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いじめられキャラの本領『假装情侶』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

 

「低成本」コメディーの隆盛

ここ数年、中国では「低成本」(ローバジェット)のコメディ映画が数多く作られています。そのきっかけになったのが2006年に予想外のヒットを記録した『クレイジー・ストーン~翡翠狂騒曲~』(ニン・ハオ監督)です。少ない投資で大きな見返りが期待できると出資者が集まるようで、次々に作品が作られるようになりました。粗製濫造の傾向もありますが、時々思わぬヒットとなる作品が出ることから、制作ブームがおさまる様子はいっこうにありません。

その『クレイジー~』で注目を集めた俳優の1人がホアン・ボー(黄渤)です。同作での、下水道に閉じ込められてひどい目に遭うまぬけな泥棒役は印象的で、今では「いじめられキャラ」としてコメディ映画には欠かせない存在になっています。そのいじめられぶりが楽しい(?)新作が、大作の陰で意外な好成績を上げている『假装情侶』です。最初の週末で興行収入約1300万元を記録し、ダークホース的存在になっています。

この作品を見るために向かったのは、「北京のシリコンバレー」中関村にある美嘉歓楽影城。ここは地元企業と韓国企業が2007年にオープンさせた、8ホール、約1700席を持つ大シネコンで、英語名はMEGABOXとなっています。大きいだけでなく設備が整っており、米国IRWINの椅子やJBLの音響などをウリにしています。ロビーもゆったりとしており、映画館も天井が高く椅子の幅も広いなど、環境の整った映画館といえます。

定番喜劇を成功させた工夫とまじめさ

物語の舞台は雲南省昆明。保険販売会社勤務の陳文(ホアン・ボー)は、持ち前の親切心から街で見かけた奇妙な女性・沈露(ジャン・イーイェン)とかかわり、ひどい目に遭います。しかし、再度連絡してきた沈露は、かりそめの恋人にならないかと持ちかけ、「絶対にあなたを好きになることはない!」と宣言するのでした。それは陳文にとって、彼女に振り回される生活の始まりでした……。

韓国映画『猟奇的な彼女』(2001)以来の、善良な男性がエキセントリックな女性に振り回されるパターンのラブ・コメですが、細かなくすぐりに工夫も多く楽しめます。何より、ホアン・ボーのいじめられぶりが真にせまっており、会場の驚きと爆笑を誘っていました。冒頭から顔にケーキを塗りたくられ、成人グッズ店で屈辱的なジョークの対象にされ、財布やケータイを探すため何度も湖にもぐらされるなど、体を張った演技で観客を引き付けていきます。そんな様子からは、美形でもなく、若くもない、この小柄な俳優が多くの人に愛される理由のひとつが、まじめに演技に取り組む姿勢にあることが分かります。

相手役は、『南京!南京!』(2009)『秋喜』(2009)などでの可憐な美少女ぶりが記憶に残るジャン・イーイェン(江一燕)。今回は男性を振り回す「悪女」に挑戦していますが、いきなり「ブス・メーク」で画面に登場するなど、ホアン・ボーに負けず体を張っています。

監督は『スパイシー・ラブ・スープ』『こころの湯』などの脚本で知られる劉奮闘。監督としてはまだ3作目ということです。今回は、制作途中でプロデュース方面ともめたようで、最終的には編集権を持たない「前期監督」とされてしまいました。こうしたローバジェット映画ではプロデュースの力が強く、監督は自分の意見を通しにくいことも多いようです。本人にとっては不満の残る作品だったようですが、監督に力があることは十分感じられましたので、次回は是非自身が納得いく作品を撮ってもらいたいものです。

データ
假装情侶
監督:リウ・フェンドウ(劉奮闘)
出演:ホアン・ボー(黄渤)、ジャン・イーイェン(江一燕)、チャン・モー(張黙)
時間・ジャンル:94分/愛情・喜劇
上映日:2011年6月24日

美嘉歓楽影城
所在地:北京市海淀区中関村大街15号中関村広場購物中心津楽匯3階
電話:010-82674001
アクセス:地下鉄4号線中関村駅から徒歩2分

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

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