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武侠版刑事サスペンス?『四大名捕』

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

ポスター
今年上半期に1億元突破の国産映画は6作品

2011年131億元を記録した興行収入は、今年前半の6月末までで80億元に達しました。不入りといわれた時期があることを考えると、予想以上に健闘したと言えるでしょう。ちなみに、ハリウッドなどの海外映画と国産映画の割合は65対35となっています。国産映画に限って言いますと、1億元を突破したものが6作品ありました。公開されたばかりの『画皮Ⅱ』、正月映画の『大魔術師』や『喜羊羊與灰太狼之開心闖龍年』、ニン・ハオのコメディー『黄金大劫案』、バレンタイン向けに公開された『愛 Love』、人気歌手のジェイ・チョウらが主演したソルジャー・アクション『逆戦』です。

さて、夏休みに入って『画皮Ⅱ』が大ヒット中ですが、その『Ⅰ』を監督したゴードン・チャンの新作で、四大武侠作家と呼ばれる温瑞安の原作を映画化した『四大名捕』が公開されました。原作のほか、以前制作されたドラマや映画が有名なためか、辛口の批評も見られましたが、どうしてなかなかの面白さで、原作を知らない私でも十分楽しめました。

物語は、明代の公安機関・六扇門と、新たに作られた神候府が、同じ通貨偽造事件を追って争う中、予想外の強敵が登場するという展開です。六扇門の密命を帯びて神候府に潜入する冷血(ドン・チャオ)でしたが、そこで人の心が読める超能力者・無情(リウ・イーフェイ)と出会い、次第に心引かれていきます。そして、冷血と神候府の調査で、偽造の背後には大きな陰謀が隠されていることが明らかになってきますが……。

夏休みが始まり、この週末からは『ウルトラマン』の新作も公開。小さな子供を連れた母親の姿が多数見られた

『四大名捕』で使われた衣装が、きわめて地味に展示されていたが、映画ファンにはうれしい驚き

ところで、ひねくれ者の私は、実は武侠映画に登場する超人的な技に、なかなかなじめません。屋根の上を飛ぶくらいならいいのですが、手をかざすだけで炎が出たり、指差すだけで人を凍らせたりというのはどうも苦手です。「えっ、それができるなら、最初からチャンバラなんかしなくていいんじゃないの?」と、つい考えてしまい楽しめないのです。

その点、今回の作品は、超人技だけでなく、捕り物、謎解きの楽しみ、冷血をめぐる無情と姫揺花(ジャン・イーイェン/江一燕)の恋のさや当てなどさまざまな要素があって、武侠ものがあまり得意ではないという方(自分のことを言っているわけですが)も楽しめるのではないでしょうか。今回は、謎を残した結末でしたが、ネットで調べるともともと3部作の予定で作られたそうですので、次回作が楽しみです。

ひとつ触れておきたいのですが、悪役のウー・シウボー(呉秀波)が抜群の存在感を見せているのが魅力でした。やはり、こういう作品は悪役が本当に憎々しくなければ面白くありません。彼は2000年代の半ばに数多くのテレビドラマに主演した人気俳優で、「当時はどの人気ドラマの主演にも名を連ねていた印象がある」とはインターネット部スタッフの記憶です。

7つのホールを持ち、1500人近くを収容できる巨大シネコン。7つのホールのうち3つは3D上映できるなど設備の充実度も高い

フロアーの窓からは北京南駅と上海方面に向かう高速鉄道列車が見えた。夏休みを利用して観光地に向かう乗客も多いのだろう

映画産業急成長の現在、中国ではテレビ界の人気俳優が映画に進出してくることが増えています。昨年ヒットした『失恋33天』で人間味ある上司を演じたチャン・ジャーイー(張嘉訳)も警察ドラマなどで人気の俳優でした。日本では中国のドラマが紹介されることが少ないのですが、中国の中年俳優にもぜひご注目を。

さて、今回作品を鑑賞したのは、北京と上海を結ぶ京滬高速鉄道の発着駅である北京南駅に近い馬家堡にある保利影城です。このシネコンが入る「大峡谷」は、空港を管理する首地グループが開発したショッピングセンターで、空港でおなじみの著名ブランドが軒並み入居しています。北京市の南側は、あまり日本人が訪れることのない場所かもしれませんが、外国人が多く住む地区のショッピングセンターにも負けないオシャレさです。

【データ】

四大名捕 The Four

監督:ゴードン・チャン(陳嘉上)、ジャネット・チュン(秦小珍)

キャスト:ダン・チャオ(鄧超)、リウ・イーフェイ(劉亦菲)、ロナルド・チェン(鄭中基)、コリン・チョウ(鄒兆龍)

時間・ジャンル: 118分/アクション・サスペンス・古装

公開日:2012年7月12日

国際的なブランドが多数入るオシャレなショッピングセンター。空港ビルで培ったノウハウが生かされているようだ

北京馬家堡保利影城

所在地:北京豊台区南三環首地大峡谷5階

電話:010-87578551

アクセス:地下鉄4号線馬家堡駅下車徒歩8分、A出口から北に進み南三環路を左に進む

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年7月15日

 

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