新しい合作の形『烏龍戯鳳2012』
文・写真=井上俊彦
2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。
『烏龍戯鳳2012』のポスター 『烏龍戯鳳2012』というタイトルだが、以前に『烏龍戯鳳』があったかどうかは不明。また、『遊龍戯鳳』という京劇のタイトルをもじっているのだと思うが、ストーリー的なつながりは見出せない…… |
艶妃(レニー・ユエン)は上海に住む18歳。いわゆる「富二代」で、大学入学記念旅行で台湾を訪れますが、すぐに大陸部から追いかけてきた悪者に誘拐されてしまいます。彼女をクルマのトランクから救い出してくれたのは、台湾最南端にある鵝鑾鼻(がらんび)の派出所に勤務する、定年間近の警官・阿彭(ポン・チャチャ)でした。阿彭は、彼女を帰国させるため空港まで送っていくことになりますが、遊び足りない艶妃は途中で逃げ出してしまいます。その頃、誘拐グループのほかに、妖艶な女ボス(タミー・チェン)率いる地元のヤクザ、売れないロッカー兄弟(チウ・コン/ファン・スーユー)などが、彼女にかけられた高額の賞金を目当てに追跡を開始していました……。
大陸部からやってきた少女をめぐって、さまざまな人たちが入り乱れ、島を北上しながら追跡合戦を繰り広げるという、低予算のドタバタ・コメディーです。屋台街、お祭りのパレード、路地や民家を駆け巡る追いかけっこを通じて、台湾の風物をこれでもかと見せてくれます。こうした作品にありがちな、ストーリーを通じて地元名物、観光地を宣伝していこうというパターンですが、分かっていてもやはり美しい景色や屋台グルメは、目を楽しませてくれます。ほかにも、言葉をめぐるやり取りが新鮮で楽しく感じました。最初はお互いをよく思っていない艶妃と阿彭が口げんかをするのですが、興奮するとお互いに口をつく上海語と台湾語が、通じたり通じなかったりするのです、「あ、今のは分かった。ひどいことを言う」といった具合に。
出演者には、台湾のベテラン・コメディアンのほか、台湾アイドルドラマを通じ大陸部でも著名なタミー・チェンなどが顔をそろえています。そして、ヒロインは上海出身で台湾アイドルドラマでも活躍中のレニー・ユエンです。
1年前にはあり得なかったストーリー
この作品のストーリーには、最近の両岸関係の変化が大きく影響しています。18歳の少女がいわゆる卒業旅行で台湾を個人旅行するという展開は、以前はあり得ませんでした。お金の問題だけでなく、個人旅行そのものが許可されていなかったからです。2011年6月、北京、上海、廈門(アモイ)から台湾への個人旅行が解禁となり、1人でも台湾を旅行することができるようになりました。つまり、艶妃は新しい制度を真っ先に利用して台湾に渡ったという設定なのです。
こうした動きをいち早く取り入れた脚本を用意し、大陸部の出資者を得て初監督作品を撮影し、それを大陸部でも公開するという、以前には考えられなかったパターンでデビューを果たしたアンディー・ルオですが、残念ながら私はこの監督のデータはまったく持っていません。しかし、これが新しい両岸合作の形となっていくのかには非常に興味があります。今年のバレンタインに大陸部で公開されたニウ・チェンザー監督の『愛』が1億元を超える大ヒットとなりました。これが現在までに行われた両岸の合作で最も大きな成功例だと思いますが、今回のようなローバジェット作品が成功すれば、両岸映画界の交流はさらに深いものになっていくに違いありません。北京での反応はそれほど大きくなかったようですが、上海や福建ではどうだったのでしょうか。
北京博納影城朝陽門旗艦店は、朝陽門駅からも近いショッピング・センター悠唐広場内にある |
チケット売り場は地下1階にあり、入り口は非常にオープンな雰囲気 |
なお、この作品を鑑賞した北京博納影城朝陽門旗艦店は、映画界の大手・博納国際影業グループが2009年北京に開業した、7ホール1200席を持つ文字通りの旗艦店です。会員優待が充実しているほか、積極的に「見面会」や「首映式」なども行うサービス充実の人気シネコンで、地下鉄・朝陽門駅から数分というロケーションも魅力です。巨大ショッピングセンターの地下1、2階に入っていますが、ロビーを広く取り、吹き抜けを採用するなど、ゆったりした構造でリラックスできます。
【データ】
烏龍戯鳳2012 Bang Bang Formosa
監督:アンディー・ルオ(羅安得)キャスト: ポン・チャチャ(彭恰恰)、タミー・チェン(陳怡蓉)、レニー・ユエン(苑新雨)、チウ・コン(九孔)、ファン・スーユー(房思瑜)
時間・ジャンル 99分/冒険・コメディー
公開日 2012年2月22日
北京博納影城朝陽門旗艦店
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7つのホールはすべて地下2階にあるので、チケット売り場からはエスカレーターに乗るが、ロビーは吹き抜けで広々としている |
ロビーは広く開放的で、椅子やテーブルも置かれ雑誌も閲覧できるなど、待ち時間もリラックスして過ごせる |
所在地:北京市朝陽区三豊北里2号悠唐生活広場B1
電話:010-59775660
アクセス:地下鉄2号線朝陽門駅から徒歩7分
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2012年2月27日