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文殊菩薩の道場 五台山

 

後漢の永平11年(68年)、五台山にインドの高僧、迦葉摩騰(かしょうまとう)や竺法蘭(じくほうらん)がやってきた。彼らはこの地の地形、気候、環境が、仏典に記録された文殊菩薩の居場所「清涼山」「五頂山」に酷似していることに気づき、この地こそ文殊菩薩の居場所だと考えた。以来、歴代の仏教徒は五台山を文殊菩薩の道場としている。

山西省北部に位置する五台山は、中国仏教における4大名山の1つである(そのほかの3大名山は観音菩薩の道場・浙江省普陀山、地蔵菩薩の道場・安徽省九華山、普賢菩薩の道場・四川省峨眉山)。五台山は東西南北中の5つの方位にそれぞれ山があり、そしてその5つの山の山頂がいずれもなだらかな坂の広い台地であるゆえ、その名がついた。

中国最古の木造建築

1227年の歴史を誇る南禅寺の大雄宝殿。文字で記録された現存する 中国最古の木造建築
唐代に作られた仏光寺の木造の東大殿(左)とその南側にある1470年以上の歴史を持つ北魏時期のレンガ造りの塔(右)
仏光寺東大殿の仏壇に祀られている35体の唐代の泥塑像。すべて貴 重な芸術の逸品である
五台山は、中国においてもっとも早く仏教寺院が建立された地の1つである。後漢の永平年間(58~75年)には、すでに仏教の寺院が存在していた。隋の時代に入って、隋の文帝が詔を下し、5つの台(山頂)にそれぞれ寺院を建てるよう命じた。五台山は文殊菩薩が説教をする場所であるため、5つの台にある寺院のいずれにも文殊菩薩の像が祀られた。5つの文殊の法号はそれぞれ異なり、東の望海寺には聡明文殊、南の普済寺には知恵文殊、西の法雷寺には獅子文殊、北の霊応寺には無垢文殊、中の演教寺には孺童文殊が祀られている。こうして、五台山に参詣する人々は、必ず5つの台の寺院に足を運ぶようになった。これを「朝台」という。

唐代に入ると、民間に「文殊信仰」が流行し、五台山一帯の寺院の数は300を超え、最盛期を迎えた。しかし、歴史の変遷や戦火を受け、この地の寺院建築も破壊の憂き目に遭った。現在、残っている寺院は70近く、さらに20近くの修復中の寺院がある。

これらの寺院のうち、仏光寺と南禅寺にはそれぞれ現存する中国最古の木造建築がある。いずれも国宝レベルのものである。

正殿の横梁に残っている記載によると、南禅寺の大仏殿は今から1227年前、唐の徳宗の建中3年(782年)に再建されたもので、文字で記載されたものとしては、中国に現存する木造建築の中でも最古のものである。この場所は地勢が高く、空気が乾燥し、喧噪から遠く離れていることに加え、地元の人々が代々保護に尽くしてきたことで、1200年あまりの間、南禅寺は自然による被害や戦火を逃れ、今日に至るまでその姿を留めてきた。

仏光寺は北魏の孝文帝時代(471~499年)に建てられたが、唐の大中11年(857年)に再建された。境内に残っている祖師塔は北魏の遺物である。前の庭にある文殊殿は金王朝の建築だが、ほかの建築はすべて明・清時代に再建されたものである。ここの建築は中国の古代建築を代表する傑作で、中国ひいては世界建築史上においても重要な地位を占めている。唐代に建てられた木造の大雄宝殿は、著名な建築学者梁思成らが1937年に行った考察の際に発見された。殿内には、美しい菩薩の塑像や貴重な仏教壁画、唐代の人の手になる珍しい墨の筆跡が残っている。これらは正殿とともに、他に例を見ない「四絶芸術」と梁思成に称えられた。

顕通寺の銅殿の壁や梁にびっしりと鋳造された万体あるといわれる仏像 見上げるような高い位置に建てられていることで壮麗な美しさが際立つ 顕通寺の金メッキの銅殿

 

 

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