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「義」に生きる意味を現代に問う『関雲長』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

 

週末は遠出して中国電影博物館へ

初夏の陽気の北京、ちょっと郊外へ散歩という気分で、週末は中国電影博物館まで出かけました。ここには、100年以上の歴史をはじめ、中国映画に関するさまざまな情報がそろっており、貴重な資料が展示されています。しかも、入場口でパスポートを見せれば無料で入場券を渡されるのも魅力です。そして、シネコンも併設されており最新映画も40元という割安な料金で見られます。特集上映やプレミアショーなどが行われることもありますし、ユニークなグッズや映画関係の書籍、名作ビデオなどの販売もあります。さらに、レストランやコーヒーショップまでありますので、市の中心からは少し距離がありますが、付近には798芸術区もあり、1日かけて行く価値は十分にあると思われます。この日も映画好きや家族連れで大いににぎわっていました。

私もせっかく来たのですから、映画も見ていきたいと、興行収入1億6000万元というヒットを記録している『関雲長』を見ることにしました。公開からかなり時間が経過していて「最新じゃない」と怒られそうですが、中国初のストーリー映画『定軍山』も『三国演義』を題材にした京劇でしたし、電影博物館で見るのにふさわしいということでお許しください(笑)。

「義」に生きる姿が支持される

さて、物語は『三国演義』の英雄・関羽が主人公で、「単騎、千里を走る」「過五関、斬六将」の場面をハイライトにしています。「義」を通すには敵と対立するだけでなく、時に無辜の人々の利益や愛情とも衝突しなければならず、関羽も悩みながらも「義」に生きる道を選んだのだと描かれています。また、物語の中で関羽が語り合うのは曹操だけで、三国ものなのに劉備や諸葛孔明もほとんど登場しないなど独特です。

主演はドニー・イェン(甄子丹)です。見る前は「身長9尺、ひげ2尺」の関羽のイメージとは少し違う気がしましたが、さすが今中国で圧倒的人気を誇るアクションスター、見ているうちに違和感は薄れていき、冴えたアクションが次々展開されると、すっかり魅せられていきました。

そして、それ以上にうならされたのが、曹操に扮したジャン・ウェン(姜文)です。曹操の虚実併せ持つキャラクターを好演しています。関羽を英雄として認め、その「義」に生きる姿勢を愛しながらも、したたかに政治に利用しようとする乱世の梟雄ぶり、見事でした。

2009年、テレビの講演番組で1人の大学教授が、曹操を単なる悪役ではなく、優れた能力と複雑な人間性を持った人物として検証、大変話題になりました。また、昨年はドラマ『新三国』が大ヒットしましたが、ここでも曹操の人間像が細かく描かれていました。複雑になった現代の中国社会が、この作品も含めて曹操像を変化させているのでは、と社会学者ならずとも分析してみたくなります。そして、そんな複雑な時代だからこそ、さまざま葛藤の中でも「義」という信念を貫き通す関羽の生き方が、人々の共感を集めヒットにつながったのかもしれません。

ところで、同じ『三国演義』を扱ったものとして、『レッドクリフ』(2008)が歴史物語を知らなくてもけっこう楽しめるようにできていたのに対し、こちらは観客が『三国演義』を基本的に知っている前提で進められていて、曹操の詩の有名な一節「何以解憂 唯有杜康」を関羽に言わせるなど、いろいろな仕掛けがしてあります。中国人ならすぐにピンと来るのでしょうが、恥ずかしながら少なくとも1カ所、ほかの観客にドッと受けている意味が分からないところがありました。少し予習してから見るとさらに楽しめるのではないでしょうか。

中国電影博物館は、2005年に中国映画100周年を記念して建設され、07年から一般公開され、遠くからでもすぐに分かる独特のデザインをしている

 

データ
関雲長
監督:アラン・マック(麥兆輝)、フェリックス・チョン(荘文強)
出演:ドニー・イェン(甄子丹)、ジャン・ウェン(姜文)、スン・リー(孫儷)
時間・ジャンル:100分、歴史・伝記・アクション
上映日:2011年4月26日

大きなホールがあり、そこから各上映ホールや展示ホールに行ける。

コーヒーショップやミュージアムショップ、レストランなども併設している。

展示はテーマごとに多くの展示室に分かれている。

初めてなら、まずは中国映画の歴史に関する展示室を見たい

中国電影博物館
所在地:北京市朝陽区南影路9号
電話:010-84355959
開館時間:9:00~16:30(入館は~15:30)月曜休館
ホームページ:http://www.cnfm.org.cn/index.shtml
アクセス:
地下鉄10号線亮馬橋駅下車、B出口を出て燕莎橋東バス停から402、418、688のバスで行ける。
途中太子路口南で下車すれば798芸術区で、バス停にして4つ先に電影博物館がある。
南皋市政府前で下車(次の南皋でもいいが、こちらの方が歩きやすい)徒歩7分、前方に進み南影路を右折して途中高架をくぐる。
帰りも3路線のバスがひんぱんに通っているので、場所の割には行きやすい。
首都空港からも近く、タクシーでも行きやすいが、博物館や南影路を知らない運転手も多いので地図を用意したい。

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年6月

 

 

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