陳式太極拳② 八大特徴
「陳式太極拳」の継承者である陳沖さんは、昨年、自宅の庭に3階建ての宿舎をつくり、武術学校を開設した。「国家一級拳師」「国家武術一級審判」など、数多くの肩書きを持つ彼に、陳式太極拳の特徴について聞いた。
陳式太極拳は8つの特徴をもつ。
熱心に練習に励む生徒たち |
太極拳は、意を用いて意を鍛え、気を動かして気を鍛える拳法。そのため、練習するときは「心をもって『行気(体の一部に気を集めたり、気を通したりすること)』する」ことに注意する。心は命令者であり、気は命令を受けて動く「旗」である。
一挙一動は、まず意が動き、そのあと実際に身体が動く。こうしてこそ、「意到気到、気到勁到(意が到れば気が到り、気が到れば勁[力]が到る)」になる。長く繰り返し練習すれば、気は骨にまで到り、「行気」の最高の境地に達す。
二、四肢が伸びた弾力性のある運動
太極拳を練習するには、四肢を伸ばして、全身の弾力性を強化しなければならない。そうしてこそ、「掤勁(弾力性のある勁)」が出てくる。
拳譜(太極拳の伝書)によると、「首筋を上に伸ばすように勁をいれ、気を丹田に沈める」というのは、身体を伸ばすこと。「胸をまるめて背を伸ばし、肩を沈めて肘をたらす」というのは、胸を支点にして背中を伸ばすこと。「腰を緩めて股下にまるみをもたせ、股を開き膝をまげる」ことで、足が自由に回るようになる。これは足を伸ばした結果である。「精神を集中させて気を集め、四肢を伸ばす」というのは全身を伸ばすことだ。
優秀な武術家をたくさん育てている陳沖さん |
拳譜には、「糸をひっぱるように動き、糸をまきつけるように勁を動かす」とある。これは弧を描いて動く、太極拳の動きの形態を説明したもの。「纏絲勁(螺旋状の捻りを伴った勁)」がないと、勁が身体に巻きつきながら上昇し、一気に達することは不可能となる。
四、体を中正にし、上下を連動させた虚実運動
前に進んでも、後に退いても、左に回転しても、右に回転しても、四肢の動きがどのように変わっても、頭のてっぺんから胴体までは、一本の線のようでなければならない。
両肩は両足の付け根は、同時に前に進んだり後に退いたりし、前後してはならない。両手と両足は「虚」と「実」があり、左手が「実」だと左足が「虚」となり、右手が「虚」だと右足が「実」となる。これは内面の勁を調節し、中正を維持するための大切なことである。
はじめは、「虚」と「実」がはっきりとわかる動きから練習する。しだいに「虚」と「実」が小さい動きに進み、最終的には、内面に「虚」と「実」があっても外からはわからないという境地に達する。
コーチは一つ一つの動きを厳しくチェックする |
拳譜には、「腰と脊椎が第一主宰者であり、その動きによってすべてが動く」「全身がひとつづきになり、少しの途切れも許されない」とある。腰は左右を平行に回す中軸であり、上下を曲げる根幹である。腰と脊椎を重点とすることによって、全身の主な関節をひとつづきにし、「周身一家(気を途切れなく全身に流すこと)」という境地に入ることができる。
六、途切れなくつながり、一気にやり遂げる運動
太極拳は一部分を動かすとすべてが動くだけでなく、内面の勁を絶えず発し、一気にやり遂げなければならない。拳譜には、「収めることは放つことであり、放つことは収めることである」「勁が絶えても意は絶えず、意が絶えても神(精神)は続く」とある。
七、「柔」から「剛」が到り、「剛」から「柔」が到る剛柔運動
拳譜には、「運動の極意は、まず『硬』を『柔』に変え、そのあと『柔』を『剛』に変える練習をする。極みに達すると、『柔』でありながら『剛』でもある。『剛』と『柔』はともにあり、そこから陰陽が見える」とある。
太極拳を学ぶには、まずは人々の動作のなかにもともとある「硬」を打ちつぶして「柔」にする。そしてその「柔」をより弾力性のある「剛」へ向わせる。しかしこれは「銑鉄」のような「剛」ではなく、高炉で溶かして精錬した弾力性に満ちた「剛」のことである。
生徒の構えから「体を中正にする」とはどういうことかわかる |
初心者は、時間をかけてゆっくりと動きを練習するほうがよい。動きが遅ければ、それを直す機会があるからだ。熟練の程度を見て、徐々に動きを速める。しかしスピードを速めても、上滑りになったり、めちゃくちゃになったりしないよう、落ち着いてやらなければならない。そうしてこそ、推手の「相手が動く気配を見せれば、こちらは先んじて動く」「相手が速く動けば、こちらも速く応対し、相手がゆっくり動けば、こちらもゆっくり対応する」ができるようになる。
太極拳の「虚」と「実」、「剛」と「柔」について、陳沖さんは次のような話をしてくれた。
1995年、22歳の陳さんが武術学校でコーチをしていたころのこと、山東省からある男性が太極拳を学びにやって来た。身長190センチのたくましい体格をした彼は、幼いころから「長拳」を学んでおり、武術の基礎はしっかりと身についていた。太極拳を学び始めたばかりのころは、陳式太極拳の攻撃力をいかほどのものかと疑いを抱いていて、陳さんに手合わせを願った。
その男性がひとけり入れると、陳さんはそれを巧みによけ、相手の勢いにのって引っ張った。男性は慌てて退こうとしたが、陳さんはすぐに体を寄せ、肘を使って男性を2、3メートル飛ばした。
太極拳は奥が深く、話し出せばきりがないと陳さん言う。しかし、身をもって練習すれば、その道に入ることができ、絶え間なく研究してこそ、本当に理解することができるという。拳譜にも、「実際の動きは五岳を抗し、勢いは三峰を凌ぐ。徐(ゆっくり)から疾に入り、浅から深に入る」とある。(魯忠民=文・写真)
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