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美女、雲の如く『画壁』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

 

『画皮』とはまた違った愛の物語

国慶節の10月1日、大混雑の市中心部を避け、話題作『画壁』をUME国際影城安貞店で見ることにしました。ここは、北三環に面した北京グローバル・トレード・センターのE座にある設備の整った最新のシネコンです。この日は、スクリーンも壁一杯の大きさで明るく見やすいホールで、レザー張りのシートに座り心地よく鑑賞しました。

作品は、『画皮』を大ヒットさせたゴードン・チャン(陳嘉上)監督が、再び中国の古典怪奇小説集『聊齋志異』にアイデアを得て制作したものです。都に科挙試験に向かう若旦那とその従者、2人に捕らえられた賊の3人が、小さな寺に駆け込んだところから物語は始まります。そこで若旦那の朱孝廉(ドン・チャオ)は、寺の壁に描かれていた絵の女性に注目します。すると、その女性・牡丹(ジェン・シュアン)が目の前に現れたのです。そして、彼女に導かれた朱は美しい仙女たちが暮らす世界を訪れ、孤独な仙女・芍薬(スン・リー)と知り合いお互いに心引かれるようになります。一方、牡丹は朱を元の世界に戻すために衛兵につかまってしまいます。元の寺に戻った朱は、牡丹を救うために従者と賊を伴って再び仙女の世界に向かいます……。

館の入り口には、『画壁』のディスプレーが飾られ、雰囲気を盛り上げている

 

美しい仙女たちの「愛の選択」に涙

映画館付近の街路樹もすでに色づき始め、北京の秋空がさわやかな連休初日だった

物語には仙女を取り仕切る姑姑(イェン・ニー)が男たちに、伴侶にする仙女を自由に選ばせるシーンなどがあり「男目線」の作品に見えますが、女性たちが愛のために何を選択するかがストーリーのカギになっていきます。そうした中で、女優陣が個性を競い合うような演技を見せており、主演のスン・リー(孫儷)、そしてジェン・シュアン(鄭爽)の演技には素晴らしいものがありました。ジェン・シュアンは、『一起来看流星雨』(中国版花より男子)に出演した際には、アイドルドラマ特有の大げさな表現をぎこちなく演じるイメージもあったのですが、この作品では最初は天真爛漫で行動的な少女を、後半では一途な愛に傷つく女性を見事に演じ分け、表情や目の演技で独特の存在感を出していました。ほかにも、貞淑な丁香のモー・シャオチー(莫小棋)に加え、なまめかしい雲梅のリウ・イエン(柳岩)、活発な翠竹のシエ・ナン(謝楠)という司会者出身の2人も個性的な美女を演じています。紹介記事などにあった「美女如雲」は誇大ではありません。外国映画で初めて見る女優が多い場合、みな同じ顔に見えることがありますが、さすがは中国、これだけ個性の違う美女が集まっているのを見ると、文化の多彩さ、多様性を感じます(大げさですね)。お気づきになられたかと思いますが、仙女たちの名前には花の名前が使われており、まさに百花繚乱です。

花といえば、中国の映画評では「花瓶」という言葉がよく使われます。演技者にたいへん失礼な言い方で、「美しい飾り物だが、演技はできない」という意味です。この作品の出演者たちがそうした「花瓶」でないことは、多くの女性客のすすり泣く声が聞こえてきたことからも分かります。観客には女性が圧倒的に多く、みなそれぞれの仙女の「愛の選択」に自らの思いを重ねたのでしょう。カップルで見ても、女性同士で見ても、見終わった後に食事をしながら「あなたは誰派?」と、話がはずむ映画だったのではないでしょうか。

ところで、この日はもう1作続けて見るつもりでまとめてチケットを買おうとしたところ、「この映画を最後まで見るなら、間に合いませんよ」と注意されました。「そんなはずは……。ネットで見て計算したんだけど」と言うと、「とりあえず1枚だけ買って、間に合いそうだったら、出てきてから買えばいいです」とのアドバイス。実際はスタッフの言うとおり、まったく間に合わなかったのでした。ちょっとしたことですが、スタッフが観客の立場で応対してくれていることが分かりました(つづく)。

1Fにあるロビーは広々としており、書店と一体化された居心地のよさそうな喫茶コーナーも併設されている

画壁(Mural)
監督:ゴードン・チャン(陳嘉上)
キャスト: ダン・チャオ(鄧超)、スン・リー(孫儷)、ジェン・シュアン(鄭爽)、イェン・ニー(閻妮)
時間・ジャンル 123分/ファンタジー・愛情
公開日 2011年9月29日

UME国際影城(安貞店)
所在地:北京市東城区北三環東路36号環球貿易中心E座
電話:010- 58257733
アクセス:地下鉄5号線和平西橋駅A出口から徒歩10分

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年10月8日

 

 

 

 

 

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