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貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州 蘆笙の音色は母のささやき

 

魯忠民=文・写真

ミャオ(苗)族が住んでいるところを尋ねると、必ず蘆笙の音色が聞こえてくる。蘆笙は蘆の茎や竹を使う古くから伝わる管楽器の一種だ。ミャオ族にとって、蘆笙は「母親の始祖神」が創造した楽器で、その音色は「母のささやき」のように聞こえるらしい。取材した貴州省黔東南ミャオ族トン(侗)族自治州では、ミャオ族の男性なら誰でもこの楽器を吹けるし、女性はひとり残らずメロディーに合わせて上手に踊るという印象だった。農閑期とか結婚式などのお祝いの日にはみんなで笙を奏で、楽しく踊る。また春節(旧正月)などの節句には、数十本から多い時には百本以上で合奏するので「蘆笙は山をも震わせる」と言われ、ミャオ族が住む山里にこだまする。

蘆笙作りの名人と言われる莫厭学さんは家を工房にしている。彼のそばにいるのはお嫁さんと孫

二人の神様が吹くと豊作に

伝説によると、ミャオ族の告且と告当という祖先神は太陽と月を創造した後、天の神様のところから盗んだ穀物の種をまいたが、不作だった。そこで二人は山から六本の白竹を刈り採り、一つに束ね、口で吹いて美しい音色を響かせた。すると奇跡が起きた。土の中の種がこの音色に合わせるようにすくすく育ち、豊作になったという。これ以来、ミャオ族の人々は代々、白竹で作った蘆笙を吹き続けているそうだ。  

蘆笙には三千年以上の歴史があると言われている。唐の時代に、都へ朝貢に行った人が宮廷で吹奏して以来、西南地域に普及したという。また、吹奏に合わせて舞踊も披露したことから、舞踊も切り離せない伝統になったようだ。  

このミャオ族の里を初めて訪れたのは、一九八〇年代初めのある年の十二月で、ちょうどミャオ族の正月を迎える時期だった。途中のバスの窓から、輪になって蘆笙を吹き、踊っている人々をしばしば見かけた。しかし、同じミャオ族でも地域によって正月の時期が異なり、取材を依頼していた村はその時期ではなかった。「吹奏や踊りは取材できないな」と残念に思っていたところ、村長が夕食の後「村民たちを集めて、踊りを見せてあげましょう」と、申し出てくれた。夜、蘆笙祭が開かれる広場でしばらく待っていると、きれいに着飾った女性たちが一人また一人とゆっくりと歩いてやって来た。踊りは厳かな行事なので、必ず着飾るのだ。そこそこの人数が集まった後、笙の音色が響き、踊りも始まった。急いで写真を撮って、「もう十分です。みなさんお帰りください。ご迷惑をおかけしまして、申し訳ありませんでした」と、お礼とお詫びの言葉をかけたが、誰ひとり帰らなかった。それどころか、どんどん人数が増えてきた。私は宿舎に戻ったが、深夜十二時、笙の音で目が覚めた。出て見ると、みんなまだ踊り続けていた。

若い男女がめぐり合う機会

「鼓蔵節」の会場に入場するチーム

後で分かったが、笙を奏でたり踊るのは、彼らが最も好む娯楽というだけでなく、青年男女の交際の場なのだ。節句が来ると、普段はばらばらに住んでいる若者たちがこの広場に集まり、美しく着飾った女たちは優雅さと美貌を誇り、男たちは笙を吹き、踊り、たくましさと頭の良さを誇示する。若い男女が知り合う絶好の機会らしい。また爽やかな風が吹く月夜には、若い男たちが連れ立って、ミャオ族の別の里を訪れ、蘆笙をたおやかに吹き奏でる。すると、この里の若い女たちが三々五々、「デートスポット」に集まって来る。グループ交際の場合も、二人っきりの場合も、歌いながら胸の内を語り合う。  

二十年前、貴州省黔東南自治州の黄平県谷隴で、旧暦九月二十七日から二十九日まで三日間行われる蘆笙祭を見たことがあるが、数万人のミャオ族の男女が参加していた。会場は谷あいの畑に設けられ、周りの野も山も人で満ちあふれていた。思い思いに参加した数百人が男女別に分かれ、向かい合った岡の上に立ち、歌合戦を行なっていた。指揮者はいないし、伴奏もなかったが、声が良くそろい、歌声の美しさは何物にも替え難かった。  

また、蘆笙コンクールも魅力的だった。参加者は地元の人だけでなく、百㌔以上も離れたところからやって来た人もいた。交通の便が悪かった当時、彼らは祭に参加するために、山を登り峠を越えて、徒歩で十数時間も掛けてやって来た。数十チームが交互に吹き、踊る。最後に、曲目が最も多く、吹奏が最も優れたチームが優勝した。優勝した笙に赤いリボンが付けられ、チームが所属する里にも栄誉が与えられ、吹奏者はみんなから尊敬される英雄だ。

円形スタンドは「銀色の海」

同自治州凱里市郊外の舟渓で行われる蘆笙祭も歴史が古く有名だ。旧暦一月十六日に開催され、十八日から二十日の三日間が最高潮。大勢の人が集まり、笙の音色が潮のように響き渡る。人々がいくつもの輪になって踊っていた。笙を吹きながら踊る若い男性を取り囲んで、着飾った女性たちがリズムに乗って踊る。二十一日になると、熱狂的な雰囲気から、「デートスポット」に変わり、新たなカップルが歌い交わしながら愛情を伝え合う。

情熱に満ちた表情で楽しげに踊る人々 「鼓蔵節」の現場で演奏

自治州政府主催の第一回「国際蘆笙祭」が一九九九年八月二十八日、凱里市で盛大に開催された。全自治州の各民族が特色を披露するこの祭には、「百牛争覇(百頭の闘牛)」「千対銀角(銀角をかぶった千人の女性)」「万本蘆笙(一万本の蘆笙の大合奏)」という壮大なシーンが見られる。同じ感動を雷山県西江鎮のミャオ族の里で開かれた鼓蔵節の開幕式でも味わった。会場では、長短さまざまな蘆笙の合奏による美しい音楽、絢爛豪華な服装を身につけた青年男女の奔放な踊りが発散する情熱が、数千人の観衆にも伝わった。最後には、円形スタンドで観衆が幾重にも輪になって踊り始め、女性たちがかぶっている銀角がきらきら輝き、さながら「銀色の海」のようだった。

夕方になると、雷山県西江鎮麻料村の村民たちは気ままに踊り始める
その後、麻料村でも気ままに踊っている村民たちを見かけた。輪になって踊りをしている数十人の女性たちは全身に銀の飾りを付け、化粧した顔がいっそう白くてきれいに見えた。しかし、輪の中で笙を奏でている男性はほとんどが中高年で、しかも観客の人数の方が多く、踊る時間も短かった。村民の話によると、鼓蔵節の行事は七日間続くが、始めと終わりの日が参加者が最も多いそうだ。ほとんどの村民が出稼ぎに行ったり、よそで店を経営したりしているため、昔のように何日も続けて参加する暇がないからだろう。しかし、交通機関が便利になっなおかげで、最終日には多くの村民が戻ってきて、再び盛り上がるそうだ。

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