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骨太なロードムービー『転山』

 文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

東京国際映画祭受賞作品が凱旋上映

『転山』ポスター
10月の東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、最優秀芸術貢献賞を受賞した中国映画『転山』が11月3日よりこちらでも公開され、話題を呼んでいます。

ストーリーは、台湾地区に住む若者が兄の遺志を継いで、雲南の麗江からチベットのラサまで2000キロを越える道のりを自転車で走破するというもので、その過程で出会うさまざまな触れ合いを通じて心の成長を遂げる様子を描いています。シンプルで骨太な映画で、人生の意義や家族という問題に真正面から取り組んだ内容に、新たな時代の文芸作品と高い評価が寄せられています。

監督はこれが初監督作品という杜家毅。俳優としてすでに実績があり、2009年の東京国際映画祭で上映された『麦田』にも出演しました(2人の落ち武者の小柄な方)。監督と作品については、すでに本誌スタッフが東京で行ったインタビューがあるのでそちらをご覧くとして、ここでは、中国での上映の様子について紹介しましょう。実は公開10日を経た11月13日の夜に、北京市北部のオリンピック会場にも近い海航文化天宝国際影城で作品上映後の交流イベントがあるという情報を得て駆けつけました。こうしたファンとの交流は、日本と同様、話題作りのため、一般に公開日前後に行われるのが普通ですが、杜監督は、上映開始後も各映画館を回り精力的に交流を行っており、その理由について次のように語っています。

「なぜかというと、これが最も直接的に観客の声を聞く方法だからです。映画制作にかかわる者として、私たちは最も直接的な声を聞くことが必要です。いい意見であろうと悪い意見であろうと、きちんと聞きくことで、将来の映画制作に向け、自分の中にある存在を整理することになるのです」

海航文化天宝国際影城15のホールを持つ大型シネコンで、地下にあるがロビーも広々としていて圧迫感はまったくない

『転山』のイベントがあったこの日、ロビーにある作品のディスプレーを熱心に見る人もいた。同シネコンはこうしたイベントに積極的で、さまざまな催しが行われている

楽しく感動的なファン交流イベント

この日のイベントは大盛況でした。満席の観客は上映後も席を立つことなく積極的に交流に参加、30分を越える質問タイムに手を挙げる人が途切れることはありませんでした。みな、今見終わった作品から受けた感動を語り、監督の意図について質問していました。雲南出身という若者、今年定年を迎えた女性、チベット族の中年男性らが作品への思いを述べると、会場からは共感の拍手が起こりました。

出演者の2人も、気さくに質問に答え、会場は感動の余韻の中、なごやかな雰囲気に包まれました。2人とも明るくさわやかで、映画に情熱を燃やしているのがよく分かり、会場の誰もが出演者に好感を持ち、応援したくなったのではないでしょうか。こうした「見面会」と呼ばれる交流イベントには、私もこれまでに十数回参加したことがありますが、その中でも観客の熱心さはこの日が一番だったと思います。

上映後の「交流活動」では、映画の登場人物と同じく事故で骨折した監督は座って、2人の出演者は立ったまま観客の質問に答えた

実は、この日は監督と女優のリー・タオさんが来場するとのアナウンスだったが、なんと主演のチャン・シューハオさんも登場。このサプライズに「来てよかった!」と、客席からは悲鳴に近い歓声も

質問の後には「お楽しみ抽選会」も行われ、景品をゲットした観客は大はしゃぎでした。さらにさらに、交流イベント修了後は多くの観客がサインや記念撮影を求め前方に殺到、監督や出演者もこれに気軽に応じていました。このあたり、日本に比べてファンと監督・出演者の距離が近いように感じます。北京や上海では、こうした催しがひんぱんに行われており、こまめにホームページなどをチェックすれば、外国人でも比較的容易に参加できるはずです。

イベントの後、監督に日本の観客と中国の観客の反応に違いはあるか質問してみたところ、「私が見るところ、それはまったくありません。この作品は、見終わった後で、人々に自分の家族、自分の人生、自分の将来の日々について考えさせます。もしかすると、見る人によって注目する角度は違うかもしれません。しかし、みなさんこの作品の精神に感動してくれました。この点は同じだと思います」との答えが返って来ました。日本の映画会社もこの作品を見て関心を持ち、日本の公開について話が進んでいるそうなので、東京国際映画祭で見逃した方もどうぞご期待ください。

交流の後には、お楽しみ抽選会も行われた。チベット旅行券が当たり飛び上がって喜ぶ女性も

交流イベントが終わった後も、監督や出演者たちは気軽に記念撮影に応じていた

データ
転山(KORA)
監督:杜家毅
キャスト:チャン・シューハオ(張書豪)、リー・タオ(李桃)、リー・シャオチュアン(李暁川)、タン・チーピン(唐治平)
時間・ジャンル 89分/冒険・ドラマ
公開日 2011年11月3日

海航文化天宝国際影城
所在地:北京市朝陽区祁家豁子8号健翔大厦地下1階
電話:010-82994670
アクセス:地下鉄10号線健徳門駅から徒歩5分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年11月13日

 

 

 

 

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