ニン・ハオ健在!『黄金大劫案』
文・写真=井上俊彦
2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。
8トンの黄金をめぐって大混乱!
『クレイジー・ストーン ~翡翠狂騒曲~』などで日本でも知られるニン・ハオ監督の新作がついに公開されました。「ついに」というのは、実は昨年完成させた『無人区』が審査を通らず公開できなかったため、これが『瘋狂的賽車』(原題)以来、3年ぶりの作品となったからです。『香火〜インセンス』から彼の作品に注目してきた者としては、挫折の経験が作品にどう影響しているか心配だったのですが、出来上がった『黄金大劫案』はさすがニン・ハオ、という痛快なものでした。
物語の舞台は日本に侵略された中国・東北地区。チンピラの小東北(レイ・ジャーイン)は、ひょんなことから芳蝶(タオ・ホン)が率いるグループと知り合い、日本軍と大和銀行(かつて日本にあった同名の銀行とは別の銀行)が輸送する8トンの黄金を略奪する計画に、分け前を求めて参加することになります。しかし、小東北のこそ泥行為が原因で作戦は失敗し、彼は仲間の信頼を失い、鳥山大佐(山崎敬一)に目をつけられ、ついには仲間を売り渡してしまうのでした……。
前半はおなじみの「寧式」ユーモア満載で楽しませてくれますが、後半はむしろ感動の冒険・愛情ドラマという雰囲気になっていきます。8トンの黄金をめぐり、日本軍、革命党のほか、大女優、富豪令嬢、匪賊、腹黒い家主から神父までさまざまな人物がからんで、誰が味方で誰が敵なのか分からないままの観客は、意外な展開に驚かされ、笑いの後に涙を誘われます。そして、最後に黄金を手にするのは誰なのか、ハラハラドキドキの中で予想外の結末へとなだれ込んでいくのです。見事な物語の運びに、監督の健在ぶりは十分に感じられました。また、ツイ・ジエン(崔健)が歌うエンディング曲など音楽も良く、これまた同監督らしいところです。
入り口ホールの壁には、名作中国映画をコラージュした壁画が。地下にあるシネコンだが、上部が吹き抜けになっており、圧迫感はない |
ショッピングセンターの建物内外の通路にはスターの手形があり、映画ファンを楽しませてくれる。ニン・ジン(寧静)の手形を発見 |
日本の中年が素晴らしい演技
これまでニン・ハオ作品をご覧になってきた方は、出演者リストだけを見ると、また『クレイジー・ストーン ~翡翠狂騒曲~』と同じような配役かと思うかもしれません。しかし、同監督作品でおなじみのグォ・タオ、ホアン・ボー、リウ・ホアらの出番は実は少なく、これまでテレビドラマなどで活躍してきたレイ・ジャーインが主人公としてよく口の回る東北人を好演しています。満席の映画館では、彼の話す東北方言も笑いを増幅する効果を発揮しているようでした。
ところで、作品の中で抜群の存在感を見せているのが、鳥山大佐(中関村の映画館では「鳥山」の名前だけで爆笑が起きました)役の日本人俳優・山崎敬一です。1966年生まれといいますから今年で46歳、北京で日本語教師などの職を経て数年前に俳優になったという経歴の持ち主です。この作品に登場しているのを知って初めて「俳優になったの?!」とびっくりした北京在住の日本人も少なくないそうですが、グォ・タオやタオ・ホンら実力派俳優を相手に、一歩も引かない素晴らしい演技を見せています。矢野浩二に続く人気日本人俳優になる可能性を秘めていると思います。
さて、直前になって6時間繰り上げ公開したため、2日目となった24日にこの作品を鑑賞したのは、若者の多い中関村にある北京金逸国際影城です。2006年に開業した868人収容のシネコンですが、席の間隔も広いなどゆったり作品を見られます。また、2本の地下鉄が乗り入れる海淀黄荘駅直結という立地も魅力です。雨模様のこの日、地下鉄からそのまま映画館に行けるのは本当にありがたく感じました。
【データ】
黄金大劫案 Guns N'Roses
監督:ニン・ハオ(寧浩)
キャスト:レイ・ジャーイン(雷佳音)、タオ・ホン(陶虹)、チェン・ユエンユエン(程媛媛)、グォ・タオ(郭濤)、ホアン・ボー(黄渤)、リウ・ホア(劉樺)、山崎敬一
時間:108分
ジャンル:コメディー・アクション
公開日:2012年4月23日
北京金逸国際影城
北京金逸国際影城は中関村の有力ショッピングセンター内にあるシネコン |
地下通路で地下鉄駅と直結しており交通の便も抜群 |
所在地:北京市海淀区中関村大街19号 新中関ショッピングセンター地下1階
電話:010-82486800
アクセス:地下鉄4号線・10号線海淀黄荘駅直結
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2012年4月25日