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13歳の小さな冒険『星空』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

トム・リン監督がジミー作品を映画化

今、中国映画界は「賀歳片」と呼ばれる大作が上映される年末・年始までの閑散期に入っています。しかし、大作がないぶん、良質な文芸作品が次々に上映されているのです。11月前半公開の作品には東京国際映画祭に出品された『転山』、上海国際映画祭で最優秀監督賞などを受賞した『Hello!樹先生』、香港に暮らす内陸部出身者を描く『北角』などが上映されます。そんな中でも、まずは『星空』を見に行くことにました。この作品の監督トム・リンは、09年に長編デビュー作『九月に降る風』が日本でも公開されましたので、ご存知の方もおられると思います。

『九月~』は高校生の物語でしたが、今回の『星空』は、ジミー・リャオ(幾米)の作品を映画化したもので13歳の少女をめぐるファンタジーです。ジミー作品の映画化、あるいはその絵をモチーフにした映画はこれまでにもいくつかありました。ぱっと思いつくだけでも、『ターンレフト・ターンライト』(ジョニー・トー監督、金城武、ジジ・レオン出演)、『地下鉄』(ジョー・マー監督、トニー・レオン、ミリアム・ヨン出演)、『恋の風景』(キャロル・ライ監督、カリーナ・ラム、リウ・イエ出演)などがありますが、今回の作品は監督も主演も最も若い作品ではないかと思います。

物語は、13歳の小美(『ミラクル7号』の「男の子」シュー・チャオ)は、両親が離婚の危機の中でよき理解者のおじいさんが亡くなり、とても傷ついています。そんな時、親しくなった転校生の小傑(リン・ホイミン)を誘い、星空を見るためにおじいさんが住んでいた山の中の小屋に向かいますが……。シンプルなストーリーですが、13歳の少女の小さな冒険と、それを通じての心の成長を、ファンタジックな影像で描いています。『九月~』と同じく、傷つきやすい少年少女の気持ちに寄り添うようなていねいな影像づくりが印象的で、さわやかな中にもほろ苦さを残し、大人にも思春期を思い出させる良質な作品でした。

「ジャージ」の中高生を魅了するもの

金曜日の夕方だったこともあるのか、いつもと違って客席の多くが中高生でした。友だち同士で飲み物やポップコーンを片手に入ってきて、画面を見ながらあれこれ話し、感動的な場面になるとしんとします。中国の観客は、映画を見ていて思ったことにダイレクトに反応する傾向があります。女子中高生ともなると、さらにはっきりしていて、折り紙の動物たちが歩き出すシーンなど、劇場全体から笑い声が波のように起こり、こちらまで楽しくなりました。

そうそう、日本と違ってこちらでは中高生の通学服は「ジャージ」なのです。年ごろの女の子にこうしたジャージで生活させるのは、日本人的にはちょっとかわいそうな気もしますが、周りがみなそうですから気にならないのかもしれません。それでも、映画の中のファッションは、同世代の彼女たちにとって新鮮だったようです。

特に、主人公が着る可愛い制服や出かける時のカジュアルなファッションに、客席を埋めたジャージの生徒たちは興味津々の様子でした。おしゃれに目覚め始めた世代にとって、大いに参考になるものなのかもしれません。隣の席の女の子が友だちに「彼女はすごくきれいというわけじゃないけど、えっと、個性があるわよね」と話しているのが耳に入り、思わず笑ってしまいました。

いつもと違ったことがもう1つ。中国では本編が終わるとエンドロールを待たず、劇場スタッフがすぐに客電をつけ掃除を始めます。この日もそうでした。ところが、エンドロールにはジミーのイラストが次々と登場し、「片尾曲」として人気ロックバンド・メイデイ(五月天)の歌が流されたため、ほとんどの観客が席を立たなかったのです。すると、客電が半分ほどの暗さに戻り、スクリーンが見やすくなりました。どうやら、映画ファンの気持ちが分かったスタッフのいる映画館のようです。

花市百老滙電影院は、崇文門外大街の大きなショッピングセンターに併設された、新しく設備が整ったシネコン 地上1階のほか地下2階にも入り口があり、こちらでもチケットを購入できる。地下だが広々としていて圧迫感はない

データ
星空(Starry Starry Night)
監督:トム・リン(林書宇)
キャスト:シュー・チャオ(徐嬌)、リン・ホイミン(林暉閔)、レネ・リウ(劉若英)、ハーレム・ユー(庾澄慶)、グイ・ルンメイ(桂綸鎂)
時間・ジャンル 100分/ファンタジー
公開日 2011年11月3日

ロビーにはソファなども置かれていて待つのが苦にならない。隣接するショッピングセンターにはコーヒー店やレストランも数多くある 映画館ロビーは1階にあり、外からもショッピングセンター側からも入れる。各ホールは地下2階にある

北京花市百老滙電影院
所在地:北京市崇文区崇文門外大街18号国瑞城
電話:010-671713
アクセス:地下鉄2号線崇文門駅C2出口南へ徒歩4分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年11月7日

 

 

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