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アイドル映画を超えた!?『大武生』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

 

タイプの違うイケメンが大活躍!

中秋節の3連休を迎えた北京は、涼しくなったというより冷え込んだといっていいほどで、北京の季節の移り変わりの早さを感じさせてくれます。この連休に向けて話題作が次々公開されており、今回はそうした中の1作『大武生』をご紹介します。京劇の武生(武芸に優れ、武将や英雄を演じる)を目指す2人の兄弟弟子の物語で、アイドルのウー・ズン(元フェイルンハイ)、ハン・グン(元SuperJunior/ハンギョン)が主演しています。

まず、ストーリーを紹介しましょう。清末の北京、孟氏は革命を支持したため摂政王に一族皆殺しに遭います。ただ1人子どもの二奎だけは武生役者の余勝英に救われ、兄弟子の関一龍とともに武生を目指しますが、2人の師匠の余は上海の武生・岳江天に陥れられ役者生命を断たれます。それでも武生修行を続けた2人は青年となり、師の仇である岳江天に挑戦するため上海に向かいます……。

京劇を背景にした兄弟弟子の物語というと、チェン・カイコー(陳凱歌)監督の名作『さらば、わが愛~覇王別姫』を思い出します。それと似た設定でアイドル多数出演となれば、名作の設定を借りたお手軽映画では、といういやな予感もするわけで、実はあまり期待しないで出かけましたが、結論からいうと「おもしろかった」です。

京劇を背景にしていますが、文芸作品ではなく娯楽作品です。しかし、京劇に対する理解と尊敬も感じられ、舞台でのアクション、舞台裏の愛憎、謎をはらむ復讐劇など、多彩な要素を盛り込んでいます。スピード感あふれる展開で最後までしっかり楽しめ、青春ドラマの味わいも残りました。

事務所がイメージを重視するアイドル起用では、キャラクター設定も難しいと思われますが、タイプの違うイケメンをうまく配役し、それぞれのいいところを引き出しながら、ストーリーがそれに流されて破綻するということもありません。ウー・ズンのアクションや二枚目ぶりはなかなか見事ですし、ハン・グンという俳優の演技は初めて見たのですが、基礎がしっかりしていて複雑な人物をうまく演じている印象です。ヒロインのバービィー・スー(徐煕媛)も京劇衣装からオールド上海風までさまざまなファッション姿を見せてくれるだけでなく、本格的なアクションも披露してくれます。さらに、マジシャンのリウ・チエン(劉謙)も、どうしてなかなか渋い役者ぶりです。

 

マルチな才能が映画界に登場

こう見てくると、アイドルたちのいい面を引き出した監督に興味がいくわけですが、監督の高暁松は1969年生まれ。父方の祖父は清華大学学長、母方の祖父は深圳大学創立者という学者の家系に生まれ、自身も清華大学電子工程系に入学しながら、中退して北京電影学院監督科に入り直しています。しかも、卒業後はテレビ界や音楽界を中心に活躍し、現在は国内屈指の音楽プロデューサーとして知られる存在です。大型商業映画はこれが初監督と思われますが、この作品では主題歌も自ら作曲するマルチぶりを発揮しており、どうやら、中国映画界にまた1人ユニークな才能が登場したようです。

ビルの外と内の両方にチケット売り場があるのも便利 

幻想的な雰囲気の映画館ロビーとチケット売り場 

なお、この作品を見たのは崇文門にある捜秀影城。若者向けファッション店や飲食店が入る商業ビル捜秀城(SOSHOW)の9~10階にあります。シネコンらしいシネコンの構造で、係員が折り目正しいあいさつをしてくれ気持ちよく入場できます。この日は、アイドルのファンとおぼしき女子中学生から家族連れまでさまざまな観客がいましたが、みな物語に引き込まれて見ており、北京では珍しくおしゃべりが聞こえてこない上映でした。

宣伝ツールとして「号外」も発行されていた  大型商業ビルの上部にシネコンが入っている 

大武生
監督:ガオ・シャオソン(高暁松)
キャスト:ウー・ズン(呉尊)、ハン・グン(韓庚)、バービィー・スー(徐煕媛)、リウ・チエン(劉謙)
時間・ジャンル 108分/アクション、愛情
公開日 2011年9月9日

捜秀影城
所在地:崇文区崇外大街40号捜秀城9階
電話:010-51671298
アクセス:地下鉄2号線・5号線崇文門駅下車、南へ徒歩5分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年9月13日

 

 

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