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密室殺人に特化『密室之不可靠岸』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

 

前作の予告通り豪華客船で殺人事件が!

今回紹介するのは、予想外のヒットとなった前作『密室之不可告人』(2010)に続く、アレック・スー主演「密室」シリーズ第2弾です。前作のエンディングでそれとなく予告されていた通り、今回は豪華客船という「密室」を舞台にしています。

ある日、売れっ子作家の柳飛雲(アレック・スー)のもとに、友人の董磊(ヤン・クン)から豪華客船上で行われる結婚披露パーティーへの招待が来ます。そして、そのパーティーの夜に殺人事件が起こるのです。前回の相手役はペース・ウー(呉佩慈)でしたが、今回はテレビドラマ『武林外伝』で人気のニー・ホンジエ(倪虹潔)を始め美女4人が疑わしいという、男性客には怖いようなうれしいような、ドキドキの展開です。物語は、主人公が予想外の殺人事件にとまどいながらも真相にたどりつくという、第1作と同じ流れで、マネージャーが前回以上の足手まといぶりを見せるなど、一段とこなれています。正直なところ、密室トリック的には前回の方がよくできていた感じですが、今回は動機の部分で二重、三重のひねりが……、いや、謎解きものなので、これ以上はやめておきましょう。

このシリーズは、社会問題を浮き上がらせたり、説教じみた結末でまとめたりせず、とにかく密室殺人に特化した娯楽映画として制作されている点がかつてのサスペンスものとの違いでしょうか。それにしても、アイドル歌手出身のアレック・スーは、09年の『風声』以来、どんどんいい味の役者になってきている印象です。今回は最後に予告めいたものはありませんでしたが、ここまで来たら第3作も見たいものです。

 

今は「団購」で映画を見る時代

さて、この日は15元という安価で鑑賞しました。今、中国ではネットの「団購」(共同購入)で映画を見る若者が増えています。普通の作品で60~80元、3Dともなると100~120元もする映画料金ですが、「団購」では映画鑑賞券に駐車券やドリンクなどがセットになって20元そこそこというのが当たり前です。先日、70元のチケットで入場したところ、隣の若者が携帯で話しているのが耳に入りました。「今、映画館なんだ。『団購』で18元だったんだ、すごいだろう」。おいおい、隣の席なのに52元も違うのか? と驚き、インターネット部の若いスタッフにお願いしてみたところ、すぐに3日間限定15元のチケットを見つけてくれました。北京横店電視電影城が開業2周年を記念してネットで発売したもので、ネットユーザーならではの格安チケットです。これを購入すると携帯にショートメッセージでコードナンバーが届きました。映画館に行ってカウンターでこのメッセージを見せると、係員がナンバーを打ち込みチケットが発券されました。初めての経験でしたが、あっけないほど簡単で、気がついたらおまけのコーラを持って、にこにこしながら席に座っていました。王府井にある設備の整った新しい映画館で、休日の午後に15元で映画を見られるのですから、気分が悪かろうはずがありません。

北京でも伝統ある百貨店の8階にある横店電視電影城は、今年開業2周年を迎えたばかり

報道によると、この夏、開業1周年を迎えたジャッキーチェン耀莱影城が大手共同購入サイトとのコラボで、作品や時間、3Dかどうかなどの制限が一切ない2名分のチケット、つまり最大240元の価値があるチケットを36元で売り出したところ、なんと16万セットが7日のうちに売り切れたそうです。これはクーポンの締め切りである3カ月以内に同映画館が32万人の観客を確保し、7日間で600万元の収入を上げたことを意味します。

このような共同購入は昨年6月ころから始まり、大ブームとなっているようです。ユーザーが超安値で映画を見られる一方で、映画館は大出血という気がしますが、大量にチケットをさばけ、売り上げが先に立つメリットがあります。また、最近オープンした映画館では、観客にその存在や設備・サービスの優位性を知ってもらう絶好の機会にもなります。

チケット売り場の窓口が「現金VIP」と「団購」に分かれているほど、共同購入による映画鑑賞が一般化している。これはここ1年ほどの変化だ

横店電視電影城ではない他の映画館の写真だが、「団購」の専用カウンターを設けるほど共同購入の顧客が増えているようだ

なんと、現在では映画館の観客の5人に1人が共同購入の観客だとも言われますが、あまり大量に発行すると混乱を招き、一般の顧客のうらみを買うかもしれません。現在大流行のこの「団購」、今後どうなっていくのか注目したいところです。

 

密室之不可靠岸(Lost In Panic Cruise)
監督:チャン・ファンファン(張番番)
キャスト:アレック・スー(蘇有朋)、 ニー・ホンジエ(倪虹潔)、ヤン・クン(楊坤)、アニー・ウー(呉辰君)
時間・ジャンル 98分/サスペンス
公開日 2011年10月27日

北京横店電視電影城
所在地:北京市東城区王府井大街253号王府井百貨大楼北館8階
電話:010-65231588
アクセス:地下鉄1号線王府井駅から徒歩8分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年10月31日

 

 

 

 

 

 

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