーマに第五回上海万博テーマフォーラムが開かれ、国内外各界から招かれたパネリストがそれぞれの所見を述べ、活発な討論が行われた。話題は、今日の中国が直面する都市と農村との間の収入格差の広がりに集中したが、総括発言に立った李培林中国社会科学院社会学研究所長の発言「農民に再び苦しい生活を強いるようなことがあってはならない」の言葉は、全出席者の思いを代表するものでもある。フォーラムに参加した中国の政策担当者と専門家・学者もまたこの思いを無にすることなく、努力を重ねることを表明してフォーラムは幕を閉じた。以下に代表的な発言の要旨を紹介する。

農村発展の基本的な条件

張暁強中国国家発展・改革委員会副主任は発言の中で最新のデータを明らかにして次のように語った。

「二〇〇三年の農民一人当たりの年平均純収入は二千六百二十二元だったが、二〇〇九年には五千百五十三元にまで増えた。今年上半期の農民一人当たりの平均現金収入は前年同期比九・五%の伸びを見せている。国家は、農民を自然条件が極端に劣った地域から比較的条件の良い地域に引越しさせるなど、多様な施策を通して貧困地域をなくす政策を進めてきた。農村の貧困層人口は絶えず減少している」

農村での生産・生活条件は著しく改善された。まず挙げられるのは、インフラの整備だ。

農道は整備され、電気が通じ、メタンガスを利用する自前の熱源供給が普及し、農村に水道、電気、交通、通信の設備が普及したことで、農村社会発展の基本的な条件が整った。公費による義務教育と新しい農村合作医療制度が実施されたことで、文化面での生活も格段に向上した。

今後は都市・農村間に存在する公共サービス上の大きな差異をどれだけ縮めることができるかが政策の重点になる。

万博テーマからの啓示

兪正声中共中央政治局委員・上海市党委書記はあいさつの中で次のように述べた。

経済のモデルチェンジと都市・農村間相互発展メカニズムの構築は、経済のグローバル化が進み都市化の波が押し寄せる中で、各国が直面する共通の課題になっている。今日、国際金融危機がまねいた世界的な構造変革と秩序の再構成という大きな局面の中では、伝統的な経済発展モデルは通用しない。新しい科学技術革命が始まっており、グローバル経済の構造も変わり、競争が激化している。旧制度の変革と都市・農村間相互発展メカニズムの構築がぜひとも必要だ。高度経済成長を続けてきた中国もまた、こうした世界の大きな流れの中で、発展の不均衡、不調和、持続不可能といった問題を多く抱えるようになっている。限りある資源、守らなければならない自然環境、海外市場からの要求といった条件を無視しては経済の健全な発展は望めない。中国では都市・農村間に存在する矛盾はなおたいへん大きい。

万博は人類の文明の成果が一堂に会する盛会であり、百六十年来、世界の経済と都市の発展をリードしてきた。また、経済と科学技術の成果を展示してきただけでなく、都市文明と都市・農村の相互発展メカニズムが進展する歴史をつづってきた。上海万博のテーマは「より良い都市、より良い生活」だが、今後、都市が農村と協調し、両者が調和の取れた発展を遂げることができるよう、そのための理念と実践例(モデル・プラクティス)が展示されている。そこから多くの啓示が得られるのではないか。

限られた耕地に多くの農民

農民の収入が都市住民に比べて低いことに言及して、樊鋼中国経済改革研究基金会国民経済研究所長は、農民の収入が低いのは農産物価格が低く抑えられているからだ、とする見解に反対し、次のように語った。

中国の食糧価格は国際市場とリンクしており、農民の収入が低いのは、限られた耕地に多くの農民が依存していることにある。問題の解決には多すぎる農民を他の職業に転出させ、耕地面積あたりの農民人口を少なくすれば、おのずから一人当たりの農業収入は多くなる。少なからぬ人々が、農民の収入を上げるには農産物価格を上昇させればいいと言っているが、それは間違いだ。農産物価格は個人や政府が上げたいと思って上がるものではなく、それは市場が決定する。中国は国際市場から農産物を輸入しており、仮に国内の農産物価格を人為的に上げるなら、そのマイナス面は推して知るべしだ。

政府による教育と職業訓練

二〇〇七年のノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者、エリック・マスキン氏は、農村における教育と職業訓練を充実させることで都市・農村間の格差を縮めることができると発言し、次のように述べた。

長期にわたり、中国の農民は多くの汗を流してきたが、その莫大な労働力はなぜ、グローバル経済の発展がもたらした恩恵に浴することができないのか。原因は、その労働力がグローバル経済が求める技能を有していないからだ。農民自身がその技能を身につけるよう望むのは非現実的である。彼らにはそのための資金も条件もないからだ。企業がこの任務を引き受けるべきだと考えるのも同様非現実的だろう。理由は簡単だ。技能を身につけた農民たちは当然のことながら高い報酬を要求する。企業にとって、それは望むところではないからだ。農民でも企業でもない第三者が教育と職業訓練に当たる必要がある。中国政府はこの任務を遂行することができる。農村での教育と新しい時代に見合った職業訓練に投資することで、農民の資質は高まり、都市住民・農民間の収入格差はしだいに縮まるであろう。

農村部に小都市の建設を

ヨシュカ・フィッシャー元ドイツ副首相兼外相は、都市・農村格差を縮めるためには、農村部に小都市を建設することがどうしても必要だと提案し、次のように語った。

なぜ農村の人間が大都市に移り住みたいと願うのか。肥大化し問題が山積する大都市は人口増加を望まない以上、農村部に小都市を建設することで、解決を図らなければならない。まずは政府が大規模な建設投資を行い、次に企業がそれを補完する形で投資する。この小都市での生活が快適で、教育も行き届き、福祉も完備するなら、人々は大都市に移り住もうとは思わなくなる。ドイツをはじめとするヨーロッパの国々では多くの地方小都市と農村に住む人々は充実した生活を送っており、大都市に移り住もうとは思っていない。近年、ルーマニアやブルガリアでは都市・農村の格差を縮めるために同じような小都市建設に政府が大規模な投資を行った。中国政府がこうした経験の中から有意義な点を見出してくれるよう望む。

ボトルネックは戸籍制度

李稲葵中国人民銀行貨幣政策委員会委員・清華大学金融学部主任は、中国の都市化はまだ深化していないことを指摘して、次のように述べた。

全国で一億人に上る農村出身者が長期間、都市での労働に従事しているが、彼らは都市住民としての身分を保証されていない。彼らの経済発展における貢献も、経済のモデルチェンジにあたっての役割も十分に評価されていない。この問題を解決するためには、何よりも制度上のボトルネックを解消することが先決だ。そのためには戸籍管理制度に思い切ってメスを入れることが必要で、そうしてはじめて都市の潜在力を十二分に掘り起こすことができる。ただ、戸籍制度にメスを入れるといっても、全国一律で一刀両断式にやるわけにはいかない。各都市の事情に合わせて、各個に適当な方法を取るべきである。しかし、大方向では、市場原理を有効に用いて現行の都市戸籍と農村戸籍を分けるという、都市化の深化にとって最大のボトルネックになっている制度を改革しなければならない。

条件が熟している都市では、アメリカの「グリーンカード」のような移民制度に準じる方法を採用する。このカード(都市永住許可証)は、まず雇用者側に発給するのも一つの方法だ。しかるべき根拠に基づいて申請された分の労働力に応じたカードを企業に発給し、まず企業が必要な労働力を確保する。五年から七年後、このカードを持つ農村出身者を正式に都市住民に転入させるのである。混乱を招かないなら、さまざまな方法が個別に取られていい。

都市と農村が一体で発展

李揚中国社会科学院副院長・中国金融学会副会長・中国財政学会副会長は、全国の都市化率がすでに四五%になっていることを挙げ、都市・農村間の収入格差はしだいに縮小されていると述べて、次のように語った。

人口と資本が都市・農村間を双方向で流動している。それは都市と農村が一体になって発展するという新しい段階を迎えたことを意味している。都市と農村との格差を縮めるには、さまざまな措置が必要だが、まずは農民の三つの権利をしっかり守ることだ。労働権、住居所有権、土地使用権の三つである。なかでも土地使用権を守ることが核心だ。第二には、農村におけるインフラ整備と公共サービスを社会管理と一体化させることが問題解決のカギになる。道路が通わず、電気が来ず、行政が行き渡らないなら、資本の投入のしようがない。都市と農村を問わず公共サービスを均等化し、戸籍制度も含め社会管理を一体化する。都市と農村が一体となって発展するなら、最終的には中国における都市・農村の収入格差はなくなるのである。

何よりも民生問題の解決を

郭宝成陝西省楡林市神木県党委員会書記は、全県下で無料医療制度を実行している経験を紹介して、次のように述べた。

現在、神木県では都市部の人口が七五%、農村部の人口が二五%だが、農村部でも養老年金が支給され、子どもたちは十二年間の義務教育が受けられる。大学に上がれば助成金があり、孤児と身寄りのない老人は県で世話する。

全県下で医療費の無料化が行われているが、この制度は二〇〇九年に一億五千万元を投入して実施に踏み切った。何よりも大事なのは、民生上の問題を解決することである。神木県でのこの一年半の実践に照らしてみても、民生方面の施策の充実こそが人々の真に求める政策であることが分かる。実は民生面の投資は「回収」が速い。社会福祉が充実すれば、県民に後顧の憂いがなくなり、消費は伸び、経済は持続的な発展を見せ、良性循環が生まれる。

医療問題が解決し、義務教育が普及し、老後の不安が解消され、障害者や孤児、身寄りのない老人が保護され、障害のある児童の問題も解決されれば、都市と農村とで福祉をはじめ条件に格差があるという二重構造の問題はおのずから解消してしまうのである。

 

人民中国インターネット版 2010年10月

 

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