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ドタバタだけじゃない『飯局也瘋狂』

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

現代の中国では春節に何を「笑う」のか

春節の連休には、たくさんの「賀歳片」(お正月映画)が上映されました。この時期にはハッピーなほのぼの作品やスラップスティックなコメディーなど、家族で楽しめるものが好まれるのは日本と同じ。前回ご紹介した『大魔術師』のほか、多くのコメディーが上映されました。

中国の春節に欠かせないのは、愛と成功がみな実現する、やたらおめでたい香港コメディー。今年は『八星抱喜』が上映されました。観客は、さまざまな笑いの仕掛けの中、4組の意外な組み合わせカップルがどんなハッピーエンドを迎えるかを楽しみます。ドニー・イェン(甄子丹)ら香港のスターにまじって、中国大陸部から人気アイドル女優のヤン・ミー(楊幂)が出演、誕生日までに結婚しなければ財産を相続できないお嬢様を演じました。香港映画は、地元では広東語で、中国大陸部では普通話吹き替えで上映されますので、言葉そのものに頼らない笑いネタが多いように思われます。

一方、最近中国大陸部での公開が増えた台湾映画では青春ラブコメ『那些年、我們一起追的女孩』、父性愛をテーマにした『新天生一対』が公開され、それぞれ好評を博しました。特に『那些年』はこれまでの台湾映画の中国大陸部での興行記録を書き換えるヒットです。あきれるほど愛に一途な青年の行動に、笑いながらも懐かしく酸っぱい思いを感じた観客が多かったようです。

そして、2年前に帰省ロードムービー『人在囧途』で好評を博したイップ・ワイマン(葉偉民)監督が再び春節の帰省問題を扱った『親家過年』は、黒龍江省と雲南省出身のカップルとその家族が北京で春節を過ごすというユニークな設定で、地域、世代、男女の違いが引き起こす笑いを、ペーソスを交えて見せてくれています。ドラマ『裸婚時代』や映画『失恋33天』で若手トップ俳優となったウェン・ジャン(文章)が、ここでもユーモアあふれる長い台詞を語るなど、笑いと涙を誘います。

飯局也瘋狂』の宣伝用ディスプレーは、コピーも「春聯」風になっている(北京博納影城朝陽門旗艦店)

『大魔術師』の立体ディスプレーは、穴から顔を出して記念撮影ができる(北京博納影城朝陽門旗艦店)

『八星抱喜』のディスプレーは「紅灯篭」風とユニーク(新東安影城)

ロビーに中国結を飾るなど正月ムードを演出(世界城・星美国際影城)

そして、今年の「賀歳片」の中でも特に異彩を放っていたのが、昨年『武林外伝』を大ヒットさせた尚敬監督の『飯局也瘋狂』です。イケてないポスターといい、そのまんまなタイトルといい、とてもヒットしそうに思えなかったためか(失礼)、ノーマークだったこの作品、上映が開始されてから「上映ホールが足りない」と映画館が悲鳴を上げるほどの人気ぶりとなりました。

中国式会食の裏側を毒のある笑いで暴く

郊外にある破産寸前の高級料理店に、ひと癖もふた癖もありそうな連中が集まって「飯局」を繰り広げます。有力者を食事に招待しコネをつけようと運動する成金、カリスマ風水師を招いて改名を相談する落ち目俳優、父親を美食をふるまい結婚を認めさせようとする若いカップルなどなど。しかし、妙なことからみなが一緒に食事をすることになってしまいます。目的はさまざまでも食卓は1つ、食事の席の裏側で思惑が交錯する中、こそ泥や色仕掛けがからみ事件へと発展していくのです。

「賀歳カード」「紅包」などをあしらった宣伝グッズも見かけた(北京紫光影城)

「飯局」とは会食、宴会のことです。食事にかこつけ、よからぬ相談や怪しい取引が行われるのは古今東西よくある話ですが、経済発展が急速な中国では、そうしたものに人々の注目が集まり社会問題になっています。そうした風潮を思い切り風刺しているのがこの作品です。そして、ハチャメチャな中にも、他の映画の結末や大きな事故を連想させるシーンがあるなどと、公開後に話題が盛り上がり、「元宵節」(小正月)にもう一度ピークが来るのでは、と期待されています。

さて、そしてこの時期は、映画館のロビーも春節ムードいっぱいです。いくつかの映画館の様子を撮影してみましたので、お楽しみいただければと思います。

【データ】

飯局也瘋狂

監督:シャン・ジン(尚敬)

キャスト:ファン・ウェイ(范偉)、ホアン・ボー(黄渤)、リウ・ホア(劉樺)、モニカ・モク(莫小棋)

時間・ジャンル 100分/コメディ

公開日 2012年1月23日

UME国際影城(双井)

所在地:北京市朝陽区東三環中路双井橋北富力広場5-6F

『飯局也瘋狂』を鑑賞したUME国際影城(双井)は、営業面積6000平米余り、9つのホールを有し1400人収容の規模だけでなく、広々としたロビーやブックカフェが併設されているなどの点もポイントが高い。

電話:010-59037171

アクセス:地下鉄10号線双井駅A出口すぐにあるビルの5階

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年2月6日

 

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