「リゾートの恋」今昔『夏日楽悠悠』
文・写真=井上俊彦
「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」
11年前より健康的になった恋愛物語
というわけで(どういうわけかは、前回のコラムをご覧ください)、食事をはさんで見た、この日2本目の作品です。
国慶節の7連休は、折からの旅行ブームもあり、各地の観光地が大にぎわいを見せました。そんな中、「観光地はどこも大混雑、遠くへ出かけずにゆったりと映画館でリゾート気分に浸っては?」との宣伝文句で公開されたのが、ジングル・マ(馬楚成)監督による、マレーシアのリゾートを舞台にしたラブ・コメ『夏日楽悠悠』(英文題はLove You You)です。主演は、今人気急上昇のアイドルAngelababy(楊頴)と、台湾アイドルドラマでおなじみのエディ・ポン(彭于晏)です。
実は、同監督は2000年にサミー・チェン(鄭秀文)、リッチー・レン(任賢斉)を起用し『夏日的麼麼茶』(日本未公開)というヒット作を撮っており、それをリメークしたのが今回の作品です。2つの作品を比較しながらストーリーを紹介しましょう。まず前作では、主人公のサマー(サミー・チェン)は香港のキャリアウーマンで、失恋、株の暴落、失業という3大ダメージを受け、やむなく自らが持つプライベート・リゾートの半分の権利を現金にしようとマレーシアを訪れます。一方、今回の作品では、ヒロインの夏米(Angelababy)は北京の調査会社で働いており、資産家の持つリゾートの運営状態を調査するためにマレーシアを訪れます(実は、彼女にはもう1つ個人的な目的がありました)。前作がアジア通貨危機後の経済低迷期にあった香港の観客向けだったのに対し、今回は好景気が続き海外旅行も身近になってきた中国大陸部の若者がターゲットで、それがヒロインのプロフィールに影響しているようです。一方、現地で出会うヒーローは前作では遊び人でも内心は善良という男性でしたが、今回は親分肌でケンカも強く、女性には優しく親孝行という健康的なキャラクター設定です。このあたりの変化もおもしろいところです。
今回は、夏米には人に言えない秘密があり、それが問題解決の大きなカギになっているほか、ラブ・コメには定番の「そういうことだったのか!」という種明かしもよく考えられていて、物語に花を添えています。ロケ地はマレーシアのランテンガ島で、海の色、海の中に立つ教会などの景色にも素晴らしいものがありました。
全部で1600席を持つこのシネコンは、北京の3つのUMEの中でも最も新しく2009年末の開業 |
「植入広告」にもアイデアが
若者をターゲットにした宣伝ツールには、最近の流行語がふんだんに使われていた。日本人の中国語学習者には、貴重な教材にもなりそう |
ところで、これも以前との大きな違いですが、中国映画ではこのところ「植入広告」(プロダクト・プレースメント=劇中に特定の商標、商品を登場させる広告)がよく話題にされます。フォン・シャオガン(馮小剛)監督作品などで多くの商標、商品が画面に登場することに、安くない入場料を払っているのに広告ばかり見せるのはひどい、広告が気になって物語に集中できないなどとの批判がありました。さらに、「植入広告」によって酒類やタバコがたびたび画面に登場することに、教育上の問題を指摘する声もあります(タバコについては今年前半にも映画やドラマのシーンで使わないようにという通達が出されています)。このため、制作側もなるべく広告が自然に見えるように工夫していますが、多いものになると制作費の7割が協賛広告からという現実の中では、どうしても広告主優先にならざるを得ないようです。
そうしたわけで、この作品にもたくさんの広告が入っています。ところが、ここではこっそり出すのではなく、物語がハッピー・エンドに向かって進み始める、観客が最もリラックスしている場面で、テンポよく、これどもかとばかりに登場させているのです。これには観客も思わず笑い声を上げ、「また広告よ」「これもだわ」と、むしろおもしろがっている様子でした。広告もうまくインサートすれば観客を楽しませることさえできるのだと、香港のベテラン監督は教えてくれているようです。
夏日楽悠悠(Love You You) |
監督:ジングル・マ(馬楚成) |
キャスト:Angelababy(楊頴)、エディ・ポン(彭于晏)、チュー・ユーチェン(朱雨辰)、チョウ・ヤン(周揚) |
時間・ジャンル 91分/愛情・コメディ |
公開日 2011年9月30日 |
UME国際影城(安貞店) |
所在地:北京市東城区北三環東路36号環球貿易中心E座 |
電話:010- 58257733 |
アクセス:地下鉄5号線和平西橋駅A出口から徒歩10分 |
|
プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2011年10月9日