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四川省夾金山 四川ジャイアントパンダの生息地①

 

劉世昭=文 高華康 劉世昭=写真

1869年、フランス人の伝道師で、生物学者のアルマン・ダビッド神父(Armand David 1826~1900年)は四川省夾金山のふもとの宝興県鄧池溝でジャイアントパンダを欧米人として初めて発見した。彼が作成した世界初のパンダの標本はパリに運ばれて展示され、世界各国の生物学界を沸き立たせた。その後、白黒二色のくっきりしたまだら模様が特徴のパンダは、世界中の人々の関心を集め、愛護の気運が高まった。

夾金山は大雪山とも呼ばれ、20世紀30年代、中国労農紅軍は2万5000里の長征の途中、この山を乗り越えた

四川パンダの生息地は大渡河と岷江に挟まれた臥龍、四姑娘山、夾金山脈などがある邛崍山系にある。総面積は9245平方キロに及び、9ヵ所の景勝地と8ヵ所の自然保護区がある。ここで保護されている野生パンダは全世界で生息しているパンダの30%以上を占め、世界最大の自然のままのパンダ生息地だ。また、ここは第三紀熱帯雨林の環境に類似しており、地球上の温帯地域で植物の種類が最も豊富な区域であることも忘れられない。ここにはパンダ以外にも、何種類かの絶滅危惧種が生息している。

夾金山は「甲金山」とも言うが、「夾金」はチベット語の音訳で、「非常に高くて険しい」という意味だ。主峰は海抜4930メートル。夾金山は小金県と宝興県にまたがり、険阻な山並みがどこまでも続き、幾重にも重なる岩石の屏風が天に向かって聳え、斧で切り落としたような絶壁が連なる。空気は希薄で、天気も変わりやすい。「夾金山、夾金山、鳥さえ飛び越えられない。まして人が登るなんてできるわけがない。越えようと思ったら、神様に頼むしかないよ」という民謡が広く伝わっている分けが良く理解できる。

宝興県の人々はパンダを欧米人として発見し、紹介したアルマン・ダビッド神父を記念して、街頭に大理石の像を建てた

野外で生息しているパンダ

ダビッド神父がパンダを「発見」した鄧池溝は夾金山山麓の蜂桶寨自然保護区内にある。山あいを8キロ奥に入ったところに、四川省西部の伝統的な建築様式を踏襲した建物がある。ここが、当時、ダビッド神父が布教活動をしていた穆坪天主堂だ。あたり一面は緑に包まれ、鳥がさえずり、花が香る。裏山には、ハトに似た綺麗な花が咲き乱れる巨大なハンカチノキがそそり立っている。パンダと同じように貴重なこの木は国家一級重点保護植物に指定されている。

天主堂の玄関の上には、「聖母領報堂」という5文字が刻まれた木製の扁額が掲げられている。堂内に入って、建築構造と装飾を見ると、間違いなく典型的なゴシック様式だ。さらによく見ると、木造の丸天井と透かし彫りの飾り窓があり、東西文化を生き生きと、しかも自然に融合させている。

アルマン・ダビッド神父が働き、生活した鄧池溝穆坪天主教堂

穆坪天主教堂の内部

実は、ジャイアントパンダを「発見」したのはダビッド神父ではなかった。歴史書には、古くは2千年前の漢代に、現在の四川省雅安市あたりにパンダが出没していた記述が残っている。ただ、当時の人たちは貔貅、貘、貊、騶虞、食鉄獣などと呼んでいた。『山海経(せんがいきょう)』第5巻に、「漢嘉郡厳道県(現在の雅安市滎経県)南の九折坂で貊貊(パンダ)が出没している。熊に似ており、白黒まだらのケモノで、銅と鉄を食べる」と記されている。さらに、唐代の女帝•則天武后もパンダを国の贈答品として日本に贈っている。しかし、それは現代的な意味での「発見」とは見なされなかったのだ。

蜂桶寨国立自然保護区の周辺には、臥龍、黒水河、喇叭河の三つの自然保護区があり、保護区のトライアングルを形成している。蜂桶寨はこのトライアングルの中心に位置し、邛崍山系に分散しているパンダ生息地を結ぶ回廊地帯として、重要な役割を果たしている。邛崍山系におけるパンダ個体群間の遺伝子交換にも大いに役立っている。

国家一級重点保護野生動物のターキン 国家一級重点保護野生動物のジャコウジカ 国家二級重点保護野生動物のベニジュケイ(撮影・李貴仁)
動物保護センターが救助している国家二級保護野生動物のレッサーパンダ 動物保護センターが救助している国家二級重点保護野生動物のキエリテンの赤ちゃん 高海抜地区に生長しているサカイツツジ

蜂桶寨自然保護区の最も高い所の海抜は4896メートル、最南端の最も低い所の海抜は約1000メートルで、高度差はおよそ3800メートルだ。水分や熱量条件が高度によって変化するため、保護区内の植生の垂直分布の特徴がはっきりと見える。常緑広葉樹林帯、常緑広葉・落葉樹混生林帯、針葉・広葉樹混生林帯、針葉樹林帯、高山低木湿地帯、高山岩壁植生地帯は低高度地帯から高高度地帯へ台形分布になっている。また、この保護区は高度差が大きいため、野生動物も垂直分布していることがよくわかり、多数の古生物種の生息地と避難所にもなっている。統計によると、保護区内には380種の脊椎動物が生息し、その中で、国家一級重点保護野生動物に指定されているのはジャイアントパンダ、四川キンシコウ、ユキヒョウ、クチジロジカ、アカシカ、ターキン、カラニジキジ、ヒゲワシ、ミヤマエゾライチョウ九種、国家二級重点保護野生動物に属するのはレッサーパンダなど33種、そして、中国、とりわけ四川省特有の野生動物は73種いる。ジャイアントパンダは保護区内に広く分布しており、調査によると、約40頭生息している。ここではパンダが村に現れ、民家に入ってくることも珍しくない。

2010年2月4日の夕方、一頭のパンダが宝興県五龍郷東昇村の李廷忠さんの家に入り込んだ。2キロ以上の骨を食べつくしてもまだ足りない様子。そこで、李さんは数日前に解体した豚の肉つき肋骨3キロを運んで来て、食べさせた。「来る者は拒まず」ならぬ「くれる物は拒まず」で、このパンダはなんと翌朝3時までずっと食べ続け、6時になってやっとのんびりと山奥へ帰って行った。李さんは「この数年、パンダは年に3、4回ほど、うちにやって来る。その度に、用意した骨を食べるんだ。おとなしいし、人間を全く恐れないよ。まるでうちで飼っている家畜みたいだ。満腹になったら、空いている豚小屋や壁ぎわで、寝て、翌朝帰って行くんだ」と、話してくれた。

動物保護センターのスタッフが怪我をしたパンダの健康検査、治療をする 2010年2月4日の夕方、家に入ってきたパンダに豚の骨を与える李廷忠さん

1975年に蜂桶寨自然保護区の設立された後、保護管理システムが次第に整備され、保護区はパンダの研究、保護、生態観察に関する国際協力に参加し、密猟や乱獲取り締まりを強化している。こうした努力によって、ここの自然環境が維持されれば、ジャイアントパンダは「安穏一生、子孫繁栄」をこれからも謳歌できるだろう。

 

人民中国インターネット版 2010年11月

 

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