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銘茶の味わい『歳歳清明』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

大ヒット作の陰に「一日遊」映画あり

6月4日から6日までの端午節3連休には、『加勒比海盗:驚濤怪浪』(パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉)や『功夫熊猫2』(カンフー・パンダ2)などのハリウッド映画が公開されており、いずれも大ヒットしています。特に『カンフー・パンダ2』は、『功猫』という略称で語られるほど親しまれています。さらに6月15日からは大作『建党偉業』が公開されるため、この時期に上映される他の国産映画は注目度も低く、観客動員も少なくなりがちです。中には数日上映されただけで静かに消えていく作品もあります。今回は、「一日遊」(デートリップ)映画とも呼ばれるこうした作品の中から、シアオ・フォン監督の『歳歳清明』ご紹介をしたいと思います。

「一日遊」映画は、そもそも上映館が少なく、上映回数も1日1回、それも午前中や夜9時過ぎというのが一般的です。3連休の初日、朝から郊外の住宅区にあるシネコンに向かいました。端午節休みの家族連れにまじってしばらく並び、ようやく順番になった窓口では、「見る人がいないので、上映中止になりました」とのこと。1日1回しかない上映が中止です。しかし、実はそんなこともあろうかと、他の館の上映スケジュールも調べてありました。すぐに気持ちを切り替え、1時間かけて市中心部・西単にある首都電影院へ移動、さらに20分行列してようやくチケットを入手したのでした。

劇場に入ってみると、観客は私を含めて3人だけ。首都電影院でさえこの状態ですが、作品の方は「一日遊」で終わらせてほしくない秀作でした。

詩的な画面、心に残る物語

1930年代半ばの杭州。西湖を望む茶畑を男の子のように駆け回る茶園の娘・阿敏(チエン・ペイイー)は15歳。毎年、清明節の時期に茶葉の買い付けに来る茶商の尹氏は、この年は茶を学ばせようと孫の逸白(シェン・シャン)を連れて来ました。茶畑の案内と茶のレクチャーを通じて触れ合ううち、阿敏は逸白にほのかな恋心を抱くようになります。ところが、翌年の清明節に訪れた逸白は新婚の妻・天巧(チャン・ウェン)を伴っていました。驚き傷つく阿敏でしたが、結核を患っているため「子どもが産めない」と嘆く天巧に同情し、病気を治すという「捂茶」を作って飲ませます。しかし、実は「捂茶」はそれをふるまった女自身が男の子を産めなくなるという、禁断の秘法だったのです。そして3年目の清明節、阿敏の前に突然現れたのは日本兵を案内する逸白でした……。

スター俳優も登場せず、派手な視覚効果もない、シンプルな作品です。ゆったりとしたリズムが心地よく、最初は感じた若い俳優の荒削りな演技や細かな編集の不自然さなども、いつの間にかまったく気にならなくなりました。緑の茶畑を行く赤い日傘、湯を沸かすかまどから外風呂いっぱいに立ちこめる湯気、茶樹に積もった雪……、詩的なカットを積み重ねながら、物語は淡々と進んでいきます。

実はこの監督はもともとカメラマン出身で、チャン・イーモウ(張藝謀)とともに『一人と八人』(1984)の撮影を担当した実績もあります。私は2009年に、彼が監督した広西が舞台の3部作を見たのですが、いずれも自然と人間の関わりを詩的なカメラワークでとらえ、そこに生きる女性を存在感たっぷりに描いており、強く心に残りました。このため、この作品の上映を楽しみにしていたのです。今回は日本人にはつらいシーンもありますが、やはり帰り道に思い出してじんと来る、高級な茶のように「回香」(飲んだ後の香りの余韻)が味わえる作品でした。

なお、清明節は毎年4月5日ごろに当たり、この時期に摘まれる茶は最高級品とされます。そして清明節は、亡くなった人をしのび墓参りをする日でもあります。

データ
歳歳清明
監督:シアオ・フォン(肖風)
出演:チエン・ペイイー(銭佩怡)、シェン・シャン(盛翔)、チャン・ウェン(張雯)
時間・ジャンル:96分/文芸
上映日:2011年6月3日

6月15日からの公開を控えて、映画館に置かれるフリーマガジンでも『建党偉業』を特集

初夏を迎えて多くの人でにぎわう西単の街

首都電影院
所在地:北京市西城区西単北大街大悦ショッピングセンター10階
電話:010-66086662
アクセス:地下鉄1号線西単駅から徒歩3分

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年6月7日

 

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