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第四回 北京で見かける薬食同源のあれこれ①

 

馬島由佳子=文・写真

 

馬島由佳子 静岡市出身。外務省在職中に赴任先の北京で中国医学、特に中薬に魅了され、2001年帰国退職後、財団法人交流協会で働きながら東京・本郷にある北京中医薬大学日本校で学び、2008年に国際中医師の資格を取得した。現在、『人民中国』インターネット部に勤務。

 唐の僧・鑑真和上は12年で5回渡日を試み753年、6回目に成功。日本に仏教を伝えるとともに、 生薬を携え中国医学と薬の知識を伝えました。

日本では大陸から伝わった医学をもとに日本で独自に発展した医術を「漢方」と呼び、その薬を「漢方薬」と呼んでいます。中国では、数千年の歴史を持つ中国の伝統医学を「中医学」、薬を「中薬」と呼び、日本と共通のものも数多くありますが、呼び方や人々の関わり方も違います。

本連載は、北京で活躍する中医師のとっておきの話を中心に日本の薬局でも購入できる中薬(漢方薬)を紹介します。さあ、中国の人々の健康を支えている中医学にふれてみましょう!

                            

「医食同源」・・・・・・日本でも一度は耳にしたことがありませんか?この言葉は中国の「薬食同源」に由来しています。医薬と飲食の源は同じ。多くの食物は薬にもなります。食材の持つ効能をよく知り、効果的な食事を実践して病気の予防と体の不調の改善に役立てたいものですね。今回は「薬食同源」が中国では、どのように受け入れられ実践されているかを見に北京の街を探し歩いてみました。

 

中国医学の観念があふれている!

ある演劇の取材で、中国で活躍する俳優の黒木真二さんにお会いした時、「演劇を学んだ母校の近くにある火鍋を食べると、喉が潤って声の調子も体調も良くなる感じがする」という話を伺いました。「薬食同源」に関わるのでは!とひらめいた私は、さっそく黒木さんにお店を案内してもらいました。「中央戯劇学院」の裏通りにある雲南料理レストラン「束河人家」(北京市東城区北兵馬司胡同17号)です。

火鍋のスープ 黒木真二さん

3種類あるスープの中で黒木さんが選んだのは枸杞子(クコ)と菊花、なめこが入った鶏のダシ。具材はお肉や豆腐、つみれ類の他に、キノコ類の松茸、エノキ、椎茸、キクラゲ、雲南で採れる黄牛菌。野菜は白菜、春菊、穿心蓮(センシンレン)。今回はあいにくありませんでしたが、ほかにも養心菜、鉄観菜、板藍根(バンランコン)などがあるそうです。店員によれば、豊富なキノコ、野菜は季節に合わせて雲南から仕入れているとのことでした。

雲南直送の食材

枸杞子と菊花は「目に良い生薬」として前回お伝えしたとおりです。野菜の穿心蓮は解熱、消炎、腫瘍を取り、痛み止めの効能があり、気管支炎、咽頭炎、肺炎に効果が期待できる野菜とされています。板藍根も解熱、咽頭炎などの炎症に作用するといわれています。どちらの野菜も熱を冷まし炎症を防ぐ作用のある野菜です。また、乾燥させて、生薬として中薬に使われます。

玫塊花と康乃馨のお茶

料理と一緒に配膳されるお茶は玫塊花(マイカイカ)と康乃馨(カーネーション)の花茶です。玫塊花はバラ科の花。気の巡りをスムーズにします。康乃馨は肺や肌を潤す、気、血を養うなど、両方とも美容目的で多く使われます。

黒木さんは、すべての食材の相乗効果によって、体も喉も潤され、気と血の巡りが活発になり、体調の良さを感じたのだと考えられます。

 

 「薬食同源」は簡単に見つかる!

ここ数年、北京市内の至たるところで見かけるようになった“カフェ”。生薬を配合した飲食を提供する「ハーブカフェ」を見つけました。市内に数店舗持つ人気のチェーン店です。店の入口をくぐるとまず目に飛び込んでくるのが、たくさんの引き出しにさまざまな生薬が入った壁にもみえるオブジェです。

スープ「金銀菜南北杏煲湯」

 メニュー表には一品一品に効能が書かれています。私は乾燥が激しい冬に訪れたため、店員から体が潤い、肺に良いスープを勧められて「金銀菜南北杏煲湯」を注文してみました。スープは水筒に入れられて熱々の状態で運ばれてきました。色はお汁粉のようなアズキ色。とんこつのようなダシに醤油を加えているような味で、生薬の匂いや苦さなどは感じませんでした。じっくり煮込んだというだけあってコクがあり、舌に肉片らしきものがあたりました。この肉は豚の肺。慢性的な咳で肺が衰えているときに良いそうです。目で確認することができないほど煮込まれている野菜の金銀菜とは、白菜と白菜を干したものの総称です。消化を助け、肌に潤いを与える作用があります。杏仁は、痰を取り除いたり腸内を潤します。そのほか生姜やナツメも加えてあるとのことでした。

生薬が入ったオブジェ

最新ファッションの店やおしゃれなレストランが立ち並ぶ街、三里屯。モダンなショッピングビル「三里屯village」でおにぎり専門店をみつけました。このお店は「米を食べて健康生活」を目指すお店です。中でも紫色のおにぎりが客の目を引いています。紅米と紫米のおにぎりは、椎茸と鶏肉を香辛料と一緒に甘辛く味付けしたものが具になっていました。紅米は貧血予防に効果があり、紫米は血を補い気を補充し、とくに病気のために体力が落ちてしまった、回復途中の病人にお勧めとのことです。おにぎりと一緒に注文した青梅酢のドリンクには「調理腸胃」、すなわち「腸と胃の保養効果」があると書かれていました。

おにぎりと青梅酢ドリンク

この店では、お湯で温めて食すレトルトのお粥も販売されており、効能別にお粥を選べるようにディスプレイされていました。

お粥は効能別に4種類

 

同ビル内を歩いていると、「美肌心情」「健康天使」といった、健康的なメニューを看板に掲げている店を発見しました。果物などをミキサーにかけて作るフレッシュジュースを販売しています。体の老廃物を取り除くという「排毒衛士」の材料はパパイア、バナナ、ブルーベリー、オレンジです。メインとなっているパパイアには消化促進、免疫力向上、抗菌消炎、胃腸機能を増強するなど、たくさんの優れた効果があり、“毒素排出”に期待できそうです。

チェーン店のパン屋で、レジでお会計をする時に「パンと一緒に飲み物はいかがですか?」と店員が看板を指差しました。コーヒーではなく、「養生ドリンク」です。「雪耳紅棗羹」の雪耳とは白きくらげのことで、コラーゲンと食物繊維がたっぷり含まれています。肌に良いと女性に好まれている食材です。このお店もドリンクの効能が表示してありました。

 

<取材を終えて>

 今回ご紹介したお店は友人の紹介と偶然見つけたお店です。一日中「薬食同源」を意識して歩いてみれば、さらに多くのお店を発見できるでしょう。どのお店も若者がにぎわう街にありました。中国では、「薬食同源」の考え方は、遥か昔から暮らしの中に深く根付き、世代にかかわらず、体に良い食材を自分の体調や季節に合わせて考えながら日常的に食べているといえるでしょう。

 

プロフィール

黒木真二

鹿児島市出身。大阪外国語大学中国語学部卒業後、北京の中央戯劇学院映画テレビ部で脚色・演出を学ぶ。

2007年から中国で俳優として活躍している(『人民中国』2011年4月号P74に黒木さん執筆の記事が掲載されています。併せてご覧下さい)

 

人民中国インターネット版 2011年4月25日

 

 

 

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