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国産アニメ奮闘中『兎侠伝奇』『蔵獒多吉』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

うさぎのカンフーマスター大活躍

夏休みです。中国でも夏休みには、日本と同じように子ども向けの映画作品が多く公開されます。今年の夏は例年とは少し状況が違っていて、中国共産党建党90周年記念作品が多く上映され、子ども向け作品はやや少ない印象ですが、それでもここに来てアニメを中心にいくつかの作品が上映されています。そこで、週末は夏休みの家族連れでにぎわう映画館を訪れ、中国国産アニメを見ました。

今年、中国ではハリウッド・アニメの『カンフー・パンダ2』が大ヒットしましたが、負けじと国産アニメも頑張っています。国産アニメが注目されだしたのは2009年に公開された劇場版『喜羊羊与灰太狼』のヒットからでした。10年1月公開の第2作は1億元を突破、11年版は1億5000万元を稼ぎ出し、国産アニメの潜在的パワーが証明されました。

そしてこの夏、ストーリーからすべて国産の3Dアニメとして『兎侠伝奇』が公開されました。この作品を見るため訪れたのは北京青年宮です。同施設は青年のための健康的な文化・娯楽施設で、文化活動や人材育成などに幅広く取り組んでおり、音楽ホールからスタジオ、書店やカラオケ、飲食店などの施設が集まっています。地下鉄2号線の車公荘駅近くにあり、庶民的な雰囲気のシネコンも併設されており、いつも家族連れでにぎわっています。北京で子どもや家族向け映画がどのように見られているのかを知るにはいい施設ではないでしょうか。

この作品は、心優しいうさぎが武林の争いに巻き込まれる中で自分の能力を開花させ、悪人を相手に大活躍するというカンフー・ヒーローもので、アクションだけでなく、中国ならではの料理や北京ならではの屋台風物にも3Dを使い、リアルさを演出しています。国産アニメであることを強く意識した作品で、外国製アニメではヒーローのパンダを敢えて悪役で登場させる(ストーリー上の仕掛けがあります)など、なかなか気概を感じさせます。ただ、長年日本のアニメを見慣れているせいかもしれませんが、うさぎのキャラクターが少し平凡で、表情がとぼしいかなという気もしました。

中日合作の秀作も誕生

ほかにも、この夏は『蔵獒多吉』『魁抜』など日本との協力による作品も公開されました。今、中国アニメは日本と協力する中で、日本アニメの良い点を学んでいるところなのかもしれません。このうち『蔵獒多吉』は、青島在住の小説家・楊志軍の作品をアニメ化したものです。母を亡くした少年が医師の父を頼ってチベットにやって来るところから物語は始まり、少年は謎のチベット犬と出会い、事件に巻き込まれます……。少年と犬の冒険がメインストーリーですが、事件の進展の中で父親に対するわだかまりを持つ少年の心の成長と自立への歩みも描かれるなど、さすがベストセラーの映画化だけあってストーリーもしっかりしていて、見応えがありました。ただ、子ども向けとしては残酷に感じるシーンがあるのが気になりました。大人向けか子ども向けか、もう少しはっきりさせてもよかったかもしれません。

ところで、観客席を見て気づいたことがあります。両作品とも観客には小学校低学年や就学前の子どもたちと、その家族が目立ちましたが、日本のアニメ映画上映会場との違いは、子どもより大人が圧倒的に多いということです。日本では、近所や親戚の子数人を1人の大人が引率する姿をよく見ますが、中国では一人っ子のためか、家族一緒に行動するのが好きなためか、子ども1人と両親プラスおじいちゃん、おばあちゃんなどという組み合わせが多いのです。アニメの技術上のクオリティー、キャラクターデザインなどに加え、中国では、より大人たちが納得できる作品であることが求められているのではと感じました。

 

青年たちのための複合施設として1995年にオープンした北京市青年宮。シネコン部分は654人収容の1号ホールを含め5つのホールを持つ シネコン以外にさまざまな施設が入っており、楽器教室なども開かれている

データ
兎侠伝奇
監督:孫立軍
声の出演:ファン・ウェイ(范偉)、イェン・ニー(閻妮)、チャン・フォンイー(張豊毅)
時間・ジャンル:89分/アニメ・アクション・喜劇
上映日:2011年7月11日
蔵獒多吉
監督:小島正幸
声の出演:リウ・ジンルオ(劉婧葷)、アラン(阿蘭)、シュー・タオ(徐濤)
時間・ジャンル:95分/アニメ・動物
上映日:2011年7月15日

北京青年宮電影城
所在地:北京市西城区西直門南小街68号
電話:010-66152241
アクセス:地下鉄2号線西直門駅から徒歩9分、車公荘駅から徒歩8分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年7月

 

 

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