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新たな神話誕生!『失恋33天』

 文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

独り者デーは失恋映画で癒されたい

2011年11月11日は「1」が6つも並ぶ100年に1度という「神級」の「光棍節」、つまり独り者デーだそうです。『人民中国』9月号の特集にもありましたが、「80後」の結婚が社会的問題になっている折、日本以上にこうしたものが注目され、各所でこの機に乗じたセールなども行われていました。映画界も例外ではなく、『失恋33天』『光棍終結者』など、この時期をねらった恋愛映画が上映されています。

中でも、爆発的なヒットとなっているのが『失恋33天』です。上映初日に市内東部の映画館に行ったところ、目的の回も次の回もチケットが残っておらず、翌日、王府井にある百老匯新東安影城でどうにか席を確保、ようやく見ることができました。

物語は、結婚式プロデュース会社に勤める黄小仙(バイ・バイハー)が長く付き合った彼氏に裏切られるところから始まり、彼女が失恋してからの33日間に、その心をどう変化させていくかを描いています。裏切られたことに衝撃を受け何も手につかなくなり、他人に対する不信感にさいなまれる状態が続き、そして自分を反省し始め、やがてふたたび人を愛する気持ちが芽生えるまでを、小さなエピソードを積み重ねながら、丁寧に描いています。特にびっくりするような曲折もないのですが、ユニークな台詞のキャッチボールが楽しく、どんどん引き込まれていきました。

特に、最初は「パーテーションにぶつかるなよ、コーヒーがこぼれたじゃないか」などと、細かなことで主人公にからむ、いけすかない同僚「王小賤」こと王一揚が、次第に彼女を支えるようになる展開が心地よく感じられます。極めつけは、その毒舌で彼女の元彼をしたたかにやっつける場面で、その痛快さに場内も爆笑でした。

その「王小賤」を演じるのがウェン・ジャンです。今年日本で公開された『海洋天堂』でジェット・リーの息子を演じたので、ご存じの方もおられるかと思います。今回はオネエ風の物言いから、元彼に対する強烈なタンカまで、見事な台詞回しで楽しませてくれます。実はこの2人、中央戯劇学院のクラスメートというだけあって、息もぴったりです。

ローバジェット作品を「奇跡の大ヒット」にしたもの

ロケ地は基本的に北京市内東部と故宮近辺です。映画館のすぐそばの東方新天地を始め、見ている観客にとって特になじみのある場所が多く画面に登場し、場内の笑いを誘っていました。ロケ地からもお分かりのように、いわゆるローバジェット映画の典型で、登場人物も少なく、主人公を演じる俳優も国際級のスターというわけではないのですが、最初の週末だけで1億元を突破したそうです。

百老匯新東安影城は王府井という一等地にありながら、火曜日だけでなく水曜日も半額デーなど観客サービスも充実

この作品がとらえたのは、「小清新」たちの心です。「小清新」とは、最近注目される、落ち着いたファッションを好み、村上春樹などの文学やインディーズ系のポップスを愛する、物静かな若者たちのことです。この作品には彼ら、彼女らが好む台詞や小道具、そしてヒーローが登場してきます。これまでのラブコメのようなマッチョや白馬の王子ではなく、いつの間にか自分の心に寄り添っていてくれる男性という、新しいヒーロー像を打ち出して支持を得た監督は、『蝸居』『裸婚時代』などテレビドラマで数々のヒットを飛ばしてきた滕華濤です。この作品では登場人物の話し方もテレビ的な自然さが感じられました。これも若者たちに支持された理由の1つかもしれません。

上映開始から1週間、当初は「光棍節」が終われば忘れられるのではと見ていたマスコミの扱いも、一種の社会現象的な取り上げ方に変わってきています。普段は国産映画に辛口なインターネット部の若いスタッフも、11日の当日に満員の映画館で見たそうで、「蛮好看的」とほめていました。映画評の中には「本当の意味での80後映画の誕生」との言葉も見えました。スター勢ぞろいの大作ではなく、ローバジェットの文芸作品がこれだけのヒットになったことは、中国映画の新しい変化を象徴しているのかもしれません。今後に注目したいと思います。

シネコンを訪れる人の多くがこの作品目当てという状態。実はハリウッドの大作も上映されているが、この作品が上映されるや、それらを見る人も激減してしまった。

この日は、王府井大街では台湾風情展という催しが行われており、テントで各種特産品が販売されていた。

データ
失恋33天(Love is Not Blind)
監督:滕華濤
キャスト:バイ・バイハー(白百何)、ウェン・ジャン(文章)、チャン・ズーシュアン(張子萱)
時間・ジャンル 110分/愛情・コメディー
公開日 2011年11月8日

百老匯新東安影城
所在地:北京市東城区王府井大街138号新東安市場6階
電話:010- 65281898
アクセス:地下鉄1号線王府井駅から徒歩4分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年11月9日

 

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