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目指すはスマートシティー

 

中国では、今年の春節(旧正月)も例年通り「民族の大移動」がありました。かつてと異なるところと言えば、高速鉄道や高速道路を使った「郷帰り(帰省)」が増えたことでしょうか。都市から都市へ、また、都市から地方(田舎)へと帰省先は異なりますが、どこも年々大きく変貌していることに驚かされた帰省客は少なくないでしょう。目下、都市住民が全人口の過半数となり、さらに増えると見込まれていることから、今後も、春節時の帰省ラッシュは激しさを増すことになるのでしょうか。

スマートシティー建設に欠かせない物聯網(IOT)~日本館ライフウォール~(写真・筆者)

著しい経済発展、都市化の進展などで生活環境が大きく変化している中国で、春節などの伝統行事が守られているということは、中国を知る重要な視点といえます。

進む都市のスプロール化

さて、目下、中国の経済社会を大きく変えようとしているのが、本誌でたびたび紹介してきた都市化の進展といってよいでしょう。都市化で都市のスプロール化が進み、都市面積が次第に大きくなり都市人口が増える一方、農村地区との新たなすみ分けが進みます。中国の都市化の目指す方向は、都市では、例えば、増える都市人口に就業を確保し、より良い生活環境を提供、一方、農村では、大規模農業や集約農業で食糧の量的かつ質的安全性を確保するということに集約できるでしょう。

上海万博は時代を先取り

2010年に開催された上海万博のテーマは「より良い都市、より良い生活」でした。万博史上、都市がテーマとなったのは、上海万博が初めてでした。都市化のあるべき姿を先取りしていたという点で、後世にその名を留めるのではないでしょうか。

中国の都市化では、2011年から2020年までの10年間に、40兆元(約580兆円)を投資し、20程度の都市群、180余の地級以上の都市(省と県の間の行政単位)および1万余の城鎮(都市)が建設される予定です。40兆元といえば、2008年の金融危機に際し、中国が財政出動で自国経済の成長を下支えした金額の実に10倍に相当する巨費です。これほど大規模な都市化を推進している国家は、世界史上、おそらく中国が初めてでしょう。

行き届いた都市サービス

中国の都市化で注目されるのが、「スマートシティー」(中国語で智慧城市)の建設の行方にあると言ってよいでしょう。今や、スマートシティーは世界の共通語になっていますが、2009年にIBM社が提唱した「Smarter Planet」に端を発しているとされます。一言で言うと、経済、環境、資源・エネルギー、社会生活(交通、安全、医療など)の隅々に至るまでサービスの提供を可能にするためのあらゆるシステムや過程に智慧(インテリジェンス)が組み込まれている都市ということになります。すなわち、医(「衣」と発音が同じ、衣に比べ医療環境は改善の余地が大きい)、食(特に安全面)、住(主に、農村から都市に移住してきた人の住まい)、行(渋滞などが軽減された交通状況など)、遊(余暇、老後の楽しみなど)、教(充実した教育環境・機会の提供など)に対する行き届いたサービスが提供されている都市ということになるでしょう。

PM2.5もコントロール

中国住宅・都市農村建設部(日本の省に相当)は、昨年12月5日に「国家智慧城市試行に関する通知」など二文件を公布し、全国九十都市(地級都市37、区50、町3)をスマートシティーの第一陣の試行都市としてリストアップしました。第12次5カ年規画(2011~15年)の後半の3年間(2013、14、15年)に、スマートシティー建設で少なくとも800億元(約1兆2000億円)が、例えば、デジタル交通制御、デジタル都市管理、治安、医療情報化、都市の電力、水道、ガス、汚水排水処理、ゴミ処理、公園緑化、環境測定など都市インフラ整備に投入され、その波及効果を含めると、市場規模は2兆元(約30兆円)に達すると報じるメディア(『中華工商時報』2013年2月5日)もあります。

日本館のゼロエミッションシティー(同)

スマートシティー建設には大きなビジネスチャンスが創出されると期待されているわけですが、住宅・都市農村建設部は、今後3年から5年かけて試行都市の「智慧度」を厳格に評価し、今後の「都市病」の発生を抑えるとしています。スマートシティーの建設でビジネスチャンスの創出もさることながら、生活環境の向上には特に力点が置かれているようです。

では、中国にスマートシティーが続々と誕生したらどうなるでしょうか。都市景観の変化は言うに及ばず、都市機能が格段に多様化していくと考えられます。その過程で、例えば、今、中国でも大きな問題となっているPM2.5の発生や都市部での車の大渋滞といった「都市病」はコントロールされるのではないでしょうか。

戦略的互恵関係生かして

また、上海万博の話になりますが、日本館では最先端の水処理機器などの環境関連技術・設備、そして、2020年の未来都市をイメージした街並みの中に散りばめられた未来技術を、実機や映像を組み合わせて展示・実演を行いました。「ゼロエミッションシティー」(中国語で零排放城市)と表示された未来都市に入館者の大きな関心が集まったものです。そこには、床発電、発電窓、宇宙太陽光発電、超伝導新幹線(高速鉄道)、走行発電、CO2回収・削減技術、エコカーなどが展示され、言葉を使ったコミュニケーションができる家庭用ロボットが説明役でした。2010年といえば、スマートシティーのアイデアが出された直後です。「ゼロエミッションシティー」には、そのアイデアが各所に散りばめられていました。日本館に入館した五百四十余万人の多くの人々(そのほとんどが中国人)が、こうした展示・実演に大きな関心を持ったようです。

今や、スマートシティー建設は世界の共通課題です。世界最大規模とされる中国の都市建設は未知への挑戦と言っても過言ではないでしょう。まだ、スマートシティーのアイデアなど夢にも見られなかった一九六〇年代、日本は「都市病」を患った経験があります。その経験が、二〇一〇年の上海万博の日本館の「ゼロエミッションシティー」に反映されていたわけです。  日中両国は、スマートシティーの建設においても戦略的互恵関係を構築できるのではないでしょか。

 

(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。

 

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