「おいしい街」を食べ歩き
高原=文 馮進=写真
中国の人々にとって西安の代表的イメージは、兵馬俑と羊肉泡馍、つまりちぎった馍(餅=ビンの一種)入りの羊肉スープだ。前者は古都の長く豊かな歴史の蓄積を象徴しており、後者は冬の回民街(ムスリムストリート)のにぎやかな人の流れや物売りの声、あちこちから立ち上る熱気と味わい十分の各種軽食を思い起こさせる。これこそが街角から見える西安であり、親しみやすい西安であり、気持ちをリラックスさせてくれる、楽しみの尽きない西安である。
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軽食街の麺の店で熱々のビアンビアン麺と褲帯麺を客席に運ぶ若い店員 |
西安西羊市の回民軽食街は、西安でも特色ある観光名所となっている |
■高カロリーにご注意を
中国のグルメにとって、西安は中国西北地方における美食の要衝であるばかりでなく、成都、広州、武漢などと比肩しうる軽食の都でもある。地元の人に言わせると、西安に来て軽食グルメを味わい尽くそうと思うなら、少なくとも一週間は滞在し、一日三食に夜食も加えて、毎回違った西安名物料理を食べ続けることが必要だという。しかも、西安の軽食は量が多くカロリーも高いため、一食で多種類を食べて効率を上げようというのはまったく無理な相談だ。だから、ゆったりした気分で一つひとつ味わいながら、ついでに西安の街角風景を楽しむにしくはない。
西安市中心部にある回民歴史街区は西安美食の一大集中エリアで、絶対はずせないグルメ遊覧地だ。いわゆる回民街とは、一般に鼓楼から北院門までを南北に貫く大通りを指すが、周辺の化覚巷、西羊市、大皮院を加えて呼ぶこともある。このエリアの歴史は古く、漢代に多くの回族の先人たち――アラビア、
ペルシャなどから来た商人、使節、留学生などがここに住みつき、代々暮らしてきた。大多数が漢族の社会の中で、彼らは自分たちの生活習慣や文化の伝統をしっかりと守り続けている。
現在の回民街はレストランや商店が林立し、訪れる人が引きも切らない観光エリアになっているとしても、依然として地元回族の人たちが伝統の衣装に身を包み、きわめて伝統的な方法で料理を作り、伝統的な書道作品を販売しているのを見ることができる。男たちは群れをなして化覚巷にある清真大寺に礼拝に行くが、その途中で観光客に、有名な石碑の文字や図画、扁額について紹介することも忘れない。その言葉には、自然にわき出てくる誇りが感じられる。
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西羊市回民軽食街にあるビアンビアン麺の店。ビアンの漢字は画数が多く構造が複雑で、地元の文化をよく反映していると言われる |
回族の人たちが多く住む西羊市は、西安市中心部にあり600余年の歴史を持つ古い街並み |
回民街を訪れたなら、ぜひ清真(豚肉の材料が一切入らないイスラム料理)の軽食を試したい。普段は露店の食べ物を口にしない私も、回民街では気の向くままに食べてしまった。ムスリムの人たちは清潔を重んじるため、店の大小にかかわらず衛生状態は良好で安心できるからだ。清真レストランでは料理の主体が牛肉、羊肉だ。羊肉泡馍や烤羊肉串(羊肉の串焼き)のほか、牛肉拉麺(牛肉入り手延べ麺)、羊肉灌湯包(スープ入り羊肉まんじゅう)、羊肉酸湯餃子(酸味スープ羊肉餃子)、臘牛肉(くん製牛肉)、水盆羊肉(羊肉入りスープ)などの料理に、本場陝西省の各種手作り麺や餅を合わせたなら、よほどの意志力がなければ、お腹いっぱいまで詰め込まずに済ますのは難しい。
■クリスマスに縁日!?
西安という都市の街角の姿を知りたいなら、熱気に満ちた回民街で美食を味わうほかに、クリスマスイブの夜に「クリスマス縁日」をぶらついてみるのもいい方法だ。「クリスマス縁日」とは不思議な言葉だが、西安のクリスマスイブの活況をよく言い表している。
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西羊市でも大人気の軽食店・老賈家灌湯包店 | 西羊市にある老米家泡馍店 |
欧米ではクリスマスイブはミサを行い、賛美歌を歌い、家族が集う日だが、中国では若者が友だちとパーティーを開いて浮かれ騒ぎ、カップルがデートでキャンドルライト・ディナーを楽しむロマンチックな日になっている。ところが、西安の人々はその娯楽精神を大いに発揮し、クリスマスと中国伝統の縁日の市を結びつけてしまった。おそらく、中国にはクリスマスイブを西安ほど盛大ににぎやかに過ごしている都市はないだろう。
クリスマスイブも午後になると、西安の中心部にある鐘楼を起点に東西南北に延びる四本の通りがにぎやかさを増し始める。これらの通りは平素から西安でもにぎやかな繁華街だが、イブになると、通りに面した大型デパートもショッピングセンターも縁日の市の背景や添え物となってしまう。歩道の両側のさまざまな露店こそがこの日の主役なのだ。また、ここには花束や風船、ぬいぐるみ、仮装舞踏会の仮面などを抱えた物売りも集まって来る。さらに、きれいな包装紙に包まれたリンゴを売る学生の姿もある。リンゴを意味する中国語「苹果」が「平安」に通じ縁起がいいとされるためだ。携帯電話の液晶保護フィルム、ヘアアクセサリー、カップや皿などの日用品を扱う屋台もあれば、揚げ臭豆腐、ナシの氷砂糖煮、おかゆや餅、河粉を売る食べ物屋台もあり、歩き疲れたらちょっと腰を下ろし、腹ごしらえをすることもできる。
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連れ立って街に繰り出し、独特のクリスマス気分を楽しむ若者たち |
西安城の東門にあたる長楽門南洞(南側の通路)。 長楽門が最初に築かれたのは明代 |
夜7時を過ぎると、四本の通りは見物客や物売りであふれ返る。人の流れは車道にまではみ出し、バスの通行さえままならない状態だ。この一帯はクリスマスイブにはあまりにも人が多くなるため、道路封鎖の措置が取られ、自動車が迂回させられることもあるという。
この盛大なクリスマスイブ縁日の市のにぎやかさは、通常翌日の早朝まで続く。その間、ものすごい数の人々が十字路を東から西に、南から北に歩くのだけが見られる。多くの人は特に何かを買うでもなく、ただ人の流れに従って歩き、この日のにぎやかさ、熱気を味わっている。
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書院門古文化街では、露店主が客の求めに応じて 書画を制作する様子も見られる |
化覚巷にある清真大寺に礼拝に訪れる市民たち |
西安のクリスマスイブは私に強烈な印象を残し、それから数日の間は気が抜けたようだった。西安では高々とそびえる城壁沿いを行き、公園で早朝から鍛錬に励む人たちを見たり、碑林付近で古碑の拓本を買ったりしたほか、書院門歩行街を歩いていて書法愛好者が字を書き、作品を売り、お互いに研究しあう様子も目にした。この平和でおだやかな日常風景にもまた違った味わいがあるが、結局のところ「クリスマス縁日」のようにずっと忘れがたいというほどではなかった。
人民中国インターネット版