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これぞお正月映画『大魔術師』

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

民国初期の天橋を舞台に華麗なマジックが炸裂

北京はいよいよ春節(旧正月)間近、正月ムードが漂ってきました。正月映画も第2弾が公開され、それぞれ話題を集めています。その中でも、まずは『大魔術師』を見に行きました。これは、民国初期の北京・天橋を舞台に、天才マジシャンが活躍する物語です。となれば、やはり天橋の伝統ある映画館・中華電影城で見るのがふさわしいのでは、と天橋を目指しました。もちろん、現在の天橋は現代的な街になっており、ここでロケがなされたわけではありませんが、気持ちの問題です。

天橋はかつて、皇帝(天子)が天壇で祭祀を行う場合に必ず通った橋があったというのが名前の由来です。清の咸豊年間(1821—1861)に、政府がここでは税を徴収しなかったことから大道芸などを行う者が集まり、武術や演芸を見せる茶館や酒楼、雑技場などが数多くできました。1906年に京漢鉄道が開通し永定門外に駅ができるとさらに繁栄し、1930年代には700軒を超える店が立ち並んだとされます。この作品はどうやら1910年代末から20年代初期に時代設定されているようです。

さてその物語は、天才マジシャンの張賢(トニー・レオン)が北京の天橋にやって来るところから始まります。彼の目的は軍閥の雷司令(ラウ・チンワン)の第七夫人にされてしまった恋人・柳蔭(ジョウ・シュン)を奪い返すためでした。彼は軍閥に対抗する革命派と結び周到な計画を立てますが、そこに覇権を競う小軍閥たち、清朝復活を画策する勢力、マジックの奥義「七聖法」をねらうライバル、そして悪い日本人組織までがからんで、計画は思いがけない方向に展開してしまい、ついには……というものです。

天橋は、清代から大道芸などでにぎわった歴史を持つ。現在も伝統ある天橋劇場のほか、雑技や相声(日本の漫才に相当)の劇場が並んでいる

ドタバタ、小ネタギャグ、ユニークな台詞の応酬など、爆笑の場面がいっぱいの楽しい作品ですが、見どころはなんといっても、トニー・レオンが繰り出す華麗な技の数々です。本当のマジックに映画ならではの特撮を加え、夢のある魔術が繰り広げられます。一方で、細かな時代考証や筋立ての不自然さなど、疑問点を指摘すればいくらでもありますが、この作品はお正月らしく、華やかな場面を楽しめばいいのだと思います。

多数出演のゲスト俳優探しも楽しい

正月映画らしくといえば、出演者も豪華です。主演のトニー・レオン、ラウ・チンワン、ジョウ・シュンに加え、イエン・ニー(閻妮)、ラム・シュ(林雪)、ワン・ツーウェン(王子文)などが共演、日本からは澤田拳也が参加しています。さらに、ダニエル・ウー(呉彦祖)、アレックス・フォン(方中信)、ツイ・ハーク(徐克)ら多彩なゲストも登場しており、これを探す楽しみも正月映画ならでは。私には、それら多彩な出演者の中でも、雷司令の執事を演じるウー・ガン(呉剛)の演技が印象に残りました。彼は『鉄人』(2009年)で金鶏賞最優秀主演男優賞を受賞したこともある演技派ですが、歴史的偉人から今回のようなこそこそ立ち回る小人物まで幅広く演じることができるのが魅力です。

天橋劇場前の公園には、かつて演芸で知られた名人たちの像が並んでおり、昔をしのぶことができる

この写真は天橋付近ではないが、北京の街角には花火を売る臨時の売店が登場。いよいよ春節が近づいてきた

物語の中では主演3人の三角関係をめぐって、「自由恋愛」の言葉が何度も登場してきます。社会制度が変わり、自らの意思での恋愛が叫ばれた時代の社会現象を借りて、監督は現代女性の恋愛に対する価値観を語ろうとしているのかもしれません。才能と名声を代表する張か、富と権力を代表する雷か、最後に彼女が選ぶのは……。これが今の中国女性の価値観なのか、と感じさせられる結末は、ぜひ実際に劇場で(きっと日本でも公開されるかと思います)。

それでは、龍年吉祥!

【データ】

大魔術師(The Great Magician)

監督:イー・トンシン(デレク・イー/爾冬昇)

キャスト:トニー・レオン(梁朝偉)、ジョウ・シュン(周迅)、ラウ・チンワン(劉青雲)、ウー・ガン(呉剛)、イエン・ニー(閻妮)

時間・ジャンル 120分/愛情・アクション・ファンタジー

公開日 2012年1月12日

北京中華電影娯楽宮影城

8つのホールを持ち、座席数は1000を数える。90年代初頭に改修され、北京最初の特級映画館となった

庶民的雰囲気のロビー。上部に見える「愛国 創新 包容 厚徳」は、最近北京市が打ち出したキャンペーン「北京精神」のスローガン

所在地:北京市西城区西直門南小街68号

電話:010-63034485

アクセス:地下鉄2号線前門駅から692路のバスで2つ目の停留所・天橋下車すぐ

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年1月17日

 

 

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